第106話 白チーズ茸
彼女と合流した後、ラグナードの『索敵』を上手く使って、魔物を避けながら移動を開始した。
これ迄のところは昨日よりも魔樹が少なく、スモールトレント付きの個体など、大きくて緊急性の高いものにも出くわしていない。
この辺りは思ったより森の状況はひどく無さそう。このまま見つからないといいなぁ。
短いお昼休憩挟んで、また調査を再開し道なき道を進んでいた、その時……。
前方に白くて丸い謎の物体がいくつもくっついている、奇妙な樹木が見えてきた。
何だろ、これ?
気になったので『鑑定』してみると、この白いのは「白チーズ茸」という茸らしい。美味しそうな名前! なんかもう、聞いただけで美味しいのが想像できちゃうっ。
ワクワクしながら更に詳しく視てみると……。
【 白チーズ茸
効能:滋養強壮作用
可食:生食不可
チーズのような風味があり美味
乾燥させると長期保存できる
採取:球型の茸で軸は殆どないが、樹の幹にしっかりくっついている
25~50cm程の真っ白な茸を採る 】
魔法的な効能はないみたいだけど栄養豊富みたいだし、わざわざ美味って『鑑定』に出てるくらいだから絶対おいしいよね。食べてみたいな!
ラグナードによると、居酒屋でも人気の食材らしく、雨の月から夏にかけてが主な収穫時期だから、特に今の時期は品薄で買取価格もいい値が付くそう。
薄く切って軽く両面を炙ってやると、チーズの風味がいい感じにでた美味しいおつまみになるし、一定の温度を越えるとトロトロに溶けちゃう性質があるみたいで、そうして食べるのもまた堪らなくいいんだとか。
小鍋で溶かしチーズフォンデュのようにして食べたり、パンの実を食べやすい大きさに切った上に乗っけてグラタンのようにして食べたりと、お店によって創意工夫がされ、とっても美味しいらしい。
なんか聞いてるだけでお腹空いてきちゃったっ。
木の幹にポコポコと寄生していて、大きいものは両手で抱えきれないくらいになる真っ白なキノコ。見た目はオニフスベに似ているかな?
二日で大きくなり、十日程で胞子を噴出してしぼんでしまうので、ちょうどいい収穫時期に出会うのが難しいんだとか。
でも大丈夫。目の前には、今が食べ頃のがいっぱいくっついている。私達のパーティーには『幸運』スキル持ちが二人もいるからか、いい時に来れたみたいだねっ。嬉しいな!
白チーズ茸は、一旦、収穫さえしてしまえば萎むことはなく、乾燥させて長期保存もできると鑑定結果にも出ているし……。
「これはもう、採るしかないね!」
「ですね! 私の村では沢山採れたとき、贅沢に厚く切ってステーキにして食べてましたよっ」
「なにそれ美味しそう! 自分達用にもぜひ欲しいなっ」
「よしっ。じゃあ、魔樹の捜索も上手くいっているし、今日はこれを収穫してから帰るか!」
「「賛成!!」」
というわけで、張り切って収穫し始めた。ただ、大きな白チーズ茸から採る予定なので、沢山あってもそんなに数は採れないかも。背負える分だけしか無理だし、三人の背負子はすぐにいっぱいになりそうです。
それに『鑑定』結果に出ているように幹にしっかりとくっついているので、一つ採るのに時間もかかるし……美味しいって聞いちゃうと、もっと欲しくなるけど仕方がないよね。
硬いので万能ナイフのノコギリ部分を使って、一つずつ丁寧に切り取っていった。
まだまだいっぱい残っているので、また近いうちに来ようと約束して今日はもう帰る事にした。
その日の夕方、町に戻ってから、白チーズ茸を直接お店に持ち込んで買い取りして貰った。
ラグナードの行き付けの居酒屋さんと、それぞれが宿泊している宿屋の併せて三ヶ所なんだけど、どこでも大層喜んでくれたんだよね。
やっぱり品薄になっているらしく、今の時期は市場でも中々手に入らないそう。
結局、自分達用に一個ずつ確保する予定のものも、懇願に負けて泣く泣く引き渡してしまった。後で食べようと思ってたのに残念っ。
まだまだあったことを伝えると、ぜひとも追加で納品して欲しいと依頼されたので、三人で相談して明日また採りに行くことを決めた。今度こそ自分達用にも欲しいからね!
お店からすれば、市場での価格が高騰しているので冒険者から直接買い入れする方がお得だし、私達も冒険者ギルドよりかなり高い値で買ってもらえるしで、双方共に利害が一致したからいいんだけど。
それに、そろそろブーツを買い換えたかったのでお金が必要だったから。
連日、ほぼ人跡未踏の地に通って戦闘を繰り広げているせいなのか、一月も経っていないのに、私とリノのはすでにボロボロになっちゃってるんだよね。
ラグナードに聞いたら、私達が履いているような普通のブーツは、森での活動だとすぐ駄目になるので、ちゃんと「物質強化」の付与魔法が掛かった物を買った方がいいとのこと。それでも一ヶ月持つかどうからしいけど。
魔道具屋さんで売っているというので、この後、ギルドに行く前に寄って行くことになった。
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