第70話 出会っちゃった……
香草塩に使っているのは香草だけじゃない。金茶香茸という、トリュフに似た香茸も少量、アクセントとして入れているんだ。
日本でもトリュフ塩とか売ってたし、これも合うんじゃないかと思って試してみたらバッチリだった。明らかに一味、グレードアップしたよね。
少しバターのような、香ばしい独特の香りがするんだよ。この匂いを発して動物を引き寄せ、食べてもらって胞子を運ばせ繁殖していくんだとか。
地表ギリギリに生え、落ち葉の下に隠れるのでとっても見つけにくいんだけど、私の『鑑定』に加えて、リノの『嗅覚強化Lv2』があればいけるはず。
私の『嗅覚強化Lv1』では、あんまり役に立たないことが分かっているので、事前に彼女に匂いを嗅いで記憶してもらっている。
これだけ香り高い香茸だし、美味しい調味料の為にもリノなら見つけてくれるはずっ。
なので、彼女には金茶香茸をメインに探してもらい、水光茸を中心に採取して行きながら買取価格の高いマジックキノコも生えていないかと『鑑定』していった。
本当、このスキルがなかったら異世界で茸狩りとか絶対無理だったよね。取っててよかったっ。
「なんか、いろんな種類の茸がいっぱい生えてきているけど、マジックキノコとか珍しいのは中々見つかんないもんだね」
「う~ん、まあこういうのは運に左右されるとも言いますし……。『幸運』スキル持ちの私たちは有利なはずですけど」
「そうだよね。見つかるといいなぁ」
おかしいなぁ。リノと出会ってから、『幸運』スキルが一層活躍してると思った事もあったんだけど……やっぱり運だけに気まぐれなのかもね?
◇ ◇ ◇
――お目当てのマジックキノコが見つからない中……。
意外なものが一体、ポヨヨンっと目の前に現れた。
「これは……スライムだね」
「はい、スライムですね?」
「う~ん。珍しい茸じゃなくて、スライムが出てきたかぁ。確かにこれも北の森では希少ではあるんだけど……」
「そうですね。ローザはまだ、この森で一度も見ていないって言ってましたもんね?」
「うん。ここを狩場にしてから、雨降りの後に来たのは初めてだっていうのもあるかもしれないけれど。こういう時は、割と出てくるみたいだとは聞いてた」
「ここで出会えたのは間違いなく、運がいいんですよね……普通なら?」
「そうなんだよねぇ……」
でもね、違うんだよ……これは別に今、探してなかったというか。
スライムって買取価格は高いけど、マジックキノコと違って昇給ポイントがほぼ付かないんだよね。
パーティーの人数掛ける百体分で6点なので、私とリノだと二百体分のスライムを一日で集めないといけない計算になるんだ。無理でしょこの数は……ね?
私達としてはダンジョンに入れる資格のある八級に昇級することを優先して目指しているので、同じ魔物ならポイントの稼げるスモール・ワームとかの方がまだいいんだ。
それに、一匹だけって言うのも扱いに困るというか。スルーしとくか?
「どうしましょう、狩ります?」
「う~ん、迷うなぁ」
とか話しているうちに、のんびりポヨンポヨンしていたその一体が、急に勢いよくボヨンっとジャンプをし、顔面に向かって飛んできた!
「わわわゎっ!?」
『
指先から水の弾丸が、真っ直ぐに飛び出すっ。
「あっ、ローザ!?」
「しまった!」
思わぬ跳躍力にびっくりして、とっさに水魔法を打っちゃったよ! 使ってはいけないと言われていたのにっ。
スライムのプルプルボディーを見たら水を連想しちゃって……もう、私のバカ!
水魔法で正面から攻撃され、好物の魔法の水をたっぷりと吸収してしまって丸々と膨らんでるよっ。生き生きとしだしちゃった!
やたらとその場で元気よく、タシュッ、タシュッ、と垂直跳びしているスライムを呆然と見つめていると……。
パーンっ、とポップコーンが弾け飛ぶように一気に弾けた!
「なっ!?」
次の瞬間、その飛び散った小さな分裂体が、あっという間にムクムクと膨れあがっていく!
「ええっ、分裂したやつがみんな、大きくなってますよ!?」
どういう原理が働いているのか分からないけど、一つ一つの大きさが元のスライムの大きさまで一瞬で急成長してしまった!?
「な、なにこれ?……ただ大きくなるんじゃなくて、こんな増え方するなんて!?」
「あっ、ローザっ、危ないです!」
「わわっ、ありがとっ」
リノがサッと手を引っ張って、後ろへ移動させてくれた。スライムの生態にびっくりして、動きが止まっちゃってた。魔物を前にして注意力散漫になってたよ……気をつけなきゃ。
短くお礼を言ってから、安全圏まで離れて、やつらの動きを観察してみる。
ざっと見た感じで、十体以上に増えてるしっ。一度の水魔法でこんなに効くもんなの? 多すぎない?
普段よりも攻撃的になっているのか、あっちこっちに飛び散らばっていた生まれたてのスライムたちが、ポヨンポヨンと勢いよく弾んだり、プルプル震えたりしている。
今にも跳びかかって来そうというか、みんなこっちに向かって来る気満々ですよねっ。
体当たりはともかく、スライムには溶解液での攻撃がある。弱い魔物とはいえ数が多いと討伐には少し危険が伴うから気を付けなきゃっ。
「……どうします?」
「囲まれちゃう前に個別攻撃で倒そう! 素材は余裕があればで構わない!」
「はいっ、了解です!」
それから私は風魔法で、リノは剣を使って、分裂し一気に育ってしまったスライムたちを一体ずつ、協力して倒して行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます