第96話 『短剣術』スキルの練習



 冒険者ギルドにはこれからも長くお世話になる予定だし、昇級も含め賢くつき合っていかないとね。


 頑張ればスキルレベルと言う目に見える形で結果が出て、努力が必ず報われるっていう事が実感できたのもあり、心地よくてやり過ぎちゃってた。


「まぁ、ここが辺境だったのが救いだな。今度からは上手く計算してギルドに持ち込めばいいさ」


「そうします……」


 裏技として、ギルドを通さずに直接、鍛冶屋や魔道具屋に魔石を持ち込んだり、肉屋や薬屋などで素材を買い取ってもらい換金する方法を教えて貰った。


 そういうのも別に違法ではないらしく利用出来るとのことで、ラグナードが普段持ち込みをしているお店の情報も聞かせてくれる。




「それで、パーティー結成の歓迎会までしてもらっといてなんだが、明日と明後日の二日間、ちょっと別行動させてくれないか。ジニア村の様子を見に行ってきたいんだ」


「ああ。あの北にある小さな開拓村ですか?」


「そうだ。一応、何かあったらギルド間で連絡し合う決まりがあるから無事なのは分かっている。だがこっちの状況から予想すると短期間で事態が動く事も考えられるからな。同族もいるし心配なんだ」


 あの村の事は私も気になる。この世界に来てからずっと森の中にいてボッチだった私が初めて遭遇した人達だし、色々親切に教えて貰ったし。


「確か、あそこにはろくな外壁も無かったよね? 常駐の冒険者もほぼいないみたいだし防御力も低そうだった」


「そうなんだよな。この町にもまだまだ住める場所は沢山あるのに、危険を冒してまで新たに住む場所を広げなくともいいと思うんだが。人族の権力者というのは強欲だからなぁ。民の命より、森から少しでも多く支配領域を奪う方が大事らしい」


 繁殖力の低い長寿種族からすると、考えられない政策なんだろう。今は迷いの魔樹が増えて来て危険だという情報がギルドを通して入る為、村人総出で壁を造っているらしいけど心配だよね。

 ラグナードは土魔法が一番得意なので、土壁造りの手伝いに行きたいとのこと。魔法で建造するから短時間で出来るみたいだけど、たった二日で大丈夫なのかな。


「分かった。私達が付いてっても足手まといになるし待ってるね。もし滞在が長引きそうならギルドに連絡を入れてくれる? 何もなければ三日後から始動ってことでいいかな」


「悪いな、そうしてくれると助かるよ」




 その日は、冒険者ギルドの受付でパーティー登録を済ませ、三日後、開門時間前に北門に集合する事を約束してラグナードとは別れた。






 パーティ結成の話し合いをした冒険者ギルドから、再び宿に帰ってきた。


 二人きりの部屋の中ではお互いに遠慮なく、それぞれのベッドに寝転び、力を抜いて寛ぐ。


「まだ仮ですけど、無事にラグさんとパーティー結成出来てよかったですねぇ」


「本当に。心身ともに心強いよね」


「はい、今日だけでもギルドとの上手な付き合い方とか、色々教えて頂きましたし」


「そうだね。私達は二人とも『幸運』スキル持ちだし、その上私はエルフだし、用心深く行動していたつもりだったけど……甘かったんだって思い知ったよ」


 今までの言動を振り替えって、ちょっと色々と反省した。


「そんな、落ち込まないでください。彼がこんなに親身になってくださったのは、同じ長寿種族のローザがいたからだと思いますよ」


 肩を落とした私を見て、すかさずリノが慰めてくれる。私も自分では大概前向きな性格だと思っていたけど、それでもリノには負ける。

 体の不調とか、いっぱい苦労しているのに本当、考え方がポジティブなんだよね……いつもその明るさに救われているよ。ありがとう、リノ。




「そうなのかなぁ? じゃあ益々頑張って足手まといにならないように準備しとかないとね。ラグナードと一緒に行動するまで、また少し時間が出来た事だし」


「そうですね。それなら私の強化はもう十分して頂きましたし、ローザも護身用に武術系のスキルを一つ覚えてみるっていうのはどうでしょうか?」


「う~ん。それは安全の為にもぜひ覚えたいけど、でもギルドの講習料って高くなかった? 確か、一回で銀貨五枚くらいしたよね」


「あの、もし『短剣術』スキルで良ければ私が教えられますけど」

 

 武術系のスキルも訓練や戦闘で経験値が溜まってレベルアップするけど、『短剣術』スキルとして習得したい場合はまず、実際に短剣を使ってスキル持ちの人から直接、型を教えてもらう方が早道みたい。

 なるほど、魔法系にとっての魔法書と同じ役割をそれぞれの武器の型が担っているってことか……。


「いいの? じゃあ、お願いします」


「はいっ、お任せください!」


 私は短剣を持っていないので万能ナイフを使って練習するのかと思っていたけど、全然違う武器だから遠回りになるしやめた方がいいらしい。きちんと短剣を使って型を覚える方が、スキルとして生えやすくなるんだって。

 なので今日は、リノの短剣を借りて覚える事になった。明日にでもさっそく、自分用のを購入する予定です。


 万能ナイフって、短剣とは呼び名が違うだけで似たようなもんだと思っていたけどな。

 今までも魔物と戦闘する事が何度もあったのに、スキルとして中々生えてこなかったのはそれでか……。



「でも確実ではないです。可能性が高くなるってだけで。私もローザから借りた長剣を使ってて、何故か『棒術』スキルが生えてきましたからね?」


「そういえばそんなこともあったね。つまり、確率の問題か。狙ったスキルが取りやすくなるよってことなのかな?」


「そうだと思います」


「ちなみに、万能ナイフを使い続けていたら何のスキルが生えてくると思う?」


「う~ん? なんでしょうか。……例えば『解体』スキルとか、じゃないですかね?」


「ああ、確かにそれっぽいね」


「はい、多分ですけどね」


 なるほど。あれは攻撃じゃなくて、解体してるって解釈されるわけか。




 短剣の型なら室内でも練習出来ると言うことで、さっそく今から教えてもらう事になった。


 上下左右、斜め、突きの九種類の斬撃の型。


 繰り返し教えてもらって覚えていくんだけど、剣の振り方とか足運びとか目の前でやってくれるので参考になる。


 一通り習った後は、時間を見つけて地道に自主練をしていくことになった。



『短剣術』スキルはレベル1を取るだけなら案外簡単らしく、リノの場合は一週間毎日素振りをしたら取れたそう。

 ただ、レベル上げには多くの経験値が必要で、一年経っても上がっていないらしい……。

 魔物との実戦と組み合わせるとより早く経験値が貯まっていくみたいなので、冒険者になったこれからはレベルアップも早そうだし、楽しみだね。


 私に『短剣術』を教え終わったリノには、魔法の練習に移ってもらった。彼女も基本魔法のスキルを取る為の反復の期間に入っているからね。

 魔力を全て使い切る前に、本能的に魔法の発動を押さえる安全装置が働くから、安心して自主練ができるし。




 そうやって二人でそれぞれ練習に励み、リノの魔力切れを合図にその夜は終了したんだけど、私は普段使ってない筋肉を急に酷使したせいか、全身が筋肉痛になっちゃった。い、痛いです……。


 ――こんな症状にも、聖魔法の『治療』が効くのかなぁ?


 心配だったけど、辛さに勝てず試してみたところ……ちゃんといい仕事をしてくれましたっ。バッチリ治ったよ!


 さすが魔法、便利だね!




 でもこうして本物のナイフを自分が毎日使う事になるとは想像もしてなかった。魔法を使うのとは違って直接的で現実味があって怖いというか……。

 町中でも普通に武器を持ち歩いている人達で溢れているのを見るといまだにドキッとするし、「あぁ、そっか。異世界に来ちゃってるんだったよね」って思う。


 同じ地球からでも、銃とかナイフを日常的に持っていい国から来たならともかく、持ってるだけでも捕まっちゃうっていう日本から来た身としては、こんなに身近に本物の武器あるのは慣れない。


 平和な国から突然来て、よく無事にここまで生き残っていると思うよ……精神的にも肉体的にも、ね。





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