第79話 再び奴らと遭遇しました



 支援魔法が切れるタイミングで休憩を取ってはまた進みを繰り返し、果樹園に段々と近づいてきた。

 すると、前方に黄色とピンクのファンシーな色合いがチラチラと見えてきた。『索敵』の範囲外だったけど、どうやらこの先にスモール・ワームの群れがいるらしい。

 今までは果樹に群がっている場面にしか出会ってなかったけど、今回は地面にいるみたいだ。何を食べているのかが気になる。


「多分、茸を食べてるんじゃないかなぁと思うんだけど。マジックキノコだったらもったいないし。この距離だと分からないなぁ……」


「そうですよね。近づいて確認してみますか?」


「……まだ、向こうは気づいてないよね。一回、この樹に登って見てみてもいい? ハズレだったら迂回したい」


「分かりました」



 まだお昼にもなっていないのに、今日も討伐回数が多くなっているんだよ。安全の為に魔力も温存したいからね。

 一度、樹の上から『鑑定』してみる。木々や草藪に隠れて見えにくかったけど、何とか視界が通った。


 あ、水玉茸だっ。やったぁ!


「個数は不明だけど、水玉茸があったよ」


「何だか、美味しい素材の先にはいつも、奴らがいますね」


「……そういえばウルルの実の時もいたね」


「今回も負けられませんっ」


「そうね」




 気合いの入ったリノと相談した結果、このままスモール・ワームの討伐と水玉茸の採取の二つを同時にやってしまう事に……。


 気づかれないように出来るだけ近くまで行って見ると、水玉茸の群生地にスモール・ワームが二十匹ほど群がっていた。


 うむむっ、これは……ちょっと難しいかも。


 スモール・ワームはバラバラに散らばっているから、下手にこの場所で魔法を使ってしまうと茸に当たって繊細な水玉模様が消えてしまう。

 かといって剣などの物理で攻撃しても、一体にかける時間は魔法攻撃より長い上に、一撃で倒さないと暴れてせっかくのマジックキノコが駄目になってしまうかもしれない。


「どっかへ行ってくれないかなぁ」


「……っ! それですよっ」


「んん? ……あっ、そっか!」



 魔法と物理、どちらの攻撃でも損害が出るなら、一度マジックキノコの上からスモール・ワームを退かしてしまえばいい。その上で討伐した方が損傷が少なくてすむ。


 注意するのは噛みつき攻撃と体当たりだけだし、速度は遅いし行けるはずっ。




 ――と言うわけで、さっそく作戦決行!


 魔物は何故か人を見たら襲いかかってくるので、リノが派手に音を立てて飛び出し、囮になって注意を惹き付け私のいる方へ誘導する。


 黄色にピンクのシマシマのモフモフが転がるように、続々と魔法攻撃の範囲内に入ってきたっ。


 今回は水玉茸を優先して、スモール・ワームの素材は捨ててもいいと決めたので……。



火炎噴射フレイムジェット』!



 私の最大火力である火魔法を連打し、来た順に削っていく。やっぱりポイズンラットやホーンラビットに比べて動きが遅くて狙いがつけやすい。あっという間に片付いたよっ。よかった。



 飛び火もないし、上手くいった。後は二人でスモール・ワームを一ヶ所に集め魔石を取り出してから『火炎噴射フレイムジェット』で燃やして『イクスティングィッシュ』で消しておく。



 ――スモール・ワームの甘い体液の匂いが辺りに充満する中、後始末が終わった。







「これは……思ったより残ってる?」


「はいっ、食べられちゃっているのも多いですけど、それ以上にたくさん生えています!」


「本当だ。よかった」


 近づいてみると、確かに噛られたり押し潰されたりしたマジックキノコが目立っているけど、よく見れば無事なものもいっぱいあった。


「争奪戦に勝ちましたねっ」


「まぁ、ね。作戦成功ってことで……他の魔物が来ないうちに採っていこう」


「じゃあ、私は周囲を見張っていますね」


「うん、お願い」


 森の中にぽっかりと開けた空間は割りと広めなので警戒しやすいし、彼女にお任せして私は採取に集中することにした。



 赤、青、緑の水玉茸を、それぞれの属性魔法を間違えないよう注意しながら一つ一つ集めていき、途中、襲撃に来たホーンラビットやポイズンラットの群れも返り討ちにして、早めのお昼休憩を挟んだ後も採取を続けた。


 満足するまで採ったので、数えてないけど結構な量になったと思う。


 まだ魔力に余裕はあるけど、今日はここまでにしておこう。


 最後に街道沿いにある水白茸を自分達で食べるぶんだけ採ってから、帰途についた。







 ボトルゴードの町に戻ってから冒険者ギルドで精算をしてもらったところ、今回もいい値が付いた。


 軍資金が貯まったので、さっそく鍛冶屋に行き、ブルボさんにリノの防具について相談する事にした。


 前衛なので、革鎧は私よりも軽くていい品質のものが欲しい。そのことを伝えて色々見せて貰った結果、丈夫で軽めの魔物の皮でできたものに部分的に金属で補強してあるのを選んだ。


 鎧の下に着る鎧下も、ちょっとお高いけど、これだけでも十分防御力は上がる上等なやつだと太鼓判を押して貰ったものがあったので、併せて買うことにする。


 中古品だったのとサイズが小さく売れ残っていたということもあり、かなり割り引いて貰えたけどそれでも両方でお値段3000シクル。

 パーティー費用を全額出しても足りなくて、リノはほぼ全財産をつぎ込んで支払った。

 リノが出した分は、今度稼げたときにパーティー費用から補填するっていったんだけど……。


「そこまで甘えられませんから。両方とも明らかにローザのより高額ですし、今回は出させてください」


「そう? 無理しなくていいんだよ」


「いえ、大丈夫ですからっ」


 彼女がそう主張するので押しきられてしまったけど、本当に大丈夫かなぁ。

 貸していた宿代も返してもらったばかりだし、もうリノ基準で一日分の食費ぐらいしか手元に残ってないんじゃ?


 うん、やっぱりシュンっとしちゃってるね。買い食い出来るだけのお金も無いっぽい……。これは頑張って自給率を上げないと!




 リノには早速、買ったばかりの革鎧を着てもらう。ブルボさんが主に、窮屈そうな胸の辺りをささっと直してくれたので余裕ができ、快適なサイズにに仕上がったように見えるけど、どうかな? 


「革が柔らかくて動きやすいです。これなら森の浅い部分に練習がてら着て行っても大丈夫だと思います」


「よかった。でも、最初は無理せず慣らしていく方針でいこうね」


「はいっ、そうします。安全第一に、ですから!」


 これでリノさんも紙装備を卒業したので、パーティーの生存率が上がりましたっ。よかった。


「じゃ、帰ろっか」


「はいっ。後はもう、干し肉作りの仕上げだけですよね。それが終わったら、ゆっくりしましょう」


「そうだね」


 ちょうどおやつの時間だし、お腹を空かせたリノに屋台で揚げ菓子でも買ってあげよう。





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