part.1-2 「死」から始まる夢物語
学校に到着すると僕と茜は別れて教室に向かう。男女が校内を一緒に歩いてると目立つからだ。それでクラスメイトに茶化されるのは嫌だからね。教室では基本何も喋らない。僕は人間では無く空気である。それは授業中も昼休みも変わらない。
「おっ?可愛いお弁当じゃん!」
でも今日の昼休みは違った。いつも通り一人でご飯を食べようとすると、一人の男が話しかけてきた。クラスメイトの「
「もしかしてだけどさ、それ住屋の弁当じゃね?」
「……何で知ってんだよ?」
「やっぱそうだったのか!?いやーたまにあいつこの弁当箱使ってるからさ!」
人から話しかけられた上に図星まで食らって僕は少し不機嫌になってしまう。特にこういう『誰にでも仲良く』するような人間は苦手だ。少なくとも僕と同じ人種では無い。
「住屋の弁当って事はさ?やっぱ付き合ってたりするの?二人はさ?」
「付き合っちゃいねーよ!誤解だ誤解!」
和也はグイッと顔を近づけて小声で話しかてきた。いや、近いっての!
「なんだぁ、つまらん……」
和也はがっかりと肩を落としてそう言った。思春期の子供達はほんっとこーゆー話しが好きだねー(棒)。
それから和也はちゃっかりと僕の席で昼ご飯を食べた。どうやら彼は茜と同じ陸上部に所属していてそれなりに仲が良いらしい。……そう言えば茜の部活動の姿はあんまり知らないな。
「なあ武田、茜って部活動の時はどんな感じ?」
僕はお弁当のウインナーを口に運んでから尋ねた。
「んー、どんな感じって言われてもなー……あいつハードル走担当で、何度も大会に出ているくらいには優秀かな?賞も取ったことあるし結構出来ると思うぞ」
「へー……」
聞いておいて心底どうでも良さそうに生返事を返した。賞かぁ、何か僕にも出来ることがあったらな……。
それからチャイムが鳴って午後の授業。それなりに聞き流して休憩後の穏やかな睡魔と仲良く過ごす。
授業が終わり、帰り支度をすると帰るのでは無く、部活に向かう。帰宅部と思われがちだが、僕は科学部の部長なのだ。
「あ、しょーた!」
教室を出て化学室に向かう途中で僕は茜に呼び止められた。
「しおりちゃんのお墓、今日も行くでしょ?」
「ああ……」
と、茜の質問に答える。
「今日はあたしも行こうと思ってるの、だから私の部活が終わるまで待っててねー」
「はあ!?」
茜はそう言い残して走り去って行った。いや、今日10分位で部活終わらせようとしてた所なんですけど!?
◉ ◉ ◉
化学室に到着した。今日の作業は特に何も予定してはいない……はずだった。
「うわ、何これ?」
化学室の教卓にぽつりと置かれた1本のビーカー、張り紙に「えんさん」と殴り書きで書かれていた。いや、『塩酸』くらい漢字で書けよ!
「要はこれを廃棄しろ言うことですな……」
僕は渋々作業を始める。とはいえ捨てれば良いだけなので今回は難しい作業では無い。
「これでよし……!」
廃液を流しに捨て、ビーカーを洗って乾燥機に放り込んだ。そして携帯電話を取り出す。
『もしもし?』
「あー僕です」
『え?何ですか?詐欺ですか!?』
「違います岡田先生!佐伯です」
電話の相手は「
「例のやつ、やっておきましたよ」
『ほーい、ありがとさん』
電話の向こうから陽気な声が聞こえてぷつりと切れた。さて、これでお仕事は終了だ。僕は本来の目的を果たすために化学室の流しに向かった。鞄から弁当箱を取り出してこれを洗う。
「……」
『ジャー』という水の音が流れ、その音源に弁当箱を突っ込む。洗剤でスポンジを泡立てて「冷たい……」とかぼやきながら弁当箱を洗っていた。
◉ ◉ ◉
『僕は、立派な人間か?』
不意に……本当に不意にそんな言葉が出て来た。答えは無論、『NO』である。何故なら一人の家族を『独り』にしたからだ。その結果、事態は取り返しのつかない所まで行き着いてしまったのである。そしてその後、僕は『逃げた』のだ。
『何から逃げた?』
家族と向き合うこと、かな。母さんも父さんも現実逃避をした。それはいい、現実逃避でもしないと死にたくなるからね。でも、僕はダメだったんだ。誰かが何とかしないと皆バラバラになってしまう。きっと僕がどうにかしないといけなかったんだ。例えば『あの人』のように、強く生きていれば……
『強く、なりたい?』
そうだ、強く……強くなりたい。
『キミは、もう一度やり直したいかい?』
『やり直す?』やり直したいね!全っ部1からやり直したいさ!!それさえ出来れば……!
……?『これ』は僕じゃない?じゃあ、『キミ』は誰?
『僕は……』
続く……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます