part.4-4 微睡まない夢の中
夜、三日月の月光と松明の光のみが平原を照らす中、僕達は地図を元に北西へと向かっていた。道中は不穏なほどに静かで街灯も無く、目の前は深淵と言えるほどの暗闇だった。
「ショータ、この暗闇ではぐれたら収拾が付かない。しっかり付いてくるんだぞ」
「はい」
僕らはそんな会話をしながら暗闇の中を進む。道中、様々なモンスターと遭遇し、戦闘となったが、その度にルーディさんはことごとく勝利している。ルーディさんは様々な武器の扱いに長けており、そこから繰り出される手数で敵を圧倒していた。僕はそれを遠くから見ている。いや情けないとか言わないで下さい僕だって重い荷物背負ってるんだから……。
そんなこんなで目的地となる『アモールの泉』がある森にやって来た。辺りは木々が生い茂っており、道が複雑に分かれている。夜であることも相まって不気味だ。
「こっちだ」
僕はルーディさんの後を付いていった。森の中に入ってもルーディさんの足は迷いが無い。ふと、僕は何か柔らかい何かを踏んだ。足下からは強烈な腐敗臭がする。
「げ、死肉……?!」
慌てて僕は足をどけた。どうやら何かの肉食獣が捕食した後らしい。だいぶ時間が経っているようで虫が沸いている。気持ち悪い……。
「!?ショータ、そこはまずい!逃げろ!」
「え?」
不意にルーディさんが大声を出したが、反射神経が追いつかず指示に従えなかった。次の瞬間背中に大きな衝撃が走る。
「ぐああああああ!!」
何かが僕にぶつかってきたらしく死肉に頭をぶつけてしまった。死肉がクッションになったらしく特に怪我は無かったが、
「うわああああああああ!!」
鼻腔内に強烈な腐敗臭が蔓延する。ぬあああ最悪だ!あああああ最悪だ畜生!倒れた反動で後ろを振り返ると、ウサギのような小動物と思われるものがいた。そして次の瞬間、『ザン!』という鈍い音と共にウサギの影が二つに分かれる。松明を照らすと血まみれのウサギがどさりと倒れていた。後ろには斧を持ったルーディさんがいる。
「い、一体何が……」
「良かった、無事だったみたいだな。どうやらこの辺りはアルミラージの縄張りらしい」
ルーディさんの手を取って僕は起き上がった。なるほど、この死肉はアルミラージの食べ残しと言うことだ。
「怪我は無いか?うっ、凄い匂いだぞ?お前……」
「うぅぅぅぅ……」
顔に付いた死肉の破片を取り除いて僕らは先へ進んだ。
◉ ◉ ◉
どうもこんばんは人呼んで『歩く腐敗臭』佐伯翔太です。僕は今、ルーディさんと共に泉の元へやって来ました。しかし、辺りには目的の少女とスライムはいない。
「どうしたものですかね?」
僕は泉の水で顔を洗いながら言った。クソ、まだ匂いが取れない……。
「アルミラージの数が多い。あまり考えたくは無いが……」
ルーディさんは俯いてしまった。こんな危険な森を少女とスライムだけで入っているんだ。元々希望は薄かったと言うことか……。
「帰りますか……」
僕がそう言いかけた時だった。
「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
森の奥から女性の悲鳴が聞こえる。間違いない、例の少女だろう。
「行こう!!」
ルーディさんの言葉に頷いて僕らは走り出した。
◉ ◉ ◉
考えなしに走り出した僕らだが、少女の悲鳴は森の中を反響しており、音源の場所を特定することが出来ない。
「おーい!」
「大丈夫かー?」
僕らは叫びながら悲鳴の主からの返事を待っている。しかし、それ以降声が聞こえてくる事は無かった。その変わりと言ってはなんだけど、目の前には大量のウサギがやって来た。
「アルミラージ?!」
「まずい、囲まれた!」
僕らの周囲に何匹ものアルミラージが取り囲んでいた。流石にルーディさんでもこれはキツいかもしれない。どうやら僕らの声に反応してしまったか……。そう思った次の瞬間だった。
「……え?」
取り囲んでいたアルミラージが一斉に僕に突進してくる。ルーディさんには見向きもしない。
「うわあああああああああああああ!!」
「お、おい待てショータ!」
ルーディさんの忠告も耳に入らず僕は慌てて背負っていた荷物や松明を放りだしてあらぬ方向へ走り出した。全てのアルミラージが僕の後を付いてくる。
「何で!?何で何だよ!!」
こうして僕はルーディさんとはぐれてしまった……。
続く……
TOPIC!!
カドゥ平原
『ガレルヤ王国』の国土の1/3以上を占める広大な平原。
昔はその半分以上が穀倉地帯となっており、麦を中心にした農作物が多く、
平原内は農民や取引に訪れた商人達で賑わっていた。
しかし近年になって『カドゥ村』の住人の高齢化による人手不足や
肉食モンスター、特に『レイジフォックス』の増加、
更に冒険者の不足により急速な衰退が進んでいる。
『カドゥ平原』を国土とする『ガレルヤ王国』内でもこの一件は問題視されているものの、
自国の経済力や軍事力の不足から、現在に至るまで解決の糸口は見えていない。
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