第78話 探しています




 ◇ ◇ ◇




 翌朝は、早朝から一階の炊事場に降りて、干し肉作りを開始した。


 昨日、薄切りにする前の塊肉に香草塩を振って大葉で包んでおいたんだよね。取り出してみると、お肉から水分が出たみたいで少し縮んでいた。うん、いい感じ!


 三羽のウォークバードの枝肉は結構な量だけど、リノが骨から外してくれたのを、脂身を取り除いてから薄切りにしていく。

 自分に関する記憶がないので比較出来ないけど、『料理』スキルのおかげなのか、割りと手早く処理出来た気がする。


 ついでに今日の昼食用のも作ってしまおう。昨日採ってきた水白茸がまだまだたくさんあるので、それと切ったばかりのお肉を炒めただけの簡単クッキングだけど美味しそうに出来たよ。大葉で包んで持っていくんだ。


 その他の薄切り肉は干し肉にするため、もう一度香草塩を振ってから表面だけ火を通していく。リノ先生によると、この時、焼きすぎないのがポイントらしい……なるほど、メモって置きます。


 その後は魔法で乾燥させるだけなんだけど、朝から疲れきるといけないので、魔法を使った処理は途中までにして、最後の仕上げは帰ってからすることにした。今から森に入る予定だから、出来るだけ魔力を温存しとかないね。







 二人で手分けしてやったらか、それほど時間をかけずに終われたので、女将さんの美味しい朝食を食べてから冒険者ギルドに向かった。


 まだ朝の混雑は続いていたけど、買取カウンターの方は空いていたので昨日の成果を『鑑定』してもらう。

 ポイズンラットの魔石や、ホーンラビットはお肉を食べちゃったので残りの魔石と角や毛皮、各種茸類などで、結構な量がある。

 査定に時間が掛かるそうなので、ギルド内で座って休憩することに。朝から忙しかったから、ちょうどいい息抜きになる。




 しばらく二人でおしゃべりしながらのんびり待っていると、呼ばれたので窓口に行く。


「お待たせしました。茸の状態がどれも非常によかったので、買取価格も上がっていますよ。全部で2720シクルになります。昇級ポイントは28ポイントです。確認が済みましたら、いつものように登録の更新をお願いします」


 カウンターの上に、お金を入れたトレーと魔方陣魔法を刻んだミスリル板が置かれる。いい値が付いた報酬を受け取り、ミスリル板に左手をかざし軽く魔力を流し込んでギルド証の昇級ポイントを書き換える。



 やっぱり金茶香茸には一番の高値が付いてた。あの時、群生地を見つけられてよかったよっ。

 茸の大きさによって一個で5~100シクルと振り幅は大きいけど、大きいほど風味がよく価値も高い。

 一番大きかった8cmのが80シクルになったんだよね。日本円にしたら八千円だよ? すごくないですか。

 今回は自分達用のを除いて三十個を買取してもらったんだけど、合計で1020シクルにもなった。本当にいい収入源になる。

 金茶香茸は同じ場所にまた生えてくるというし、小さいのは取らずに残してあるからまた近いうちに採りに行きたいっ。


 水玉茸は何故か採取出来る茸の大きさが均一らしくて、価格も一個10シクルと決まっている。二十八個で合計280シクルと金茶香茸ほどの高値は付かなかったけど、一個でゴブリン一体と同額と考えると安全だしお得な気がする。


 水光茸は今回一番数が多かっただけあって合計で1162シクルで、重さで計って貰ったんだけど多分二千個以上はあるだろうって言われた。

 木の幹にびっしりと生えていたから次々採取出来たとはいえ、二人でそんなに採っていたとはびっくりだよ。一つがマッシュルーム位の小ささだったのと『採取』スキルのおかげでそこまでたくさん採れたのかもね。


 どの茸にも報償金が出てなかったのは残念だけど、少量でも雨が降った後は出てきやすくなるらしいので、今日も頑張って茸を探すつもり。

 二人分の『幸運』スキルが仕事をしてくれることを期待して……。







 いつもより始動時間が遅いのと、競争相手がいない町から遠い巨木群の近くで採取したいというのもあって、そこまでは安全な街道を行くことにした。


 目的地までは、北門を出て10km以上あるので鍛練がわりに軽く流して走っていく。


 目印となる巨木群がはっきり見える距離まで来たら、今度は街道からそれて森の中へと入っていくんだけど、当然ながら町の近くの手入れされた森と違ってほとんど人が入らないので見通しが悪く、危険も多いんだよね。


 一人では何回も来ていて『マップ作成』に詳しく表示されるようになった場所だけど、リノを連れては初めてなのでいつもより慎重に行こうと思う。


 採取中心にいく予定でいても、ここでは魔物との戦闘は避けられない。少しでも遭遇を減らす為に『索敵』スキルを発動させ、近くに危険な気配がないかを探っていく。


 森の奥へと入り込まないように注意しながら、リノにも『嗅覚強化』スキルを使ってもらい、お目当ての茸を探してゆっくり進んでいった。







 巨木群から果樹園の方に向かっているんだけど、やはりと言うか水光茸に関しては影も形もない。昨日はあれだけあったのに、本当に一日で全部消えちゃうんだね。

 水白茸はポツポツと見つかるものの買取価格も安いし、街道沿いにも生えているので自分達が食べる分だけ帰り道で採ればいいと今は素通りしている。


 この辺りで一番よく目につく茸は、虹色茸かな。雨の後は白い茸のほぼ全部が色付き採取可能になるというだけあって、あっちにもこっちにもカラフルな五色の固まりがある。

 ここは虹色の樹の近くなので、なおさらよく繁殖しているんだろう。

 マジックキノコではない普通の食用茸だけど、滋養強壮作用があって美味しいので人気はある。

 ただこの茸も、十個で1シクルと買取価格が安く、採取場所も町から離れているので常設依頼なのに納品が少ないみたいで、前に少し採っていっただけでエドさんがすごく喜んでくれたんだよね。


 ……今日もちょっと採っていくか。いつもお役立ち情報をもらってお世話になっていることだし。


 多いと一ヶ所で五十個ほどは苦もなく集められるため、時間もそんなに掛からない。二人でやれば、すぐに一袋分がいっぱいになった。




 茸狩りをしている間もやっぱり魔物との戦闘は避けれないので、冷静に淡々とこなしていく。


『索敵』で事前にどの魔物がどれくらい来るか、分かっているからこそ出来る事なんだけどね。

 ポイズンラットにホーンラビット、時々ゴブリンやスライムなんかにも出くわすけど、何度も対峙してきた弱い魔物ばかり。

 なので今日もラストアタックを彼女に任せる余裕がある。私は後方から魔法で援護していくいつものスタイルを貫いた。


 連携も上手くなってきて順調なんだけど、肝心のマジックキノコがね……中々見つからないです。普通の食用茸なら色々生えてるんだけどなぁ。





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