涙まみれのこの異世界転生に救いはないんですか!?

ぷらすみど

§.1 空の隙間より愛を込めて

part.1-1 「死」から始まる夢物語

 それは、突然に起こった事だ。

「しおりー、朝だぞー」

 いや、もしかしたら僕が気づけなかっただけなのかもしれない。

「もう朝ご飯出来てるってよー」

 今考えると栞は必死に誰かに救いを求めていた……ような気がする。

「全く、いつまで寝てるんだよ……」

 僕は寝ぼけた頭で愚痴をこぼしながらドアを開けたんだ。

「っ!?」

 その時確かに世界が凍り付いた。栞の足は宙に浮き、首には太いワイヤーが肉を切る勢いで絡みついていた。そう、栞は首を吊っていたのだ。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 ショックに理解が追いつく間もなく僕は叫んだ。身体は言うことを聞かずに勝手に足を曲げ、地面に跪かせる。僕はそのまま前を向くことが出来ずにうずくまった。初めてだった……初めて『人の死』を目の当たりにしたんだ。


 それからはもう滅茶苦茶だ……。

「翔太、ご飯出来たから栞呼んできなさい」

「母さん、栞は……もう……」

 母さんはこんな感じ、いつまでも栞の死を認めない……。

「呼んで来なさいってば!!!!!」

「居ないんだよもう!!栞は……死んだんだ」

「そんなわけ無いでしょ!!悪い冗談は止てよ!!!」

 母さんは僕の首を掴み、強く握りしめた。僕は必死に藻掻いて何とかその手を解くと、母さんは力を使い果たして音も無くその場に倒れ込んだ。ずっとこの繰り返しだ……。

 え?父さん?仕事だよ。最近は忙しいみたいでずっと家に帰ってない。まあ、『忙しい』っていうか『わざと忙しくしてる』が正しいかな。どうやら仕事に依存しているらしい。でも良いんじゃ無いかな。どうせ家に帰ったら仕事じゃなくて酒に依存するだけだし……。

 あの日から僕らの時間は凍ったまま、時計の針だけがただ精密にその1秒を刻んでいた。


◉ ◉ ◉


 あれから1ヶ月、母さんは完全に心を壊して精神病院に入院、父さんは相変わらずワーカーホリックで家に帰らない。実質家に住んでるのは僕「佐伯 翔太さいき しょうた」だけだ。

「んん……もう朝か……」

 こんな状況でも朝は来る。全く、土日以外の朝は残酷だ。僕はゆっくりと身体を起こし、階段を降りてリビングに向かった。朝ご飯はカップ麺、最初は自炊してたけど何かもうめんどくさくなって最近はほとんどこれだ。お湯を沸かしてる間に着替えを用意して、お湯が沸いたらカップ麺に注ぐ。で、出来上がる3分間を待つ間に着替えを済ませる。単純な流れ作業だ。

 ご飯は律儀にリビングで食べる。家には誰も居ないしもうそんなことしなくて良いんだけどね。『オペラント条件付け』ってやつ?……いや、ちょっと違うか。まあそんなわけでそういう癖が付いてるんだよ。

 ご飯食べて歯を磨いたら準備完了、家を出て高校に向かう。学校までの距離は徒歩通いで歩いて10分位でそんなに遠くない。『あれ?意外と近いな』って最近思った。おかしいな、もう2年も通ってる学校のはずなんだけど……。

 ……ああ、そうか。妹の栞と一緒に通ってたからだ。あいつ歩く速度遅いんだよな、いつも僕が無意識に合わせてたから昔は通学時間がもうちょっと長かった気がする。妹の歩く速度に合わせられるなんて、僕はちゃんと『お兄ちゃん』出来てたんだね!……いやそんなわけ無いか。

「しょーた!おはよっ!」

 不意に後ろから掛かる明るい声と少しのボディタッチ、僕のクラスメートであり僕(と栞)の幼なじみの『住屋 茜すみや あかね』だ。

「今朝も早いねー、ちゃんとご飯食べた?顔色がよろしくないみたいだけど」

 茜はわざとらしく僕の顔をのぞき込む。

「母さんかよ、ちゃんと食べてるって……」

 僕は心底ウザそうな顔で返答した。まあ実際ウザいとは1ミリも思ってないんだけど……これは僕なりの照れ隠s(ry

「ふーん?何食べたの?」

「まああれだ、ご飯に味噌汁、それから目玉焼きにシャケがあったから塩焼きにしてだな……」

「おー、それなりに豪勢だなー」

 茜は棒読みで反応した。うーん、嘘吐いたってバレてますね、これは……。

「で、本当は?」

 はいやっぱり……。

「……カップ麺と水」

「それはそれで美味しそうだね」

 僕は不機嫌そうに返答すると、茜は『にしし』と悪戯っぽい笑顔を見せてそう言った。

「でもそれじゃ身体持たないよ?朝はちゃんと食べないとね!」

「分かっちゃいるんだけどね……!?痛てっ!」

「そんなしょーたにお弁当を作ってきたのだ!」

 茜はそう言いながらお弁当の角をぶつけてきた。僕はそのお弁当を受け取る。ピンク色の可愛らしい布地に包まれたお弁当はまだ温かい。なんだよ……結構恥ずかしいじゃないか。

「あ、ありがとう」

 僕は恥ずかしさにどもりながらも何とかその言葉を口にした。

「本当はしょーたん家に行って朝ご飯作りたいんだけどね!私は朝が弱いのだよ……」

「しなくていいよそんなこと!」

 『ふわぁ……』とあくびする茜に対し僕は貰った弁当を鞄に放り込みながらそう叫んだ。


 『住屋 茜』さっきも言ったけど彼女は僕の数少ない友達の一人だ。それと同時に妹である栞の友達でもある。と言うか、茜は僕よりも栞の方と仲が良かった。どちらかというと僕はついでに仲良くなったという感じだ。だからこそ栞の死を茜は僕らと同じ位に悲しんでるんじゃ無いかと思ってる。それなのにこんな感じで毎日僕に明るく接してくれるんだ。

「ありがたいし、敵わないな……」

 僕は虚空に向かってそう呟いた。

「え?何か言った?」

「なんでもねーよ!」


続く……

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