第110話 束の間の休息
こうして適度に休息を挟んで楽しみつつ、心身をリフレッシュさせながら、広い北の森の中を少しずつ踏破し、侵略してくるトレント探しを根気よく続けた。
その間、うれしい事に私には『棒術Lv1』が、リノには『投擲Lv1』のスキルが新たに生えてきたんだよね。
私の方はリノの時と一緒で、やっぱり長剣術の練習をしていた時にいつの間にかという感じで、リノの方は遠距離攻撃用にと、投げナイフを何本か購入して練習していたら取れていた。
ラグナードが言うにはどちらも習得しやすく大体一日練習してたら覚えられるから、冒険者ならほぼ皆持っているスキルなんだとか。
ふーん、武術スキルの中でも取れやすいとか取れにくいとかあるのか……知らなかった。
ただし、そこからレベルを上げるのは他のスキルと一緒で時間が掛かるっていうのは変わらないらしいです……やっぱり地味な努力は必要ってことですね。
とりあえず私も、次の武術スキルは『投擲』の習得を目指してみようかなっ。
一般人よりも冒険者の方がパーソナルレベルが高く、早く覚えられるらしいし頑張ろう。
装備に関しても、少しずつ強化はしていっているけど、初心者装備からはまだまだ脱け出せていないんだよね。
だって、新品で、耐久性があって付与魔法付きの武具ってとってもお高くて手が届かないんだもん。
安全に冒険を続けるにはすぐにでも欲しいのに、ポーションなどの消耗品にも本当にたくさんお金がかかるから、お金が貯まらないという……。まあ、緊急性の高かった魔道具は少しは購入出来たから良かったんだけどさ。
連日の未踏破地域での探索でボロボロになったブーツを、付与魔法付きのものに買い換えたのに加えて、霧の魔樹の素材を魔道具屋さんに持ち込んで注文した、幻術耐性のブレスレットも約束通り翌日には出来上がってきたし。
それを装着した事もあって、北の森の中奥で活動するための最低限の装備は整ってきていると思うけど。
特にこの幻術対策の魔道具には、常時発動で「幻術耐性+3上昇」の付与魔法が付けられたので、トレント以外の幻術にもちゃんと耐性があるものになり満足している。
更に、私は「MP全回復+3上昇」、リノも「MP全回復+2上昇」の魔道具を買うお金が何とか貯まったので、早速ペンダント型のを購入し、念願だった魔力の強化も出来た。
これらの魔道具で私とリノの弱点を補強した結果、今までより長い時間、三人で安心して森の中を歩けるようになったし、危険度や時間のロスが減って捜索が捗る事になった。高かったけど買った甲斐があってよかったよ。
ただ、これからの活動で急に装備が破損することも無いとは言えないからね。この討伐が終わるまでは、一旦、これ以上お金のかかる魔道具の購入は見送る事に決めた。
そうして慌ただしい日々の中で遂に、リノも九級冒険者に昇級した。やったねっ、おめでとう!
連日の迷いの魔樹を含めたトレントの捜索依頼には、報償金の他に冒険者ギルドから多めの昇級ポイントが配られた為、予定よりも早く上限に達したんだよね。
昇級ポイントの100点が溜まり十級からレベルアップ出来ると分かった時、どうするかラグナードにも相談したんだけど、今回は素直に昇級する事に決めた。
本来、十級から九級への昇級には平均して約一月かかるらしく、彼女の昇級期間はそれより短めではある。
でもそれは、通常とは違うイレギュラーな依頼で稼げたものだと分かっているし、他にも同様の依頼で昇級した冒険者達がいる。ということで、あまり目立たないから大丈夫だろうと判断したんだ。
トレントの調査結果については、毎日冒険者ギルドに報告しこちらも最新情報を受け取っているけど、今のところは膠着状態が続いている。
霧の魔樹を討伐した日から今日まで、それ以上強い魔樹は発見されていないけど、迷いの魔樹自体は相変わらずポコポコ見つかっているんだよね。
なんか最近は、エンドレスでモグラ叩きをやっている気分になってきたよ……。
それ以外の南の森とその奥にあるダンジョンもジニアの村は深刻な問題は起こっていないそう。
――このまま何事もなく、収束に向かっていって欲しいなぁ。
◇ ◇ ◇
まだまだトレントの調査依頼を続行中の、今日この頃……。
周囲を警戒しつつ、区切りのいい所で今度は町方面に向かって折り返し、別ルートを通りながらまた探す。これが、ここ数日の捜索パターンだ。
――森の中に、落ち葉や草を踏み締める足音が微かに響く。
獣道らしきものもなく、足元は覆い尽くすような勢いで背の高い草藪が生え、その草藪も所々頑強な蔦に複雑に巻き付かれていて、足罠のようになっているような厄介な場所。奥に行くにつれて益々、足場も不安定になる。
それでも森に不慣れな人族のリノが、森歩きに適した種族である獣人族のラグナードやエルフ族の私に遅れず着いてくることが出来ているのは、新しく買い換えたブーツがあるから。
本人は、「物質強化」と「俊足」の付与魔法付きのこのブーツを買うとき、森で自分だけ足音を消せないことを気にして「忍び足」が付与されたものと迷っていたみたいだけど、最終的にはラグナードに薦められたこっちを選んだ。それで正解だったと思う。
この捜索には何よりスピードが優先されるし、心身を健全に維持する為にも午前中に終わらせたいから、付与魔法の補助無しだと人族のリノには結構厳しいペースのはず。
私達の速度について来るには「俊足」の付与は必須で、このブーツはその役割を十分に果たしてくれている。
私と彼がほどんど足音を立てずに動けるのは種族本能的なものだから、そんなに気にしなくていいし、ラグナードの『索敵Lv5』がある限り、多少の音を立てても魔物から逃げ切れる事を伝えて納得して貰ったんだよね。
徐々に、北の森の中奥に通うのにも慣れ、少しずつだが順調に攻略していった。
いつものように、少しでも歩きやすいところを探しては移動し、迷いの魔樹を見つければ、後から来る討伐隊の為にも近辺にいくつか目印をつけていく。
霧の魔樹を倒してから、スモールトレント付きの迷いの魔樹を二体討伐したくらいで、他の強い個体にはまだ出くわしていない。
この分なら北の森の中奥地帯の魔素は、危険度の高い奴が出て来れるほど濃くなっていないのかもしれないね……。
――とか思っていたときもありましたっ。
非常に嬉しくないことに、一番厄介なものが最後に控えていて、否応なしにそれと出会うことになったのです……。
――その時選んだ道の先にあったのは、今までの中でも最悪の悪路だった。
傾斜があって進みにくい上に、北の森にしては低い樹が密に生い繁り、蔓性の植物がやけに目につく場所。
蔓が頭上の枝からもすだれのように垂れさがり、足元の草藪にまで巻き付き、どこまでも伸びている。繁殖力が半端ない感じで見通しも悪い。
やたらと多くの蔓同士が複雑に絡まりあっている上に、木々や草など、巻き付けるものには何にでも巻き付いているせいで、まるでクモの巣の中に捕らわれたような、不気味な閉塞感を感じた。ゴチャゴチャとしてて不健康そうというか……。
かき分けようにも中々に強固で、私とリノが使っている安物のナイフでは切断しにくく、その場所から遅々として前に進めていない。
ただ、この先に優先的に討伐を済ませた方がいい、何かしらの魔樹をラグナードが『索敵』で感知したとかで(私の索敵レベルでは察知できないが)、対処出来るのか様子見だけでもしておきたいとの事。
冒険者ギルドへの報告もあるし、今日出来る範囲でこの困難な捜索を続けることになったのだが……。
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