第71話 予期せぬ結果



 全てを片付けた後、今回やらかしちゃった件を反省した。一人じゃないってことで、知らず知らずの内に気が緩んでしまっていたみたい……。


「ごめんリノ、色々と失敗しちゃって……」


「大丈夫ですよ、これくらい! 相手は所詮、最弱のスライムですし、溶解液の攻撃以外は危険もないんですから。ただ、こんなふうに増殖するのはちょっと予想外でしたけど……」


 彼女はそう言ってくれるけど、この増殖量は尋常じゃない。


「……多分だけど、こんなに増えたのは、だと思う。咄嗟だったから加減が効かなくて全力で魔法を打ち込んじゃって……あの一発で、結構魔力がごっそり抜けちゃったから」


「な、なるほど。ローザの全力でしたかっ。確かに普通の水魔法でここまで増えるなら、講習会の時に何か注意換気されるはずですもんね。でも何も言われませんでしたし……。人族の魔力総量って、エルフに比べればたかが知れてますから、想定外だったのかもしれません」


「うん、そうかも……」


 確かにあの講習会は、人族を基準に考えられたものなんだろうなと私も思う。エルフや他の魔術が得意な種族も、人族の町で冒険者になる人って少ないだろうし。


 一匹からこんな方法で簡単に分裂し急成長することが分かっていれば、高額買取になる素材目当てに装備も整ってない新人冒険者が無茶しそうだもんね。


 リノの言う通り、絶対に講習会で教えただろうし。スライムとはいえ、あの数に囲まれれば危険だから……。






 それにしてもあの瞬発力と跳躍力は凄かった。スライム講習会の時に行った東の草原では、あんな俊敏な動きをするスライムっていなかったよね? 


「……どう思う?」


「そうですねぇ。確かに東の草原のスライムには、あんな能力はなかったと思います。跳躍も半分くらいの高さしかなくて、動きもゆっくりで普通に弱かったですし。う~ん……北の森スライムとは別種族とかなんでしょうか?」


「それが『鑑定』スキルで見たところ、今までのと同じ表示しかされなかったんだよね」


「じゃあ、同一種類のやつなんですかね?」


「……私のスキルがレベル1なのもあるかもしれないけど」


「あ、なるほど。細かいところまで分析できてないかもってことですか」


「うん、そうなんだ。スライムってとっても種類が多い魔物らしいしね。でも、とりあえず今は同一のとして考えてみようか」


「はい。それがいいと思います。種類はともかく、この増え方って変ですもんね」


「うん」




 スライムは主に水分から魔素を吸収して、一定量に達すると分裂し数を増やす。


 それは何も雨とか草木とかの自然からだけじゃない。動物からとかも……例えば、人だと六割以上は水分でできていると言われているから……まあそこら辺からという場合もある。


 でも、含まれる魔素量は決して際限なく増殖できる程多い訳じゃなく、分裂にしても、一体から二体に増えるだけで、こんな数にはならない。


 今回、リノじゃなく私の方を餌認定して襲いかかって来たのは、エルフの豊富な体内魔力にも惹かれちゃったから……なんだろうし、多分。

 そのスライムにしても、こんな高濃度の魔力を浴びるのは予想外だったんじゃないかな。


『鑑定』結果をそのまま信じるなら、スライムの種類は同じだから、今回は何か違う条件があったと言うことになる……。




 ――もしかしてだけど……元々、分裂間近の個体だった、とか?


 少量だけど雨が降った後だし、一番生き生きしている時期だったしあり得ると思うんだ。


 その元気いっぱいな個体に、私が魔力に満ちた魔法をたっぷりと当てちゃったせいで、だめ押ししちゃったから……とかかもしれない。


 雨上がりに元気になって分裂するタイミングと重なっちゃって、ヤバい増え方をしたんじゃないかな? 


 リノにも話して、推察だけどたぶんそれが正解に近いんじゃないかということになった。




「でもこれ、ある意味、成功したって言えるんじゃないですかね?」


「え、どうゆうこと?」


「だって結局、増えたスライムから素材がいっぱい取れたって事になりませんか? たぶん、普通に討伐してたら気付けなかったでしょうし……」


「……確かに。無事だったから言える事だけど、やり方さえ知っていれば、一体見つけるだけで稼げるよね」


「はい。結果だけ見れば、かなりお得だと思います。それにもう、次回からは戦闘に備える事が出来ますから! 早めに検証できてよかったと思えばいいんです、ね!?」


「そっか……。うん、ありがと、リノ。そう思うことにするね」


「はいっ。今度は二人で無双しちゃいましょう!」


「ふふっ、そうだねっ」


 うん、リノに励ましてもらって元気が出た。種族は違うけど、彼女を信じて一緒に冒険することが出来て……本当によかったよ。




 気を取り直して、討伐したスライムを回収してきたのを確認していく。


『鑑定』してみても、こうやって増えたスライムも品質は変わらないなぁ。高濃度の魔法の影響で、より上質の素材になってないかなとちょっと期待したんだけど。まぁ、量も質も両方共にとか、そんな上手くはいかないか。


 素材として取れたスライムは、平均して一体でバレーボール一個分くらいと、少し小さく軽くなった。

 でも、量があるので一纏めにしてみると、結構な大きさと重さになってくれたのでホッとしたよ。


 体力と筋力は人族のリノの方があるので、この重さがある方のは持ってくれることに……ありがと、頼らせて貰うね。

 代わりに香草の方は私が多めに持つことになった。こっちのは嵩張ってるだけで軽めなんだよね、助かります。


 ちなみに達人だと、スライム一体でバスケットボール一個分以上の大きさになり、一体で小さな窓ガラス一枚分作れる量が取れるそう……すごい。


 素材まるごと上手に取るには、私達の技能が足りないってことだよね。達人の域に達するには、まだまだ時間がかかりそうです。






 無駄に魔力を使いすぎたので、少し早いけど手近な樹に登って休憩を入れることにする。


 手持ちの保存食を食べ魔法で出した水を飲んで、栄養と微量の魔力をしっかりと補給していく。

 目をつぶってじっとしている方が回復が早いので、一旦『索敵』や『聴覚強化』スキルなど、普段から並行して使っているスキルも全て切って、ゆっくりと体を休めることになった。


 一人で行動していた時には、常に気を張っていたから精神的な消耗度が大きくて大変だったんだよね。その時は必死で気付かなかったけど。


 こうして休むことに専念出来るのも、パーティーだからこそ。私が休んでいる間は、リノが『嗅覚強化』スキルで周囲を警戒してくれてるんだ。


『嗅覚強化』の探索距離は『索敵』スキルに及ばないものの、一度遭遇した魔物の臭いをかぎ分けられるらしくて、森のなかでは色々と利便性が高い。安心して任せる事が出来た。




 でもこの『嗅覚強化』スキルって、むやみにレベルを上げると町中だとかなり厄介なことになるらしいんだ……。


 何故なら、朝から晩までどこかしらから食べ物の臭いが漂ってくるので、常に強烈な空腹感を抱える体質の彼女にとってそれは、際限なく飯テロされ続けている状態なんだとか……うわぁ、悲惨だ。


「今まで黙ってましたけど……もうね、本当に辛いんですよ」


「う、うん。そ、それは、そうだよね……」


「ええ。こんなにレベルを上げたくないって思ったスキルは初めてでした……」


「う、うん」


 ……私も絶対、上げたくない。『嗅覚強化』もレベル1だと普通に便利なんだけどな。ひとつ上がるだけでそんなになるとは……。



 ともかく、今日はお詫びも兼ねて、頑張ってたくさん獲物をとって、リノの為に美味しい焼き肉をいっぱい作っちゃおう! 待ってて、リノ!





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