第73話 ちょっと休憩



 エドさんにいろいろ教えてもらって午後の予定も決まったので、先に一件、用事を済ませることに……。


 水光茸や香草塩用の素材が詰まった布袋も嵩張るし、早く宿に置きに行きたいけど、手持ちのお塩がなくなっちゃったんだ。女将さんに、追加の香草塩の納品を頼まれているし、補充しておきたい。


「それじゃあ、先に買いに行きますか?」


「うん、ここから近いしね」


 と言うわけで、冒険者ギルドを出てすぐ、香辛料のお店に向かう事に決めた。


「その後、ちょっとお昼には早いけど、宿の炊事場を借りてさっき採ってきた茸や香草を使って料理しよっか」


「いいですね、私も手伝いますっ。じゃあ、お肉だけちょっと買って来てもいいですか?」


「そうだね。昨日作ったウォークバードの焼き肉だけじゃ少し足りない、かな?」


「はいっ、お腹空いちゃってるんで……。屋台の串焼き肉でいいですか?」


「うん、お願い」


 リノが串焼き肉を買ってくれている間に、私は香辛料のお店に行って、香草に合うお塩をお店の人の話を参考にして選んでみた。


 これでまた、香草塩が美味しくなるといいな。


 二人共に購入した後は、昼食のためと、午前中に採取自分達用の荷物を置くために宿屋へ戻った。






「女将さん、ただいま~!」


「おや、お帰り。なんだい二人とも、今日は随分と早いんじゃないかい?」


「まだこれからもう一度、森に行く予定なんですよ」


「そうそう。荷物を置きにちょっと帰ってきただけで……」


「そうなのかい? そりゃ大変だ。よく働くねぇ、すごい荷物じゃないか。今日の森は茸も大量だったろ?」


「ええ、凄かったですっ。 雨上がりに北の森に入ったのは初めてだったんですけど、あんなに素材で溢れかえってているとは思いませんでした」


「うんうん、壮観だっただろうっ。それで、お目当てのものは採取出来たのかい? このいい香りは香草だね? なにを採ってきたんだい?」


「ふふっ、今出しますね」


 食材に関しては女将さんも興味津々で、ワクワクしながら尋ねられた。頼まれて、その場で採れたての茸や香草を少し取り出して見せる。


 ふんふんと愉しげに採取物を確認していた女将さんから、トレードしないかと提案された。

 二人分の食事代として、現物でいくつか譲る代わりに今から賄い飯を作ってくれるという。新メニューを思い付いたらしい。もちろん大賛成なので、喜んでその物々交換に応じることにした。


「なんか得しちゃいましたね」


「うん、メニューにはない、女将さんの美味しい料理が食べれるなんてちょっと楽しみ」




 少し待って出てきたのは、先程採ってきたばかりの茸と香草、それにお肉を細かくして入れた少量のスープに、パンの実を潰して混ぜ込み、リゾット風にした一品。それに、昨日の香草塩をお好みで振りかけていただくらしい。


「どうだい? 朝食の新メニューにしようかと思うんだけど。まずはそのままで、その後、香草塩を使って味の感想を教えてくれるかい?」


「「はいっ。では、いただきます!」」


 木のスプーンで掬って一口、口に含む。


 フワッとほのかに甘みが香り、食べ進めるとじんわりと優しい香草の風味が広がっていく。


 噛めば噛むほど旨味の増す茸といい、美味しくて無意識に食べる速度が速くなった。リノには及ばないものの、たっぷりあったリゾットをあっという間に完食してしまう。この間、お互いに無言で……。


 女将さんはそんな私たちを見てニコニコしていた。


「あ、香草塩を振りかけるの忘れてた……」


「――はっ!? しまったですね。私もすっかり食べるのに夢中になっちゃってて食べきっちゃいましたっ」


「あはははっ。いいよいいよ、それだけ美味しく食べてくれたってことだろ? 今、おかわりを持ってくるからね。それで確かめてくれたらいいさ!」


「すみません、女将さん」


「お願いします」


「あいよっ」




 ということで、もう一度、二人分をよそってきてくれた。今度こそ香草塩を振って食べてみる。


「おおっ、これはっ!? 元から美味しかったのに、更にめちゃくちゃ美味しくなりましたよ、女将さん! 特に茸がっ。茸ってこんなに美味しかったです? なんか旨味が増してるというか。いくらでも食べれそうです!」


「この香ばしさがいいですね。それにリノの言う通り、香草塩を使った方のが茸の風味がより引き立つと言うか……?」


「うんうんっ、そうかいそうかい。ありがとね! 『味覚強化』スキル持ちの二人からお褒めの言葉を貰ったんだ、新メニューは成功だね。どうだい、まだおかわりはあるけど、食べるかい?」


「いただきます!」


「あいよっ、リノちゃんの分だけでいいんだね?」


「ええ、十分いだだきました。ありがとうございます」


 私はもう満腹なんだけど、リノはそれから三回ほどおかわりをし、お鍋が空っぽになるまできっちりと食べきり、一時的にでもお腹が落ち着いて満足そうだった。ヨカッタネ。







 女将さんの美味しい料理を食べ、安全な宿屋の部屋で正午まで休憩して英気を養うことにした。


「金茶香茸、見つかりますかね?」


「どうだろ? 私も偶然、一度だけ見つけられたんだけど。群生する茸だから、一ヶ所見つかれば最低でも十個くらいまとめて手に入るはず。女将さんに納品する香草塩の分くらいの在庫はあっても、私達用のが足りないから欲しいなぁ」


「ですよね。買うと高いですし、頑張って探しましょう!」


「うん。でも、今日は二回目だし知らない内に疲労が溜まっているかもしれないから。無理せずいこうね」


「そうしましょう。安全第一に、ですから!」


 ということで、リノの体力と私の魔力が回復するのを待って再度、北の森へと出発することになった。





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