第152話 情報は大事



「じゃあ、俺はここで」


 あれからラグナードに宿の前まで送ってもらった。 結構遅くなっちゃったしリノには会わずにこのまま帰るという。


「うん。遅くまで色々とありがとう、ラグナード」


「ああ。明日も早いから早く寝ろよ」


「ふふっ、分かってるよ。また明日ね。ラグナードも気をつけて帰って」


「俺は心配ないって。でも、ありがとな。じゃあまた」


「うん。おやすみなさい」


「おう」


 軽く片手を上げて返事をしてくれた後、彼は自分の泊まっている宿へと帰っていった。




 色々と思うところはあるけど、これ以上ないほどいい結果になったと思う。


 怒濤のように目まぐるしく変化した方針とラグナードの的確なサポートのおかげで、あっという間に町を出る準備が整ってしまった。


 のんびりとしていた思考が蹴っ飛ばされたよね。




 初めはアイテムを揃えて、暫くこの町でキノコ狩りをする予定だったんだ。


 本当は秘密を抱えてて目立ちたくない私達は、町から早く移動したかったし、その方が安全なのも分かっていた。


 ただ、何しろ二人とも資金が底をついていたから。冒険者としての能力も資金もギリギリの底辺を這ってる状態だったからさ。無理だって諦めてた。


 だって旅支度も整えずに移動したら、この世界ではマジにヤバいから。命の保証が危ういから。


 安心して町から出れないうちは、移動は見合わせようねってリノとも話してたんだ。


 ラグナードがその考えは甘いって一刀両断した時、この町の居心地のよさに安心してしまってのんびりし過ぎたんだって気づいた。


 本当、彼がいなかったらどうなっていたことか……頼りになる先輩冒険者さんには感謝しかないよね。






「ただいま」


「あ、お帰りなさい。ローザ」


 ドアを開けて声をかけると、リノが顔を上げてニッコリと微笑みながら挨拶を返してくれた。


 食事も済ませ、今は宿の部屋で細々とした荷物を整理してくれていたらしい。


「見てください、ローザ。もう、ほとんど片付きましたよ。元々あんまり散らかってなかったですけどね」


「本当だ。随分とスッキリしたね。この辺にあった、保存食とか薬草とかも片付けてくれたんだっ」


「はいっ。こっちの袋にまとめてあります。後でチェックしといてくださいね」


「わぁ、助かる。ありがと、リノ」


「いえいえ。これくらい何てことないですよ、エヘヘ」


 お礼を言われて、ちょっと照れくさそうな顔をする彼女も可愛い。


「あ、そうだ。これ買ってきたやつね」


 手に持っていた袋を、二人の間に下ろして中身を取り出す。


「まずはブローチ型の隠蔽の魔道具、こっちがリノの分だよ」


「ありがとうございます。え……って、あれ? 魔石の濃さが違うんですけど……もしかしてこれってレベルが違ったりします?」


 受け取ったリノは、手渡された魔道具を見て即座に微妙な石色の違いに気づいたようだ。


「おぅ、凄い。よく分かったねぇ」


「そりゃ、結構魔道具屋さんに通ってますから。鑑定スキルがなくともこれくらいは……ということは私の持っている方のが少し濃いから、魔道具としてのレベルが高いんですか?」


「フフフッ、正解です!」


「そんな……なんでですかっ。ローザだけレベルが低い魔道具を買って……あ、お金が足りなかったから仕方なくとか?」


「ううん、違うよ。これで良いの」


「でも……」


「あのね、隠蔽スキルの練習をした時、私の方が早く常時発動できそうだったでしょ?」


「はい」


「エルフは森の中で暮らしている種族だからか、そのコツを掴みやすいらしいの。だから、リノより早くスキルが生えてくるだろうって。自分で補える予定だから、あんまり高レベルの魔道具は必要無いんだよ」


「自分で補える……あっ!? そう言えばラグさんが、魔道具に頼り過ぎるとスキルが伸びないって言ってましたけど、それですか?」


「うん。これはあくまで今まで持ってないスキルが取れるって場合だけだからね。レベルアップには役立たない」


「そう、なんですか」


「そうなの。レベル上げにはいつも通りの地味な努力が必要です。一緒に頑張ろうね」


「分かりました。努力なら任せてください!」


「うん。ま、それはそれとして、ラグナードからお得な裏技を教えて貰っちゃったんだよね!」


「えっ、裏技? すっごく気になりますっ。お得っていうところが特に!」


「でしょ? あのね……」




 こういったスキル補助系の魔道具は、意識して使い続けるとスキルとして発現しやすくなる。

 種類にもよるが、魔道具無しで練習するよりもコツを掴み易く、早く習得出来る可能性が高いらしい。


 そして自分のスキルとして習得する為には、レベル1の魔道具よりレベル2の方が、より特徴を感じ取れて覚えやすいらしいということも。なので、既にコツを掴みかけているローザには高レベルの魔道具は必要ないんだと。


 そして一旦覚えてしまったら、売って資金買えることも出来るからお得なのだ。その方がスキルレベルが上がりやすいので、良いこと尽くめである。




「ね、凄いでしょ? 余すことなく利用出来て、まさに一石二鳥ってこと!」


「成る程! すっごくよく分かりました。まさかそんな抜け道があるだなんて……凄いです!」


「だよね? 私も驚いた」


 うんうんと頷いて同意する。


「新たなスキルを獲得することって、魔力が少ない人族とってはとても大変なんですよ。だがらこそ、私達は積極的に魔道具を開発してきた歴史があるんですから」


「でしょ? まぁ種族や個人の差もあるから、身に付かない場合もあるみたいだけどね」


「それでも凄いです! そんな裏情報、村では誰も知らなかったですよ!」


 興奮したようにリノが言う。


「そうなんだ。じゃあ内緒にしといた方がいいよね。リノ達が知らないってことは多分、秘匿されてるんじゃないかな。彼も私達だから教えてくれたんだと思うし。だから絶対、誰にも言わないようにしよう」


「そ、そうですね。ラグさんからの信頼を裏切りたくないですし。大切な情報ですもん、取り扱いには十分に気を付けましょう」


「うん」


 二人して真剣な顔になり、コクコクと頷き合った。











――――――後書き――――――


読者の皆様、この作品では大変お久しぶりになります。作者です。

久々の更新でしたが、いかがでしたでしょうか?

待っていてくださった方、もしいらっしゃいましたら大変お待たせしてすみません。そしてお読みいただき、ありがとうございましたm(_ _)m♡


大好きな作品なのですが、中々筆が進まず途方にくれていたらいつの間にかびっくりするほど時間が経っていました……。

もうダメかと諦めかけましたが、更新が止まっている間も読みに来てくださる読者様の存在に励まされ、ようやく続きを書くことが出来ました。感謝です。


今後の予定としては多分ですが、後一話ほどで第一章が終わり、今より更に辺境の地の開拓村、ジニアの村に舞台を移して第二章に入る予定です。

もう当初のプロットは原型をとどめておりませんので、行き当たりばったりになってしまいますが(笑)、これからも大事に優しくて温かい異世界のお話を書いていきたいと思います。


のんびり進行でもよろしければ、お付き合いいただけると嬉しいです。


それでは、後書きまでお読みいただきありがとうございました。



                        飛鳥井 真理





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