part.4-2 微睡まない夢の中

「この辺りだ」

 商人はあるところで立ち止まった。

「この辺りからシェリーとはぐれてしまったんだ……」

「なるほど、そのシェリーというスライムが行きそうな場所とかありますか?」

「んー、私が住んでいる町までの場所は把握していると思うから、もしかしたら帰っているかもと思ったんだが……」

「帰っていなかったんですね?」

「ああ……」

「はぐれてからどれくらい経つんですか?」

「そろそろ一ヶ月になる」

「い、一ヶ月!?この辺りには危険なモンスターがいるんですよね!?」

 僕はてっきりついさっきはぐれてしまったと思っていたのだがまさか一ヶ月も探し続けていたとは思わなかった。それはもう、ダメなんじゃ無いだろうか?と、僕は思った。口には出さないけど……。

「ああ、だからもうシェリーは誰かに喰われてしまっているのかもしれん」

 商人はそう言って頭を抱えた。どうやら彼も薄々感づいているらしい。まあ、当たり前だろうけどね。でも……。

「まだ分かりませんよ?」

 そう言って僕は一拍置く。

「シェリーっていうスライムは人間の言葉を理解出来るんですよね?だったら、通りすがりの誰かに助けられて保護されているかもしれません」

 そうじゃなかったら喰われてるけどね……。

「そうか……そうだな!」

 商人は希望を見いだすように俯いた顔を上げた。やべぇ、希望を持たせすぎたかも……。

「と、取り敢えず目撃情報を当たってみましょう!ええっと、そう言えばお名前は?」

「ああ、失礼、申し遅れた。私は『ルーディ・イェーガー』見ての通り旅の商人だ」

「ルーディさんですね。この辺りで近場の町や村は……」

「カドゥ村がある」

「そうでした!まずはそこへ向かってみましょう!」

 その言葉を皮切りに僕らはカドゥ村へ向かって歩き出した。


◉ ◉ ◉


「ここが、カドゥ村……」

 そう言って僕は目の前の村の入り口を見上げた。木製の柵で覆われた質素な造りで、日本の町並みとはまるで違う。村の中は主に農業が営まれているらしく、畑が広い。僕はその辺りの人を捕まえて話しかけた。

「あの、すいません」

「ん、商人さんですか?」

「え?ああ、えっと……」

 村の住人さんの問いかけに少し戸惑ってしまった。そう言えばルーディさんと一緒に歩いているので僕もその類いに見えなくも無い。僕はルーディさんに目でフォローを求めると、ルーディさんが続けた。

「ええ、そうなんですよ!しかし、ここには商業でやって来たわけじゃないんです。ちょっと捜し物でね……」

「捜し物ですか?一体何を?」

「実は一ヶ月前にこの平原でうちのペットのサージスライムとはぐれてしまって、その目撃情報が無いかとここを訪れたんですよ」

 ルーディさんは流暢にそう言った。そのしゃべり方はまさに気さくな商人といった感じだ。

「サージスライムですか?そう言えば確か村長が……」

 え?マジで!?いるの?そう思ったのは勿論僕だけでは無い。

「本当か!?村長の家は?」

 先程の流暢な口調はどこへやら、ルーディさんは食い気味に問いかけた。

「奥の方に向かうとひときわ大きな建物がありますのでそこが村長の家です」

「ありがとうございます。行こう!ショータ!」

「は、はい!では、ありがとうございました」

「はいよ!」

 言って僕らはその場を後にした。


◉ ◉ ◉


「あの人が言っていたのは恐らくここだろう」

「そうですね、早速入ってみましょう」

 言って僕は目の前のドアにノックした。しかし中からの反応は無い。留守だろうか?

「あの、村長に用事ですか?」

 扉の前で往生していると、近くに居た村人が声を掛けた。

「はい、今村長は?」

「恐らく、イヴァンカさんのところに居ると思いますよ。ここから南西にある小さな家です。案内しましょうか?」

「助かります」

 言って僕らは案内を受け、その家へと向かった。

「ここです」

 村人はとある家の前で立ち止まった。扉をノックして中に居る人に呼び掛ける。

「村長、いらっしゃいますか?客人がお見えです」

 暫くして扉が開き、中から年老いた人が現れた。どうやらこの人がこの村の村長らしい。

「失礼、どちら様ですかな?」

 と、村長。

「私は旅の商人のルーディ・イェーガーと申します。こちらはサイキ・ショータ」

「よろしくお願いします」

 僕の挨拶の後、ルーディさんは続けた。

「実はこの道中で、ペットのサージスライムとはぐれてしまい、今村長の元に居るかもしれないという話しを受けて訪ねて来ました。今、そのスライムは居ますか?」

「ほう、あのスライムですかな?案内したいところですが、何分私も今忙しいもので……」

「そうですか、ではまた改めてお伺いします」

「すみません。夕刻に改めて私の家を訪ねて下さい」

「分かりました」

 言って僕らはその場を後にした。


◉ ◉ ◉


「いや助かったよ、ありがとう」

 ルーディさんは僕にそう言った。

「いえ、僕は何もしていませんよ、それにまだそのスライムがシェリーと決まったわけではありませんから」

「確かにそうだな……」

 僕がそう返すと、ルーディさんも神妙な表情で答える。まあでも話しの流れから考えて村長が保護しているスライムがシェリーだそうに違いない。違ったら今頃喰われているはずだ。……そんなことを考えている内にお腹が鳴った。そう言えば今朝から何も食べていない。

「腹が減ったのか?」

 と、ルーディさん。

「す、すみません、今朝から何も食べて無くて……」

「村でパンでも買うとしよう」

 言って僕らは足を運び出した。

続く……


TOPIC!!

クエスト:シェリーを探せ!


クエスト形式:捜索クエスト

依頼者:ルーディ・イェーガー

受注者:佐伯 翔太


<内容>

ルーディのペットであるサージスライム「シェリー」の捜索。


ルーディは一ヶ月前にカドゥ平原で「シェリー」とはぐれてしまい

その後、今日に至るまで再会出来ていない。


平原内には凶暴なモンスターも存在しており、

シェリーは既にモンスターに襲われて死亡している可能性も否めない為、

なるべく早く見つけ出す必要がある。

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