第81話 大鍋でスープ作り
「それにしても迷いの魔樹が、また森の外周付近まで出てきてるなんて……驚きましたね」
「そうだね。私たちも北の森にずっと行ってるけど、あれから『索敵』範囲に一度も引っ掛からなかったのに」
「はい。この町を守るためにも頑張りたいですけど、すでに何体も討伐しているローザはともかく、私は火力もないし幻術にも耐性がないですし。精々、道中やローザが討伐中の護衛というか他の魔物を警戒するくらいしか出来ません……」
「それで十分だって。ソロよりパーティーの方が確実に安全なんだし、実際随分楽に活動出来てるから。それでも私達が初心者パーティーでまだまだ弱いっていうのは変わらないんだけど」
「ようやく一通りの装備が揃ったばかりですしねぇ。冒険者としては駆け出しもいいとこですから仕方ないですよ」
「そうだね。唯一勝っているのが私が『索敵』スキルで迷いの魔樹の擬態が見破れることと、幻術に耐性があって他の冒険者さんより安全に討伐出来るっていう事くらいかな。エルフとは相性がいいんだよね、迷いの魔樹って」
この特性を最大限生かしたいってエドさんは考えてるんだろうけど、二人だけだと圧倒的に火力と経験が足りてない。自分達の安全を確保するだけで精一杯だもんね。
なので最低でも後一人、護衛的な役割をしてくれるベテラン冒険者さんが加入してくれればましになるんだろうけど、この町は辺境だけあって冒険者の数が思ったより少ないらしく、個人レベルでパーティーメンバーを探すのは厳しいみたい。
だからエドさんは、ギルド職員としての打算もあるだろうけどサポートを申し出てくれたんだろう。
この町に来て日の浅い私達に、そんな都合のいい知り合いはいないと思って……。
でも、幸いにも私には一人だけ心当たりがあったので、どうなるか分からないけど伝言を頼んでみたんだ。
「詳しい事は、歩きながら話すね」
「じゃあ、私はちょっとそこの屋台で串焼き肉を五本だけ買ってきていいですか!」
「えっ? う、うん。行ってらっしゃい」
今から宿に戻って、料理して食べようねって話していたんだけどなぁ。
美味しそうな匂いが漂ってきているもんね。一仕事終えて空腹がピークの時だし『嗅覚強化Lv2』を持つ彼女にはこの匂いは強烈だろう。誘惑に勝てないのは仕方ないかも。
ということで急遽、食べ歩きもしながらこの町に来る途中で出会った狼人族の青年、ラグナードの事を話した。
ゴブリンの群れに襲われてたところを助けて貰ったこと、ソロの冒険者かどうかは確認してないこと、この町にいるとは思うがまだ一度も再開していないこと等……。
彼女も、今初めてその知人が狼人族の青年だって知らされてびっくりしたみたいだけど、それなら異性でも安心だと言ってくれた。パーティー組めれば心強いんだけど、さてどうなることやら。
こればかりは運に左右されるからね……『幸運』スキルにめっちゃ期待しとこう、うん。
「じゃあ、さっき採ってきた茸や香草もあるし、宿の炊事場で料理しようか! お肉は干し肉を使ってさ、ね?」
「はいっ、私も手伝います!」
宿に着いて、借りている部屋で革鎧を脱いで聖魔法で『浄化』してから、昼食を作る為に一階へ降りる。
干し肉を作った時に大量に出たウォークバードやホーンラビットの内臓や骨を何かに使えないかとリノに相談したら、煮込んでスープを作ったらいいと教えてくれた。
――なるほど鶏ガラスープか……美味しそうっ。
内臓の処理は彼女がやってくれたので、その内臓や骨、水光茸や香草塩を入れて、じっくりコトコトと時間をかけて煮込んだ。
二人共、大きなお鍋は持ってなかったので、女将さんにお願いしてみたら快く貸してくれたんだよね。
お礼は出来上がったスープの味見でいいって言われた……ありがたい。
こうして旨味を引き出しておいたスープの中に、リノのリクエストでたっぷりと入れた干し肉や、水白茸等の食用茸、香草、トマトを入れて再び煮込む。
このトマトは2cmほどの大きさで、さっき東の草原に行った時に見つけたもの。房状に生っていたのを取ってきたんだ。
ドライトマトにして保存も出来ると『鑑定』に出ていたので、二人でたくさん採取しておいた。
そう、これ「トマト」って言うんだよね。これまでも会話や『鑑定』結果から塩や胡椒、米やジャガイモなど、呼び慣れた日本語の名称で聞こえたり表示されたりするのが不思議だったんだけど、多分『異世界言語』が自動で翻訳していたからなんじゃないかな……今更だけども。
この赤くて小さな実も、酸味がキツいことを除けば見た目も味もトマトそのものなので、「トマト」と自動翻訳されたんだと思う。便利でいいよね。
大鍋いっぱいのスープが出来上がったので、女将さんも呼んで三人で食べてみることに……。
干し肉が多目に入った具沢山の煮込みスープになったんだけど……お味の方はどうかな?
初挑戦の料理ってワクワクするし挑戦しがいがあるんだけど、食べて貰う人にプロがいると緊張するなぁ。
「酸味に加えてピリッと辛みが効いた、美味しいスープになりましたね」
「ベースは塩味なんだけど、トマトの酸味がいいアクセントになってて飽きさせない味付けだねぇ。これにも香草塩を使ってるのかい?」
「はい、そうなんです。そのおかげなのか、内臓の臭みも全くなくって驚いてます。香草の中でも特に黒鞘豆草が、いい感じに働いてくれたんでしょう」
「ウンウン、あれは肉料理には欠かせない香草だからね、私もよく使うよ。しかし、干し肉もこうして食べると柔らかくって食べやすいねぇ」
「本当に。美味しいです、ローザ!」
「ふふっ、ありがと」
ちょっとタイ料理っぽい仕上がりになったかもね?
大鍋に残ったスープは、この総量なら食べきれますっとのお返事を食欲大魔人さまからいただきました……う~ん、ものすごいっ。この光景は何回見てもびっくりするよ。
女将さんと二人で最後の一杯を食べきるまで、唖然としてただ見つめてしまっていた。
まぁ、食欲があるのはいいことなんだよ……多分。
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