第98話 スモールトレント



 六級冒険者の(但し実力はもっと上)彼が今回、九級と十級の新人冒険者である私達とパーティーを組んでくれた理由の一つに、一緒に行動した方が効率がいいスキルを持っていたことが挙げられる。


 そのスキルとは、私の持つ聖魔法の『浄化』だ。


 元々、聖魔法は素質があるものが少なく、冒険者となると更になり手がいないから稀少な存在だったみたい。

 態々危険な冒険者稼業に就かなくとも教会や貴族などに高額で雇ってもらえるし、町中での仕事も引く手あまただから、それも当然かもしれない。


 長寿種族は人族より聖魔法の素質があり、その中でもエルフ族は種族的に親和性が高いことが知られているので、見つかると勧誘が厄介だったと思う。冒険者の大半は人族だからね。

 色々とバレる前にラグナードとパーティーを組めたのは、そう言う意味でもよかった。




 彼とパーティーを組むにあたって話し合いで決めたことは、二つ。


 まずは、迷いの魔樹討伐を優先させること。その為にパーティーを組んだんだから当然だよね。

 魔樹を倒したり魔素溜まりを探索するのは主にラグナードが、その後の『浄化』処理は私が、リノはその間、荷物と周辺の見張りを担当することに……安全の為も明確な役割分担って大切。

 その場所までは護衛するから、魔力を温存しておいて欲しいと言われた。うん、了解です。


 もう一つは、仮のパーティーなので報酬はきっちり人数分で割って、パーティーの共有費は作らないってこと。

 実力差的には、私達二人とラグナードで半折でいいと言ったんだけどね。最終的にはリーダー権限で彼が三等分にと決めてくれた。いい人過ぎる。せめて、お荷物にならないように気を付けよう。







 予定通り、街道を10km程進んでから北の森に入り、虹色の樹などがある巨木群へと進んでいく。


 今回は、私達よりずっと強くて五感の優れた獣人族のラグナードがいるので、この辺りにいる弱い魔物なら連続して群れで襲って来られても余裕で対処出来そう。


 彼の『索敵』スキルはなんとレベル5に達していて、意識せずとも常時発動出来るらしいよ。すごいよね!?


 その為、一番前で先導してくれてる。


 下草も多く、木の根がゴツゴツとしてて歩きにくい場所が続き、獣人族やエルフ族ほど森が得意でない人族のリノには厄介な道程だ。

 この中を物音を立てず気配を消しつつ進むのは難易度が高いので、そこは気にせず移動を優先して進んでもらう事にした。


 当然、魔物を引き寄せちゃうんだけど……ちょうどいいので最初の数回は私とリノとで連携して討伐するのを見てもらい、その後は三人でのパーティー戦を試した。

 北の森の中でも弱い魔物としか遭遇しない場所にいる内に役割分担の確認もしておきたかったしね。




 ラグナードに指導を受けながら、次から次へと出てくる魔物を討伐していく内に、段々と連携も取れて来たんじゃないかと思う。彼のOKも出て、これで一応は森の奥へ向かう準備が仕上がった。


 最初の目的地である巨木群へ着いたので、一旦休憩をする事にした。


「結局、ここまで魔素溜まりはなかったな」


「この二日間で『浄化』して回ったからその成果が出ているのかも? 同じ場所に再発生している事もなかったし」


「新たな迷いの魔樹も見つからなかったですし、よかったですよね」


「そうだな。後は巨木群の奥がどうなってるか……」


 他の冒険者もまだ来てない場所だろうし、行ってみないと分からないから不安もある。


 ……ウジャウジャ湧いてたりしたら、嫌だなぁ。




 移動する前に、いつものように自分とリノに支援魔法で『HP回復』と『MP回復』を掛け、彼女には聖魔法の『治療』と『浄化』もしっかりと重ね掛けしておいた。

 ラグナードは回復の魔道具を身に付けているし、元々の能力値が高いからまだ必要ないって言われた。


 リノの魔力欠乏症のような体質の事も彼には伝えてあって、効果が切れる一時間おきに掛け直してるんだけど、限界を把握しておくのも大切だからと指摘されて、敢えて休憩をいつもより減らして見極めることにしている。過保護過ぎるのもよくなかったらしい。

 私とパーティーを組んでからは体調も安定してきているけど、少しでも不調を感じたら倒れる前に早めに申告してもらうことにした。


 それに、もし倒れても、ラグナードが持っているポーションや魔道具で回復出来るから。

 それでも駄目なら、背負って帰ってくれると言うので不安そうだったリノも挑戦することを了承した。


 そういえば、私達ってポーション類を一切買っていないね……。支援魔法が使えるからと後回しにしてきたけど、危険な中奥まで来るなら必要だったよね!?


「支援魔法があっても、ローザが魔力切れになれば使えなくなるし、重ね掛けし過ぎると、個人差はあるが段々効き目が落ちてくるんだ。万が一を考えて買っといた方がいいな」


「分かった。支援魔法があるからってすっかり後回しにしてた……反省してます」


「すみません。準備不足でした」


「まぁ、冒険者に成りたてで金もなかっただろうし仕方ないさ。とりあえず今日は初戦だし、無理せずいこうな?」


「うん、ありがとう。今後は気を付けます」


「はい、よろしくお願いします!」







 ラグナードを先頭に、リノを真ん中に挟んで私が最後尾を歩く。


『索敵』で周囲の状況確認を行い魔物の接近を避け、迷いの魔樹と魔素溜まりを探していく。

 彼が持つレベル5の『索敵』はやっぱりすごくて、私じゃ感知出来ない長距離を看破するので、戦闘回数を調整できるのが素晴らしい。

 大体は避けようと思えば避けられるらしいから、無駄な戦闘をせずにすんで捜索が捗るのがいいよね。私も『索敵』のレベル、もっと上げたいなぁ。


 ラグナードは聖魔法も一応使えるらしいけど、レベル1なのでレベル2の『浄化』は出来ない。

 どれだけ魔素溜まりがあるのか分からないから、魔物との戦闘中は二人を補助するだけにして魔力を温存する方針だけど、今のところはそれさえなく、ただ後ろに付いて歩いているだけになっている。


 でもこのまま森の中を進めば、会敵するのは必至だろうから油断しないで行くけどね。




 暫く歩き回って、前方に魔素溜まりがあるのに気づいたラグナードに、その場所まで誘導された。


「ローザ、頼む」


「うん、わかった」


 ここのは結構大きく歪な魔力を感じる。なので少し強めに魔力を込めて……。



ピュリフィケーション』!



 うんっ、きれいになった。淀みが消えてる。これくらいの強さでやれば一度で消し去れるんだね、覚えとこう。


「お疲れ様。じゃあ次は、聖魔水晶を探すか」


「そうだね」


「あるといいですねっ」


 そしてこの大きさ魔素溜まりだと、『浄化』した後に聖魔水晶がある可能性が高い。


 期待して『魔力感知』スキルを使ってみると……。


 ――あっ、あったよっ。


 いくつか小さな欠片を見つけた。


 私とリノとで『魔力感知』を使い、土の表層部分から徐々に掘り返して取り出した。


 これは、魔石と同じように魔力の塊で、魔樹にとっては栄養剤にもなるらしい。採取するとより森の侵略を食い止められる。なので、危険を遠ざける為にも取り残しがないよう、気をつけて回収していく。


 その間、ラグナードが周囲を警戒してくれてたんだけど、魔法を使って魔力を放出した後で足を止めていると魔物が寄って来ちゃうから急いで拾っていく。


 私の『索敵Lv1』にはまだ引っ掛かってないので少しは猶予があるはずだけど、移動し続ける方が危険を回避出来るということで、手早く出発の準備をしてその場を離れた。





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