第97話 始動



 ◇ ◇ ◇




 それからの二日間は、引き続き北の森で迷いの魔樹を探して歩いた。今回も外周と中奥の境目辺りを、リノと二人で魔物討伐を中心にして活動する。


 八級以上の冒険者に強制依頼が発動されてた事もあって、北の森にはいつもより多くの冒険者が来ていたけど、彼らはもっと奥へと入って行くため鉢合わせする事もなかった。

 人手が増えた事により、遭遇する魔物の数が徐々に減っていっているのもうれしい。




 ラグナードに教えて貰った知識を活かし『魔力感知』スキルで、ある程度の大きさの魔素溜まりを発見したらすぐ、新たな魔樹が根付かないように聖魔法の『浄化』で消し去る事もしている。



 ――魔素溜まりと言うのは、魔力の泉のようなもの。



 一部は空気中に発散するが、蓄えられた魔素は不浄に染まりやすく、いつしか瘴気に変化し魔物を生み出す可能性が高い。なので見つけ次第、『浄化』してしまった方が安全なんだという。


 ただ、その魔素溜まりも健全な状態なら、豊かな森の恵みを与えてくれるありがたい存在なので、結局小さい内は瘴気になる危険度も比較的低いからと放置されていることが多い。


 特にここはまだ森全体から見ると浅い場所になるので、魔素溜まりも小さいものが多く、『浄化』しても聖魔水晶がほとんど出ないくらいだ。

 でも全くないこともない。たまに、土に紛れるように1cmくらいのが存在していることもある。その小さいやつを『魔力感知』を使って見つけ出せた時はうれしかったなぁ。

 回収した欠片は微妙に不揃いだったけど、結構いい値で売れたんだよねっ。


 ギルド証の魔法陣を聖魔水晶を使って左手に定着させたように、この水晶は主に魔法の触媒としてよく使われるらしく常に需要がある。冒険者ギルドでも常設依頼になっていた。


 これもラグナードからの情報なんだけど、ギルドよりも魔道具屋さんに直接持ち込んだ方がお得だと教えてくれたので、さっそく魔石の一部と共に持っていったんだ。

 本当に、高値で買い取って貰う事が出来たよ。やっぱり情報って大事だね。


 ちなみに冒険者ギルドに買取に出す魔石は、いつもより減る事にはなったけど、肝心の迷いの魔樹は全部出してるしバレてないと思う。この調子でこれからも上手く調節していこうと思う。




 迷いの魔樹については、探していると中々見つからないもので、私達がこの二日間で討伐したのは結局三体だけだった。


 これって数的にどうなのかな、と思ってギルドに報告した時に聞いてみた。


 ギルドでは、強制依頼によって森の中奥に今までより多くの冒険者が入った結果、侵略の最前線を押し上げる事が出来た為に、数が減ってきたんじゃないか……と推察しているらしかった。


 なるほど、じゃあ討伐は順調にいっているんだね。




 新たに短剣も手に入れた。


 今回稼いだパーティー費用は全額私の武器に使っていいとリノが言ってくれたので、一部に魔鉄が入って強化された短剣を1000シクルで買うことにした。

 せっかくだし少しでも良いものが欲しかったので、足りない分は自分の資金を足して支払ったよ。


 これでも武器としては初心者レベルの安物だってブルボさんに言われちゃったけど、今まで使っていた100シクルの万能ナイフに比べれば、私にとっては超高級な品なんですけど。


 刃の部分が全て魔鉄製の場合は5000シクルから手に入るらしく、強度も切れ味も段違いみたいなので、いつかは欲しいな。

 でも初めて新品の武器を手に入れられて満足している。これで『短剣術』スキル、早くとれるといいんだけど。


 リノも予備の短剣を一本、全財産を叩いて買っていた。前衛職だし、刃が折れたり切れ味が鈍ったりといった急なアクシデントがあることも考慮して、最低でも二本は持っていた方が安心だからといって……。

 ブルボさんが彼女が買える金額の中で一番品質のいいものを探し出してきてくれて、650シクルとお得に買う事ができたんだ。


 これは中古品だったけど、私のと同じで少量の魔鉄で強化した短剣だった。

 耐久値は新品よりは落ちるらしいけど、性能的にはほとんど差がないよと太鼓判を押してくれて、更に値引きして売ってくれたんだよね。ブルボさん、ありがとう!


 これでようやく、明日からの新パーティー始動に向けて武器の準備も整った。




 ◇ ◇ ◇




 そうして迎えた三日目、ジニアの村には目立った問題は起きてなかったとギルドの受付で伝言を受けていたので、ラグナードとは予定通り開門時間に北門前で会うことが出来た。



 ――今日はいよいよ三人で、北の森の中奥に入る予定。



 私達の実力では二次災害になる可能性が高く、怖くて行けなかったから初めて足を踏み入れる事になる。

 迷いの魔樹以外にも、まだ対峙した事のない強い魔物がいっぱいいるというし、ちょっと緊張してきたっ。


「……お前らさえ良ければ、まずは10km程街道を行った後に、森の中奥より手前付近まで入ろう。その辺りでパーティー戦をして慣らしながら巨木群辺りまで進んでから、奥へと行くのはどうだ?」


 と、提案された。


 北門近くは、冒険者の他にも木こりや猟師もいて手は足りてるはずだから、少し遠くの狩場に行こうって言われたんだ。

 巨木群近くならよく通っていたし、他より馴染みがある。その事はラグナードも知っているから、きっと私達の為にと考えて選んでくれたんだろう。

 いきなり森の奥へ行くには彼と一緒でも怖かったので、とってもうれしい申し出だった。


「私達もそれがいいかな。道中、大きめの魔素溜まりがあれば『浄化』して進むんだよね」


「そうなるな。指示はその都度だすから」


「分かりました、頑張りますっ」


「うん。まあ、張り切りすぎないようにな。じゃあ、出発しようか!」


「「了解!!」」



 ――こうして、三人での初パーティー戦が始動した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る