第77話 「乾燥」魔法
水玉茸には、潜在的な能力を引き出し増幅してくれる効果があって、同属性であれば攻撃魔法以外の魔法、生活魔法もスムーズに発動出来るようになるらしい。成長の邪魔をする蓋を外す補助アイテムのようなものなんだ。
この事は、シルエラさんから詳しく教えてもらったから分かった事なんだけど、それを聞いた時に、このマジックキノコがリノの状態を改善するのにぴったりなんじゃないかって思ったんだよね。
リノと話し合った結果、彼女が今から四属性全てを覚えるには時間も魔力も絶対的に足りないから、どれか一つ属性を伸ばす方向で挑戦してみることに決めたんだ。
主に森の中で活動する事と、スライムの討伐や保存食作りに役立つこともあって、まずは風魔法を覚えるのがいいんじゃないかってことになった。
ちょうど今、私が借りている風属性魔法書1もあるし。魔法書は、総魔力量がその魔法を使えるレベルに達してないと読み解くことが出来ないから、読めるかどうかを一度、確認しないとだけどね。
風属性を補強するのは、緑の水玉茸になる。夕食後に部屋に戻って確認したところ、今日採取した三十七個の内、緑の水玉茸は九個だったので全部食べてもらった。
「この量だとまだ実感出来ないと思うよ。私の時は二十個くらい必要だったから。また手に入れたら食べてもらうね」
「はい、ありがとうございます。でも……よかったんですか? マジックキノコは高額買取になるのに私が全部いただいてしまって……」
「うん、気にしないで。たくさん食べれば魔法を覚えやすくなってパーティーの為にもなるからいいの。魔力総量は増えないけど、魔力を扱いやすくする事は出来るから実戦ですぐ役立つはずだからね」
「でも、ローザだって水玉茸を食べれば強化できるのに……」
自分だけっていうのを気にしているのか。でも魔法を教える約束だし、彼女が強くなればパーティーとして生き残れる確率も上がるわけだし。
「う~ん、じゃあリノの革鎧と鎧下を買う資金が出来た後は、水玉茸を私も食べる事にするからそれでどうかな?」
「分かりました。じゃあ私も早く装備を整えて、パーティーの戦力になれるように頑張りますねっ」
「うん、よろしくね」
話がまとまったところで、自家製のMP微量回復付きのドライフルーツを食べて魔力補給しながら、水光茸の乾燥作業をする事に……。
机の上に例の殺菌作用のある大葉を敷いていく。たくさん採って来ておいてよかった。今日は大活躍しているよ。
その上に水光茸を重ならないよう並べていくんだけど、量が多いから一度には無理そう。何しろ大きな布袋四つに満杯あったからね。
仕方がないので私が魔法処理をしている間に、リノに床の上に布を敷いて同じように大葉と茸を並べてもらう事にした。
いつものように聖魔法の『浄化』を掛けてきれいにし、『聖火』で陽光がわりの光球を出して強めに魔力を込めて浮かせた。
全体に当たるよう調整してから、茸の中の水分を「吸収」と「乾燥」で絞り出すんだけど、ここでちょっとリノにも乾燥魔法を手伝ってもらう事に。
「乾燥」は生活魔法で、村でも保存食を作るのにこの魔法を利用していた人は多いらしく、彼女もやり方は見ていたと言うので挑戦してもらった。
魔物を倒してパーソナルレベルも上がっているはずだし、聖魔法の『治療』と『浄化』の重ね掛けで魔力欠乏症のような体質も少しだけど改善されているはず。
風属性を扱いやすくする水玉茸も食べたし、結果が出るといいんだけど。
彼女も連日仕事に魔法の練習にと疲れていると思うから、魔法を使うのは少しだけにしておこう。
「吸収」まではしたものを渡して、「乾燥」魔法だけチャレンジしてもらおうと目の前で見本をして見せる。
「やってみますっ」
手をかざして、体内で魔力を練ってから放出する。うんうん、ちゃんと魔法が発動しているよっ。後はどのくらい長く続けられるかなんだけど。
「こ、これで精一杯ですっ。どうでしょうか?」
「うん、頑張ったね。いいんじゃないかなっ」
そんなに多くはないけど、きちんと「乾燥」出来てる。初回にしては上手く出来たと思うよっ。
へばっちゃったリノさんには、夜食を食べて回復してもらおう。
その間に残りを次々と同じ手順で乾燥させると、嵩が減った水光茸は全て机の上に乗るまでになったので、仕上げにもう一度、聖魔法の『聖火』で照らしておいた。
ついでに金茶香茸も『浄化』して、大葉で包み直してしまっておく。
――これで、私の魔力もすっからかんになっちゃったよっ。つ、疲れたぁ。
「今日はここまでにしとこうか」
「そうですね。明日は早朝から干し肉を作りますか?」
「うん、それが終わったらギルドも空いているだろうし、午後の成果を納品しに行こう。その後はどうしよ」
「そろそろ一度、休みを入れたいんですけどねぇ。ただ、まだ装備を買う費用が貯まっていませんし、明日もまだマジックキノコが普段より手に入りやすいって聞くと……ちょっと迷いますね」
「確かに。今一日休むと、発見できる確率も下がりそうだもんね。う~ん……じゃあさ、明日は森の様子をみるつもりで活動時間を短めにする、っていうのはどうかな?」
「あ、それはいいですねっ。無理をすると危険ですし、見極めも大事ですもんね」
「命大事に、だからね。精神的な疲れも貯まっているだろうし慎重に行きたいし」
「ええ、私もそれがいいと思いますっ」
「決まりだねっ」
――そういうことになった。
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