第72話 バレてます
短時間だったけどしっかり休めたので、再び果樹園を目指して進むことにした。
今度こそ金茶香茸が見つかるといいけど、町から離れるにつれて次第に魔物の数が多くなってきた。
間引きされてないから仕方ないとはいえ、今日も魔物の討伐数が増えそうです……。
私が後方から魔法の衝撃で魔物を弱らせたり、仰け反らせたり、目潰ししたりして作った隙を利用して、リノが短剣で止めを刺す。
上手く足止めして時間を稼げてるので、サクサク順調に討伐出来た。
そして、幾らも行かない内にまた、スライムと遭遇することになったよ。
今度も一匹だけという同じ条件だったから、これはリベンジするしかない。
二回目なので、落ち着いて対処出来たと思う。
水魔法の『水弾』をわざと手加減して放ち、先程より分裂数を減らし対処しやすくした上で、スライムがムクムク急成長した直後を狙った。
飛びかかってくるのを待たずに、先手必勝と二人で攻撃し、着実に数を減らしていく。
うん、やっぱり情報ってとっても大事だね。危なげなく倒しきる事が出来たよ!
――これで汚名返上、出来たかな? はぁ、よかったぁ。
今回討伐したスライムも同じ袋に詰めて、背負子に乗せる。さっきのと合わせると結構な量になったから、これは高額買取が期待できそう。
ただ、今日はもうホーンラビットも四体討伐しているので、だいぶ背負子のスペースも埋まってきてるんだよね。
雨が降った後にしか採れない水光茸を中心に道々採取し、香草塩に使う香草も虫根コブ草以外は、東の草原で手に入れる予定のものもここで見つかりたくさん採ったので、私の方の背負子も採取物で一杯になっちゃってるし。
茸もマジックキノコは見つからなかったけど、色んな種類が生えててもっと採りたかった。
でも、可食可能なのを自分達用に少し採取しただけでもう荷物がいっぱいで、整理したけどこれ以上は持てなさそう……。
「確かに。まだ来たばかりですけど、思った以上に採取出来ましたし背負子がパンパンですもんね」
「そうなんだよね。ちょっと早いけど、一旦町に戻って先に食事しない? で、それ食べてもまだお昼にならない時間だろうし、疲れてなかったらもう一度ここに来ようか? 金茶香茸も見つけたいし……」
「いいですねっ。それと今度こそ、自分達用のお肉もいっぱい狩っちゃいましょう!」
「う、うん……そうだね。じゃあ、帰ろっか」
「はいっ」
お互いに欲しかったものは見つからなかったけど、それは午後からに期待しようと言うことになった。
果樹園まで辿り着けていないので、この距離からだと北門はそれほど離れていない。
すぐに街道に出て、少し急いで戻れば、三十分ほどで冒険者ギルドに着つけるだろう。
相変わらずこの時間の冒険者ギルドの受付はガラガラで、すぐにエドさんに査定してもらえた。
「おや、お二人も、今日は東の草原に行かれてたんですか?」
香草と一緒に大量のスライムの塊をドンっとトレーに乗せると、すごい量ですねと言って驚きながらも、さりげなく尋ねられた。
……雨上がり後にスライムを持ち込むのは自然なはずなのに、何か察するものがあったらしい。
さすがエドさん、敏腕(と勝手に思ってる)受付スタッフですねっ。う~ん、鋭い!
まぁ、スライム講習会を受けたばかりの新人パーティーが、狩場の競争率も高いのにあの講義内容でこれだけの量をこんなに早い時間にあっさり持ってきたんだもん、彼ならピンと来て当然か。
というか、ギルドに他の冒険者がいない時間帯でよかった。エドさんの質問で気づかされたけど、これって変に目立っちゃうとこだったんじゃない? うっかりしてたよ。
よしっ、気付かれないように、ここは慎重に受け答えしないとっ。
「それがですね、偶々北の森にもいたんですよ……たくさん」
「……ほほう、北の森で。これだけの量が偶々、ですか……。なるほどなるほど?」
……なんかバレてるっぽい!? やりにくいなぁ、もうっ。
「うぅっ。い、いやまあ、私達もびっくりしたんですけどっ。雨降りの後だからですかねぇ? 偶然たくさん見つけれてラッキーでしたっ」
「ほほうぅ。この短時間で偶然、たくさん遭遇されたと……。いやはや、順調に実力を身に付けられてますね?」
ニコニコしながら、意味深にそう言われた。
……これはもうバレてますねっ。
エドさん相手に誤魔化しとか無理でした!
でも、これってつまり、冒険者ギルドもスライム素材を手に入れる裏技を把握してるってこと……ですよね!?
何かもう、色々と負けてばかりで悔しいので、素直に答えてくれるかは別として、思いきってストレートに聞いちゃう事にした。
「……あの、スライム講習会で教わる以上の実践的な情報って、どうしたら手に入れられるんでしょうか? だれかに質問したら答えてくれたりします?」
「そうですねぇ……」
エドさんが言うには、同じ冒険者からはライバルになるので、例え情報料を支払うことを提示しても聞き出せないだろうと言うことだった。
「ですが、冒険者ギルドでは常に、品薄のスライム素材を求めているわけです。なので、普段からギルドに貢献していただいている冒険者パーティーで、水魔法の使い手がいらっしゃる場合には便宜を図ることもあるんですよ」
「なるほど。そんな裏技があったんですね」
信頼できるパーティーにだけ、個別にこっそりと教えていたらしい。ということは、受付で上手に情報収集すれば私達にも可能性があったのか……。
ギルドにしてもスライム素材は欲しいが、今現在、大量納品してくれるベテラン冒険者達は裏技を秘匿したがっているから、そちらの恨みも買いたく無い。
そうゆうデリケートな事情があって……まぁ、いずれは広がっていくだろうけど、慎重に対応しているんだそう。今は過渡期なので対応が難しいそうです。
結局、ギルドが情報を持っているって推察は当たっていた訳だけど、私達の場合はまだ新人で始動しはじめたばかりのパーティーだし、こんなに早く正解にたどり着くとは予想外だったみたい。
スライムが比較的多い東の草原ではなく北の森を主に拠点にしていたし、そう言う裏事情もあり直接質問されなかったため、あえて説明しなかったって事らしいよ。フーン、ソウデスカ。
まあ、結果だけ見れば、怪我もせず初遭遇で成果を出しているため、咄嗟の対応力と適応力のあるパーティーですねと高評価を頂けたんだけど、あんまり嬉しくないなぁ。
だって、今回の発見は完全なる偶然の産物だって知ってるからさ。割りと危なかったし無邪気に喜べないよね!?
「少量でも雨が降った後は数日間、普段と比べるとスライムも多く出てきます。また、たくさんの納品を期待していますね」
「分かりました」
もうバレちゃって隠す必要もないし、見つけたら裏技を使って積極的に討伐していこう。
それから、私達が今からもう一度北の森に行く予定だと聞いたエドさんから、お得な最新情報を教えて貰うことが出来た。
「採取ですと、やはり茸がお得ですよ。今日でしたら水光茸がたくさんありませんでしたか? 淡く光る小さな茸で木の幹に生えていたと思いますが。見つけやすい割に、一日で消えて採れなくなりますので買取価格もいいですし」
「はい、いっぱいありました。採取もしてきましたけど、後で乾燥させたものを納品しようと思いまして」
「よく勉強されていますね。確かに、乾燥させたものは生より買取価格が倍になりますのでお得です。さらに乾燥の状態がいいものには少しですが高い値が付きますから、頑張ってください」
「そうなんですね、覚えておきます」
しばらく雨が降らず納品がなかったので、大量に持ち込んでも全て買い取れますとのこと。
「後はマジックキノコですね。採取には魔法が必要になりますが、エルフのローザさんなら心配ないでしょう。水玉茸や卵茸、金粉茸などが小さいですけど色鮮やかで見つけやすいかと。雨の月ほどじゃありませんけど、運が良ければ外周付近でも少しはあると思います」
「マジックキノコって、やっぱり見つけるのは難しいんですか?」
「そうですね。茸の中でも特に魔力を含んだものは、魔物や野性動物も好物ですから見つける前に食べられちゃう事が多いっていうのがあるんです。なので、出来るなら早朝に探すのが一番いいですね」
「なるほど。じゃあ今の時間からだとちょっと厳しいですか?」
「ええ、残念ながら運がないと難しいと思いますよ。普段でも、それだけで稼ぎを出そうとしても、出ない可能性があるかと。ただし、雨が降った後は普段よりもたくさん生えてきますので、明日以降も手に入れられるチャンスがあります」
「へぇ、そういうもんなんですね」
マジックキノコ自体は別に、雨が降った後じゃなくても生えてくるが、魔素の濃い場所の方が育ちやすいので森の奥へ行くほど豊富にあるみたい。
外周付近だと普段は中々ないけど雨にも魔素が含まれているので、その恩恵を受けてしばらくは生えやすい環境になっている……ということらしい。
私が活動していた虹色の樹がある巨木群だと、滅多に他の冒険者が来ないので狙い目かも知れませんとの指摘を受けたので、リノの体力が大丈夫そうなら近い内に行ってみたいな。
しかし、高値が付くだけあって手に入れるのは大変だね。今日は大人しく水光茸を中心に採取しながら、偶然の出会いを期待するだけにしとこう。
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