第111話 遭遇
通行の邪魔になる蔓や枝、草などを苦労しながら万能ナイフで打ち払っていっていると……。
突然、リノのナイフが
「うん? 蔦が絡まっちゃったんですかね? えいっ……あれ? なんかこれ抜けにくいな……」
「離れろっ、トレントだ!」
「ええっ、どれがです!?」
ラグナードに言われて慌てて手を離し、その場を離れる。
リノのナイフに絡んでいた
「あっ、ナイフ持ってかれちゃった……」
「それどころじゃないって!」
どれなの、どの樹が魔樹なの!?
今、全く『魔力感知』出来なかったんですけどっ。レベル3にもなっているのに、こんなに近くにいたのが何で分からない!?
似たような細くて長い蔓で辺り一面覆われている為、動きがなければ目視で特定するのも難しくなっている。
『鑑定』スキルを使ったら見つかるかなと思って試してみても、ここには思った以上に様々な植物があるらしく、欲しい情報以外の表示が乱立し過ぎて、その中からすぐにお目当てのものを探しだせないと言うかっ。情報過多で、頭が痛い。
かといって私の『鑑定』レベルだと、直接視線を合わさないと結果が出ないし……。
焦ってキョロキョロしていたら、ラグナードが叫んだ。
「それ以上、後ろに下がるんじゃないっ。……そこだっ」
「はわわっ!?」
彼が背後の藪の中に素早くとナイフを投げつけると、蔦の一部がモゾモゾと蠢き出した!
――うわぁっ、ここにもいたのかっ。
て言うか……あれ?
さっき引っ込んでったのとは位置が違うよね……別個体がいるって言うこと? それとも同じ個体なの? だったら相当大きそうなんですけどっ。
今度の蔓はまだ引っ込んでいかなかったので、早速『鑑定』してみたんだけど……えっ、これって、本当なの?
この絡み合った蔦が
「なんなのこれ、すっごく不気味なんですけど!?」
「これは
「ヤバイって……ど、どんなところがですか?」
ラグナードの説明によれば、これは木性じゃない蔓状の魔物で、細長い蔓をところ構わず縦横無尽に伸ばし、手当たり次第に魔素や魔力を吸収して、魔樹以外を駆逐していく性質があるやつなんだとか。最悪、森が枯れ果てるらしい……なにそれ怖いっ。
この世界ではこういう形状のものは全部、見た目に多少の違いはあっても「蔓状の魔樹」と呼ぶみたい。
魔素と魔力さえあれば、どこまでも成長出来るため変異種も出てきやすいらしく、過去にはレイドを組んで倒さないといけないほど巨大になってしまった災害級のもあったらしい。
――と、いう訳で。
どうやらこのウゴウゴしている蔓状のやつ、これはその魔樹のほんの一部らしいですよ。う~ん、全体像が掴めない。
見た目は普通の茶色い蔓だったのに、今はウネウネと卑猥に蔓を波打たせてる。見ているだけでも気持ち悪くてゾワゾワしちゃう。
一度、擬態を解いたからか、もう遠慮なくこっちに蔓を伸ばして捕まえようとしてくるしねっ。
すかさずラグナードがナイフを放って弾いてくれたから大丈夫だったけど、怖いって!
しかしえらいこっちゃ。遂に女性の天敵(と言うかみんなの天敵?)、触手型の魔樹が登場してしまった……。
まあ、こっちの触手はエロ担当じゃなくて、どちらかと言うと吸血鬼っぽい感じの奴だけどね……「触手の魔樹」とか、直球の名前が付いてなくてよかった。
でも、エロくなるかグロくなるかだけの違いで、危険であることには変わりはないから捕まらないように気を付けなきゃ。
いやぁ、さすが異世界だよ。スライムといい、定番ものはちゃんと外さず出てくるなぁ。何か、日本から電波でも受信して参考にしているんじゃないのだろうか?
そこら辺はどうなってるんですか、そろそろ放置され過ぎて存在を忘れそうになっているけど、たぶん神な例の白い部屋の人よ……?
…………。
……やっぱり返事はない、と。うん、そうだよね、知ってたっ。
とか返事もしてくれないと分かっている神相手に、呑気に語りかけている場合じゃなかったっ。
こうしている間にも、唯一、蔓状の魔樹の近くにいれば『魔力関知』出来るラグナードが、危険な場所から一時的に離れるため土の中も含めた周囲の気配を探ってくれており、慎重に距離を取ってその場から離れようとしているところだった。
ぼけっとしている場合じゃない、ちゃんとついてかなきゃっ。
歩きながら、蔓状の魔樹の主な栄養源である魔素と魔力についても説明してくれる。
魔力はこの世界の生命体なら皆その身の内に持っているもので、魔素は大気や地中、水中に溢れる誰のものでもない魔力のこと。便宜上、そう呼び分けているらしい。
その魔素が溜まっている場所を見つけると、他のトレントと同様に蔓状の魔樹も根をおろす習性がある。先程、ラグナードが何がしらの魔樹の反応を感知したという辺りにも、規模は不明だが魔素溜まりがあるはずなんだとか。
でも、これだけ鬱蒼とした藪が続いていると、本体のある目的地まではかなり無理をしないと辿り着けそうもないから確認するのが難しいんだよね。下手に焼き払おうものなら、大火事になりそうだし。
奴は土の中にも潜れるし、蔓状の体を蠢かせて本体ごと移動することも出来る。
それに本体は大抵の場合、地中深く潜って半休眠状態でいるので魔力感知しにくいらしく、ここからではラグナードでもこの魔樹の正確な位置と強さが計りきれないんだとか。
森の土の中には特に多くの魔素が含まれているから、擬態の上手な蔓状の魔樹には格好の隠れ場所になっているという事も有利に働いている。
まず、本体に近づけないとか……う~ん、厄介だなぁ。
これを討伐するためには、物理攻撃か火を使うのが効果的みたい。
魔法だと基本の四属性魔法の中では唯一、火魔法だけが通用するんだけど、ここは森の中で燃えやすいものがいっぱいある。使い方には注意が必要。
聖魔法は、魔物相手なので有効だけど、私の『聖魔法Lv2』だと倒せるほどじゃないらしく、忌避される程度で中々ダメージが入らないんだとか。高レベルの使い手なら通用するらしいけどね。
ただ、対象を若干弱らせたり、怯ませて隙を作ったりと足止めなどして、時間を稼ぐのには使えるとのこと。
結局、高レベルの魔術師がいない場合は、人海戦術で四方から取り囲み本体の方へと追い込んでから、弱点である火を放って駆逐するのが一番効果的なんだって。
少しでも燃え残しがあると、魔核がなくとも千切れた切れ端からでも再生してしまうほど生命力が強いので、気を付けないといけない。
それに、下手に焦って少人数で対処しようとすると……。
「隙を見て他の場所へ逃げられちゃうんですかっ」
「そうだ。こっちの様子を、じっと観察してくるんだ。触手一本一本が奴の目だと思っといた方がいい」
「ううっ、気持ち悪いですね」
「ああ、まあな。だから、ゆるゆるの包囲網だとスルリと抜けられて本体ごと逃げられちまうんだよ」
「……なるほど。じゃあ例えば、火事にならないようにと注意しながら、慎重に周辺の草とかを刈って下準備することは出来ないんだ」
「時間との闘いになりそうですね。素早くしないと、察知されちゃう……」
「そうなんだよ。触手のくせに無駄に賢いんだよこいつらは」
と、言うことらしい。
――本当、なんて手のかかる厄介な魔樹なんだっ。
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