第109話 念願の……
◇ ◇ ◇
翌日からも毎日、北の森に通い続けた。
私達のパーティーの役割は、討伐隊より先行してトレントの捜索をすることなので、できるだけ『索敵』で魔物との遭遇を避け、少しでも広範囲を見廻れるようにしている。
ただし、収束宣言が出るまではいつ終わるとも知れない連日の依頼となるため、中々思うように休みが取れない可能性がある。
支援魔法や魔道具、ポーション等で魔力の回復はできるけど、十分な休息が得られないと気力や集中力など精神的な疲れは取り除けず蓄積していく。ミスしないか心配なんだよね……。
ベテラン冒険者のラグナードはともかく、場数を踏んでいない私とリノだと、どうしてもペース配分が上手く出来ずに彼のお荷物になる未来がみえているし。
なので、命取りになる前にと事前に冒険者ギルドと交渉し、一定の規定数を満たせばその日は終了としていいという契約内容にして貰った。
ギルドとしても、討伐に回せる冒険者パーティーの数には限りがあるから対応出来る数があればいいと、私達の等級の事も考えてすんなりと了承してくれたんだ。よかった。
ラグナードの『索敵』範囲が広いおかげで、開門直後から活動した場合、大体午前中には終われる計算になる。
これで午後はゆっくり身体と精神を回復させる時間に当てることができる事になり、ちょっと安心した。
もちろん、こうして手に入れた午後の自由時間はスキル習得の為の訓練の他に、自分達の為に採取や討伐をすることもある。
休みを犠牲にしてまで手に入れたいものと言えば、もちろんあれですよっ。白チーズ茸ですよっ。さっそく採りにいきましたとも!
樹の下の方に寄生していたものは、何かに齧られて駄目になっていたけれど、上の方にいくにつれてきれいな状態のものが幹を多い尽くさんばかりにニョキニョキと生えていて、これなら好きなだけ採取できそう!
居酒屋のご主人から、目一杯大きくなったものよりほんの少し、小さめのものを選んだほうが味がいいんだよと聞いていたので探して見る。
――うんっ、上の方にちょうど良さそうなのがたくさんあるっ。これならいっぱい採れそう!
白チーズ茸の軸はしっかりと幹にくっついており、少々の衝撃ではびくともしない。
三人の中で一番体重が重いラグナードが乗っても平気なほど頑丈なので、木登りする際の足場に出来るくらいなんだ。
採取してしまえば何故か少し軟化するんだけどそれまではとっても固いので、万能ナイフのノコギリ刃の方を使い、力を入れてギコギコと引いて切り取っていく。
数日に渡り、時間を作っては寄生場所に行き、毎回三人分の背負子が一杯になるまで運んだ結果、約束していた三軒のお店に満足してもらえる量を採取できた。とっても喜んでくれたので頑張ってよかったっ。
そうして、今度こそ自分達用の白チーズ茸を確保したので、その日は三人で茸パーティーをして楽しんだよ!
食欲が爆発しているリノはともかく、私と彼は満足するまで食べたんだけど……いやあれは人を駄目にする美味しさだったですねぇ……。
まずは、たくさん採れたら一度は食べたいと思っていた、念願の白チーズ茸のステーキ!
贅沢にも茸を分厚く切って、自家製の香草塩だけをパラリとふり、後はほどよい火加減で焼くだけという一品です。
素材の味で勝負する、料理といってもいいものかというようなシンプル極まりないものだったけど、リノの一押しだしずっと食べたかったんだよね。
茸尽くしのスープも作った。又々女将さんにお借りした大鍋に、白チーズ茸の他にも虹色茸や水白茸、水光茸や金茶香茸、瑠璃玉茸、オーブ茸、豆茸など、これまでに採取して乾燥保存してあったものも含めて、たくさんの種類の茸をこれでもかっていうくらい入れる。
そこにラグナードが干し肉を少々提供してくれたので細切れにし、茸と一緒に採ってきたばかりの香草も加えて味付けしていく。
これを弱火でコトコトと煮込んだものは、ポタージュのようにコッテリと仕上がりましたっ。
見た目も香りもトロトロに溶けたチーズのようで、少し黄色味がかって艶々したスープは、見ているだけで食欲を刺激されますね!
どちらも堪らなく美味しかったんだけど、それ以上に絶品だったのは、ホーンラビットの丸焼きだったんだよね!
あれはちょうど白チーズ茸を採取して帰る道筋で、付け合わせの香草なんかも採りつつ、他にも何かないかと探している時にバッタリと出会ってしまった運の悪い奴がいて……それはもう立派な大きさの個体だったんだけど、リノにはお肉の塊にしか見えなかったらしく、いい笑顔で瞬殺してくれたんだ……。うん、ありがとうね。
せっかくいい素材が手に入ったので、ホーンラビットのお肉をメインにしたお料理はどんなのがいいかを考えて、ローストチキンっぽく調理する事を思いついたんだ。
丁寧に下処理し内臓を取り出したお腹の中に、刻んだ香草や野菜、乾燥させてあったパンの実を砕いたものと共に、白チーズ茸をいっぱい詰め込み、丸ごと焼いてみたんだよね。そうしたら……。
「これは、ウマイな……」
「めちゃくちゃい美味しいですよねっ」
「……本当、美味しい」
――語彙力が崩壊しちゃっているけど、それはもう言葉を失うくらいに、ただただ美味しかったんですっ。
思い出しただけでもヨダレが出そう、とっても贅沢な時間でした! ご馳走さまです。また食べたいなっ。
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