第108話 調査結果



 魔道具屋さんでたくさん買い取ってもらったおかげで、背負子に背負えるだけ目一杯詰め込み持ち帰ったはずの荷物もすっかり減った。

 おかげでホーンラビットの毛皮の他は、大小様々な大きさの魔石を残すのみとなった。


 そこで、もう日が暮れかけて小腹も空いてきた事だし、冒険者ギルドに行く前に夕食前だけど何か三人で食べようという話になったんだ。


 向かったのは、ラグナード行きつけの居酒屋さん。メイン通りから外れた人通りの少ない路地裏にある小さなお店なんだけど、先程白チーズ茸を納品した際に、それを使った料理を一品サービスするから後で来てくれと言われたんだよね。さっそくお邪魔してしまった。


 で、食べさせて貰ったんだけど、想像してた以上の味ですっごく美味しかったんだよね。


 軽く炙って焼き目をつけたパンの実を食べやすい大きさにカットし、その上にスライスした白チーズ茸を乗っけてトロリとするまで熱が加えられていただけのシンプルな料理なんだけど、その素材の味を丸ごと活かしましたって料理が、堪らなく良かったんだ……。


 三人共あっという間に食べ終わっちゃった。終始無言だったのは美味しすぎたせいですっ。

 ちょっと物足りないけどこれから夕食だしこれくらいでいいかって思ってたら、リノだけは自腹で何回かおかわりしてた!

 品薄なのでとさすがに三回以上は出してくれなくなって、じゃあせっかく来たんだからとちゃっかりこの店お薦め料理まで注文して食べちゃってた……。

 いつもの事ながら、皿の上にこんもりと盛られた料理の山が彼女のお腹に収まるのに大して時間はかからなくて、まるで手品を見てるみたいに見事に消えていったよ……相変わらずいい食べっぷりですね!?




 と、ともかくお味にはとっても満足はしたんだけど、少量だったからさ。どうせなら今度こそ、白チーズ茸尽くしのお料理をお腹いっぱい食べたくなったよね。

 分厚く切って贅沢にステーキ風にしたりとか、お肉と野菜をたっぷり入れた煮込み料理とか、トロトロに溶かしたものにパンの実と香草を入れてリゾット風にしたやつとかねっ。


 あと一ヶ月ちょっとで雨の月に入るから、その時にはあちこちからニョキニョキと生えてきて好きなだけ食べれるらしいけど、あの美味しさを知っちゃったらそんなに待てないし。


 偶然にも今の時期にあれだけ生えてる場所を見つけられたので、絶対にもう一度白チーズ茸を採るんだっていう思いを新たに、居酒屋を出たのでした。





 メイン通りには魔道具で作られた街灯があるとはいえ、外は随分と暗くなっていた。


 お気に入りの懐中時計を取り出して見てみると十九時近い。こんな時間に宿の外にいるのも、冒険者ギルドへ行くのも初めてだ。暗くなってからは用心の為、一人で外出しないようにしているからね。


 小さな辺境の町なのに屋台も賑わっているし、まだまだ人出が多い。


 トラブルになりそうな目立つ外見を隠すためにも、しっかりと外套のフードを目深に被り直してから、二人の後に続いて冒険者ギルドの中に入っていった。




 受付は、たくさんの冒険者で溢れていた。


 ラグナードが買取カウンターに並んでくれたので、私とリノは壁際の人が少ない場所で待っていることにした。


 まずは担当の職員に査定をしてもらう為に素材を預けるだけなので、割りとはやく列が動いて行く。

 すぐにラグナードの番が来て、ギルド職員と何かを話した後、こっちを見て二階を指差した。


「これから結果を報告する。二階に上がろう」


「「了解」」




 買取の査定を待つ間を利用して、今日の成果を詳しく聞き取るみたい。


 指示された通り、三人揃って二階にある小会議室の一室に入る。そこにはすでにエドさんがいて、何かの資料を並べて忙しそうに作業をしていた。こうして冒険者が来るのを待っているらしい。


 そこは昨日案内されたのと同じ部屋で、中央にあるテーブルの上に今現在の迷いの魔樹の分布図が置いてある。


 よく見ると昨日私達が印した分が、ほとんどバツ印で消されていた。ギルドが素早い対応をしてくれた結果が目に見えて確認出来て、一先ずほっとした。




 エドさんに促されて、今日調査して判明した迷いの魔樹の位置を『マップ作成』スキルで確かめながら、新たに書き込んでいく。


 その間に、現在の対応状況の説明を受けた。まずは北の森からで、今日は四組の冒険者パーティーが一斉に、昨日私達が調査済みの場所へ討伐に向かってくれたそうだ。

 結果、発見されていた迷いの魔樹は、九割ほどが討伐済みになったとか。ここまでは早期発見、早期対応が出来てるよね。よかった。




 ラグナードが心配していたジニアの村でも、村人総出で造っていた壁が完成してからは、彼の知人である狼人族さんを中心に森の奥へと入って魔樹の捜索と排除に努めているらしい。


 討伐数は少ないけど、魔物は元々、何故か人が多くいる方へと引き寄せられる性質をもっている。

 なので、ボトルゴードの町から徒歩で半日ほど離れた人口の少ないこの村へは、それほどの数は向かわないだろうとのこと。今は対応が間に合っている状態だと聞いてホッとした。




 活性化しているダンジョンの方も、領主様の派遣した兵士さん達で持ちこたえているらしく、決壊するのを防いでいるようだ。 

 内部は真っ暗で、道幅の狭い迷路になっている上に罠も多いから、一気に戦力を投入して短期決戦に持ち込むことも出来ないんだよね。地道に削っていくしかないから大変みたい。

 一体一体は弱いとはいえ、いつも以上に魔物が生まれ出ていて、常に討伐し続けなければダンジョンから溢れ出てしまう危険性があるんだって。

 冒険者ギルドの方も余裕がないから増援は見込めない中、何とか頑張って抑えてくれている状態だと教えてくれた。



 どれか一つでも崩れたら危ういという綱渡り状態は怖いけど……今のところ、どれも抑え込むことに成功している。


「このまま何事もなければ、侵略を乗り越えられそうです。明日もまた、調査の方をお願いしますね」


「わかっている。出来る限りのことをしよう」



 森の侵略を防いできた実績がある、この町のギルド職員さんの言葉には説得力を感じた。

 エドさんの予想が当たっているといいなという希望を胸に、冒険者ギルドを出た。





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