第87話 満喫出来たよ




 ◇ ◇ ◇




 ふうぅ……借り物の部屋だけど、ここに帰って来ると安心するなぁ。


 宿の部屋で、お土産にもらったジャムの瓶と借りてきた本をサイドテーブルの上に置いて、ベッドの上に寝っ転がる。


 もうそろそろ、リノも帰って来るかな? 今日は別行動だったけど、初めての休日だし楽しめてるといいな。

 甘いものが食べたいって言ってたし、この町の甘味を嬉々として買いあさってたりして……。


 そう、辺境にあるこの町にも割とあるんだよね、甘味。庶民が砂糖代わりに使える物が周辺の森から色々採れるからっていうのが大きいと思うんだけど。




 ――ここは人族の国、ロータス王国の辺境の地なので、森が特に近い。


 それは、脅威でもあるけど上手く付き合えれば豊かな恵みももたらしてくれるって事でもある。


 例えば、様々な樹から採れる甘い樹液や、甘草や花など草花からの蜜、ハニー・アントの蟻蜜やハニー・ビーの蜂蜜などの魔物の蜜など、本当に多種多様な甘味料が手に入るんだよね。

 白砂糖もあるけど庶民にはお高くて手が届かないので、代替品として使われるみたい。


 屋台でもこれらを使ったお菓子が売られているのを見かけるし、お肉や惣菜に比べると少しだけ高めの値段設定だけど、甘くて美味しいからとリノがよく買って食べてるので、それほど高額ってわけでもない。


 甘味専門店とかも探せばありそうだけど、今日は思ったより狭い範囲しか町を散策してなくて、私は新鮮な果物で作る果実水やジャムを売ってるような、いつものお店しか見つけられなかったんだよね。

 でも、また今度お休み取れたら、探しに行きたいと思う。異世界ではどんなスイーツ売られているのか、興味があるし。




 ベッドの上でゴロゴロしながら、借りてきた「森の魔物辞典」をパラパラとめくって時間をつぶしていると……。

 

「ただいま帰りました!」


 リノが両手いっぱいの荷物と共に帰宅した。部屋の中にお菓子屋さんの店内にいる時のような、優しくて甘い香りがふわんっと広がった。


「お帰りなさい。何かとっても美味しそうな匂いがする……」


「ふふふっ、色々売ってたんですよっ。もう、どれを買おうか迷っちゃったくらい! 中でも私お薦めはこれです」


「どれどれ? あ、これはクッキーだね」


「そうですそうです。試食させて貰ったんですけれど、この香ばしい木の実入りのクッキーが絶品だったんですよっ。何種類か買って来ましたから、後で食べましょうねっ」


「う、うん」


「他にはレッドシロップの樹の樹液を固めて作った飴玉とか、珍しい果物とか、変わった形のパンの実なんかもいくつかお試しに買ってきちゃいました。特にパンの実は種類が多いですねっ。この町に来て初めて見たものばかりで、どんな味がするのか分からないですけど楽しみです!」


「へぇ、こんなに色々売ってるんだ。他のはどうだった、甘味以外にも美味しいものはあった?」


「はいっ。いっぱい食べ歩きして来ましたよ! 昼食の時間にギリギリ間に合ったので、ちょっとお高い魔物肉をいただけるお店にも行って来ましたし! いつも堪らない臭いをさせていたお店だったのでいつか行こうと目をつけていたんですが、当たりでしたっ。いいお肉って、シンプルに塩と胡椒を振って焼くだけでもう絶品なんですよねっ、あぁ……美味しかったなぁ。あれなら50シクル出しても惜しくないです、うん。また今度ローザも一緒に行きましょうね」 


「う、うん、そうだね。ちょっと高いけど、私も食べてみたいかな」


 リノの懐事情が気になるところだけど、散財したのは私も一緒だしね。二人揃ってまたまた金欠になってしまっちゃったけど、明日からまた稼げばいいんだしたまにはいっか。食べ歩きを満喫出来て、リフレッシュ出来たようだし。




 それから今度は、私の行った魔道具屋さんの話をした。


「へぇ、そんな近くにお店があったんですか。知らなかったです。そしてこれが懐中時計と物理耐性の魔道具なんですね。……高かったんじゃないですか?」


「うん、結構いいお値段がしたけど必要だと思ってね。リノに良さそうな幻術耐性の魔道具も売ってた。ラグナードとパーティーが組めたとして、私達が足を引っ張るのは確実だし自己強化の為にも色々買っておきたいんだ」


「そうですね。実力差は簡単には埋まりませんから、こういったものがあるのはありがたいです。私には迷いの魔樹の討伐をするのに幻術耐性の魔道具が欠かせませんし……」


「幻術耐性かぁ。パーティーを組んでからは、一度も出くわしていないんだよね。リノは魔樹と対峙するのは初めて?」


「はい」


「じゃあ、まずは明日、実際に魔樹の近くまで行って、どれだけ影響を受けるのか確かめてみようか。私にあの幻術は効かないし、安全に実験出来ると思う」


「分かりました、やってみます。他には、魔力の底上げをしてくれるような魔道具が欲しいんですけど……ありますかね?」


「う~ん? 私が見た時には、「MP全回復+1」っていうのはあった気がするけど。今度行くときに、店主のマールさんに相談してみようか」


 おしゃべり好きで気のいいおばあちゃんだし、魔道具に関する知識も豊富なので、きっと相談にのってくれるはず。




 他にもマジックバッグが高くて買えない人用の軽量化の付与魔法が掛かったバッグ……これの名称はコンビニバッグと言うらしいけど……そういう便利な魔道具もたくさんあった。

 きっと、一日中いても退屈しないと思う。まぁ、物欲は刺激されまくるだろうけれどね。


「お金が貯まり次第、二人で行こう。買いたいものがいっぱいあるから、頑張って稼がないと」


「はい、私も頑張ります。でも、冒険者って、こんなに色々とお金が掛かるものだったんですね……知りませんでした。たくさん稼げたと思っても、すぐに消耗品や装備品に消えてっちゃいますし、全然手元に残らないと言いますか」


「今のところは全額、パーティー費用も飛んでってるし、個人のお金も余裕がないもんね」


「ううっ、そうなんですよ。今日の買い物で、手元に残ったのは130シクルだけです……」


「私も似たようなもんだよ……」


 保存食作りとか、節約できるところからしていくしかないか。新パーティー結成予定までそんなに時間もないから頑張らないとね。





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