第107話 幻術耐性の魔道具



 と言うわけで、近くにある魔道具屋さんまで来ました。


 それぞれのお店は歩いて行ける距離で、この世界的にはとっても便利なんだろうけど、もっと便利でコンパクトに買い物出来たコンビニやショッピングセンターなんかを知っている身としては不便に感じちゃうんだよね。そんなの贅沢だってわかっているんだけど。




 お店のカウンターに座っていた店主のマールさんが買取に応じてくれたので、ラグナードが背負子から例の物を取り出して渡す。


 霧の魔樹の樹液を固めた物だ。


 この素材は稀少で、高い幻術耐性効果もあるみたい。直接持ち込むと魔道具を安く作ってくれるらしいので、付与魔法付きのブーツと一緒に注文するつもりなんだ。



「これはまた、いいのをもってきたねぇ。細工しやすい固さだし、この色だと聖魔水晶が溶け込んでいるんじゃないか」


「……その通りだ」


 一目みて素材を言い当てましたよ。さすが高レベルの『鑑定』スキル持ち。

 ラグナードも『鑑定』はレベル3だと言ってて、それでも店主さんのスキルを看破出来ないってことは、更に高レベルだってことだもんね。当然か。



「随分たくさんあるけど……これ、全部売ってくれる気はあるのかい?」


「ああ、一部を除いてそのつもりだ。三人分の幻術耐性の魔道具を注文したいから、その残りになるが……」


「いいともさ。魔道具のお代もそこから引かせて貰うってのでいいね?」


「頼む。それと二人に物質強化付きのブーツを見繕いたい」


「わかった。色々あるから後で選んで貰うよ。じゃあまずは、この樹液を硬化して貰おうかい。安く上げたいんだろ?」


 茶目っ気たっぷりにウィンクしながらそう言われた。さすが、冒険者の懐事情をよくわかっていらっしゃる。

 錬金術師に頼むとお高くなるので、節約のためにも自分たちに出来る作業……霧の魔樹の樹液を硬化す魔法処理を自分達の分だけしてしまうことに……。




 マールさん曰く、聖魔水晶が溶け込んでいると、より高レベルの魔道具を作れるそうなんだけど、ギリギリまで水分を抜き固めることで純度が増して、更に高い幻術耐性の効果を期待出来るとのこと。なるほど、頑張ろう。


 不純物がない一番きれいなところを『鑑定』して貰ってから、用意してくれた専用の手袋を使って手に取る。この柔らかさだとまだ、皮膚が溶けちゃうからね。

 出来上がりの大きさを想像し、縮む事も考えて大きめに三つ、切り取っていく。

 念のため、私の聖魔法で『浄化』してみたら、一層、綺麗になったと『鑑定』結果に出たらしく、満足そうに頷かれた。



 次に、指示された通り、生活魔法の『乾燥』を使って硬化を開始する。三人とも使えるのでそれぞれ自分のをやっていくんだけど、早々に魔力量の少ないリノがへばってしまった。

 でも一番、総魔力量が多いラグナードが彼女の分を手伝ってくれたので、無事に三つとも仕上げることが出来たよ。



「どれどれ? ……よし、これはいい。きれいな仕上がりだよ」


「どうも」


 はあ、疲れたぁ……。仕事帰りで魔力量が回復していないときにするもんじゃないね、これは。

 ようやく停止の合図が来たときはもう、魔力がギリギリになっててクラクラしちゃった。


 そうやって頑張って作ったものは、カチコチに固まって琥珀そっくりの見た目になった。

 これならいいのが作れるとお墨付きをもらえたので、やった甲斐があったよ。明日にはもう出来上がるらしい。

 そんなにすぐ仕上がるのか……やっぱり専属の付与魔法師とかがいるんだろうなぁ。




 注文するに当たって、リノは既に「幻術耐性+1上昇」のブレスレット型魔道具を持っているけど、どうしたら一番幻術耐性を強化出来るか相談してみた。


「この魔道具には、トレントの幻術により特化した耐性を付与してある。だがその分、それ以外の魔物や人が使う幻術対する耐性には少し弱いんだ。今回はこんなに良い素材があるんだし、そこに重ねて付与した方が効果が高まるよ」


「なるほど。売ってしまうよりも上書きして足した方がお得なんですね?」


「そうさね。相乗効果で、トレントの幻術耐性もプラス2上昇くらいにはなるはずだし」


「おおっ、それは良いですねっ。分かりました、それでお願いします」


 掛け合わせる事で幻術耐性が上昇してお得だと教えて貰ったので、リノの「幻術耐性+1上昇」のブレスレット型魔道具はお店に預ける事にした。


 その後、私とラグナードも新たに作る魔道具の型を聞かれたので、同じブレスレットにして欲しいとお願いしておいた。




 さて、霧の魔樹の樹液を使って作る魔道具の効果なんだけど、まずはトレントだと迷いの魔樹はもちろん、霧の魔樹レベルの幻術にまで効くものが出来そうだと教えてくれた。


 霧の魔樹って割りと珍しいトレントで、この辺りでは滅多にお目にかかれないらしく、その樹液に聖魔水晶が沢山溶け込んでいる素材は更に稀少で上質なんだとか。色んなタイプの幻術を破る効果を期待できる。


 獣人族もエルフ族も元々魔樹には耐性があるとはいえ、それ以外の幻術、例えば、他の魔物や人族の作り出した魔方陣魔法を使った幻術には耐性がないものもある。

 特に魔方陣魔法は、人族が長寿種族に対抗するために研鑽してきた歴史がある為、私達には効きやすくなっているみたい。


 予防策としては、魔方陣魔法で作り出す幻術に詳しい人族に、耐性のある魔道具を依頼するのが一番いいという。なので、私達とリノでは微妙に違う幻術耐性を付与して貰う事になった。


 ラグナードはどうやら、私が記憶喪失になって見知らぬ森の中にいたと聞いたときから、機会があれば護身のためにこういった魔道具を身につけさせたいと思って色々考えてくれていたらしい。

 素材を持ち込みにして、お手頃価格で新人冒険者の私でも、手の届く範囲のものが何かないか、とね……。


 ――そんなに考えてくれてたなんて知らなかった。すごくうれしいっ。


 ラグナードに、なんでそこまで偶然会ったに過ぎない私を気づかってくれるのか聞いてみたところ、実は初めて会ったときに『鑑定』で私を視たらしく、十六才のエルフの子供だと知ったからだと教えてくれた。

 何か事情があるのかもしれないとその場では聞かなかったけど、何でこんな幼子が一人でいるんだとびっくりしたらしい。


 シルエラさんにも驚かれたけど、獣人族も百才を越えないと里から出ないんだって。

 人族の町で小さな子が一人で冒険者をするなんて、危なっかしくて放っておけないからとこれまでも様子を見てくれていたらしい。

 シルエラさんの事も知っていて、保護者代わりのエルフが町中に出来てほっとしたと教えてくれた。全然知らなかった。



 そんな事情もあって、あっさりとパーティーに加わるのも了承してくれたみたいです。


 幼児扱いされるのは正直戸惑っちゃうけど、そのお陰でこうして助けて貰えてるんだよね。ちょっと複雑な気持ちあるけど……でも本当に嬉しいし、有難いと思っているんだ。お世話になります。


 やっぱり、こんなに次々といい人達に巡り会えているのも二人分の『幸運』スキルのおかげなのかなぁ?

 親切にしてくれる町の人達のためにも、魔樹の討伐を頑張ってこの町を森の侵略からはやく守りたいな……。




 その後、リノと私のブーツを買うために、お店の奥にある倉庫の内の一つに案内された。こんなに奥行きがあったんだね。この部屋だけでも、表の店舗と比べるとかなり広いし。


 早速、いろんな種類の付与魔法が掛かったブーツがずらりと並んでいる所に連れて来てくれた。


 う~ん、こんなにあるとどれにしようか迷っちゃうなぁ。


 決めかねていたところ、ラグナードとマールさんが相談して、私には「物質強化」と「軽量化」が付与されたものを、リノには「物質強化」と「俊足」が付与されたものを何足か選んで持ってきてくれた。


 さっそく試し履きしてみると……。


 リノのはぴったりとサイズが合うブーツが見つかりよかったんだけど、残念ながら私のはどれも大きくて、爪先にゆとりがあり過ぎるやつしかなかった。


 ただ、それくらいなら今すぐここで、私の足に合わせて直せるとのことなので、『鑑定』で一番良い結果が出た茶色のブーツを選んで渡したところ、専用の針と糸を使って直してくれることに……。

 あっという間仕上がり、その鮮やかすぎる手つきをみて、マールさんは『裁縫』スキルか何かを持ってるんだろうなぁと思った。


 私達が履いていたボロボロのブーツは、お店で処分してあげると言ってくれたので、お言葉に甘えてることにした。そして、その場ですぐ、買ったばかりの新しいブーツに履き替える。


 内側には柔らかい素材が使ってあり、新品だけどすごく履き心地がいいっ。これなら靴擦れもしなさそう。


 付与魔法が二つもついているから、やはりお値段の方はお高くついてしまって、またまた金欠になっちゃったのが唯一、残念なところなんだけど、それ以外は気に入った。


 お直し済みのピタリと足に添うブーツは歩きやすくて、なにより体が軽いし! 長時間歩いても疲れにくそうだし、持久力のないエルフにはうってつけだね。いい買い物が出来てとっても満足ですっ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る