第150話 絶対防御スーツの工房



 店舗の方へと移動し、丁寧に返却手続きをしてくれるシルエラさんを見ながら思う。


 私って、この美しい人と同族なんだよね。ちょっと今だに信じられない時があるけど。この町に来てから初めて見た本物のエルフ族の女性は女神と見紛うばかりの美麗さで、当初は直接会話するってだけで緊張してた。


 そして出会ってすぐ、魔法の先生を買って出てくれたんだったよね。同族の子供……っていうか十六才の幼児がひとりでいるのが心配だからって。


 それから何度もお会いする内に打ち解けて、ここへは魔法書を借りに来る他にもちょくちょく寄らせて貰っていたなぁ。

 森で採れた果物や茸なんかをお裾分けしに来ては、まるで家族のように他愛ないおしゃべりをして楽しんで……。

 顔を見せに来るとシルエラさんが喜んでくれるのが分かるから、数日置きに来ていた気がする。



 ――気軽に会えなくなるのが短い期間だとはいえ、やっぱり寂しいな……。




 正直なところ、もっと一緒にいたい気持ちもある。けど、ひと月経てばまた、自由に会えるようになるんだから、それくらいは我慢しなきゃね。


「じゃあシルエラさん、今日はありがとうございました」


「ええ、行く前に会えて嬉しかったわ。またね、ローザ。ラグナードも」


「おう、またな」


 別れの挨拶を交わし、返却の手続きを済ませると早々にお店を出たのだった。







 最後に、スライム製の絶対防御スーツを作っているお店に向かった。こちらはまだフル稼働しているようで、この時間でもお店の外まで赤々と明かりが漏れていた。お疲れ様です。


 ここでは親方とボトルゴードの町出身の双子の弟子が住み込みで働いていて、ローザとも顔見知りだ。昼間だと他に、日雇いで幾人も通ってくるので賑やからしいが、生憎、あまり大勢の人と接触したくないローザはその喧騒を知らない。双子を通して伝え聞くだけだ。


 それでも来月の雨の月から、茸とともにスーツの原料となるスライムも大量発生するのは確実のため、それを見越して大幅に日雇いを増やし、絶対防御スーツの生産を増産する予定だと言っていた。


 冒険者ギルドと協力して改良に改良を重ねて作り上げた自慢の目玉商品だし、製作過程では領主様も少し関わっている。

 商品の種類も増えたこともあって、どうやら双方とも熱心に売り込みをしてくれたらしく、そのおかげもあっていつもより多くの商人が訪れる予定なんだとか。


 そんな大変な時に町を離れるのは心苦しいが、今の話を聞いて益々用心が必要だと気を引き締めた。そんなに大勢来るなら、中には悪意を持った商人も混じっているかもしれない。もしかしたら異種族狩りをする悪質な商人が……。




 真面目に誘拐や命の危機……になるかもしれないので、やはり遠慮していられないと腹をくくり、早速親方に声を掛けると明日から町を離れるのでもう来れない旨を話した。


「おお、そうか。非常に残念だ……」


「ええぇぇっ、ローザちゃん辞めちゃうのぉ? せめてもう一ヶ月……と言わず二ヶ月……ううん、やっぱりずっといてよ~っ」


「そうだよっ。これからの時期にローザちゃんが辞めちゃうと、ちょっとどころか、かなりきっついよ~っ」


 作業中だった双子が飛んできて騒いだ。


「こらっ。お前ら、騒ぐんじゃないっ。仕方がないだろう。彼女にはそういう約束で来てもらってたんだし」


「「でも、親方~!!」」


「察しろ……こんなに急に行くんだ。何か事情があるんだろう」


「「……はっ!?」」


 さすが双子、驚き方まで一緒だ。綺麗に声がハモった。


 まあ、折を見て……と言うか時期を見て、戻れるなら戻ってきたいと思っているけど、 今は詳しく言わないほうがいいよね。親方には事情を察せられてしまっているようだけど。

 私の口からはっきりと種族の話をしたことはないし、皆も不躾に聞いてこなかったけど、言わないだけで多分と言うか絶対エルフだとバレている。

 見ない振りをしていてくれたであろう皆のことは、とても信頼している。彼らなら、スライムスーツにエルフが関わっているなんて、言い触らさないと思えるほどには、ね。




 三人共に非常に惜しんでくれたが、元々いついなくなってもいいという条件で契約を結んでいたからと惜しみながらも了承はしてもらえた。


 ただ、このスーツを量産するにあたってはここ最近、ローザの能力に頼っていたことも事実だ。スライムが大量入荷する事を見越して種類を増やし、一定時間までは繰り返し使える物等も開発されたのだが、その新商品にも効果的に聖魔法が使われているのだ。

 と言うことで、快く了承はしてくれたものの、稀少な聖魔法の持ち主は特に、こんな辺境の地だとそう簡単に見つからないしどうしようかと、三人の顔色が目に見えて真っ青になってしまったのを見てしまい……このまま別れてしまうのは気が引けるし、チクチクと罪悪感を刺激されてしまうんですけど。




 そんな私の様子を見ていたラグナードが、最後のご奉仕として今工房にある分のスライムの処理を全て、引き受けることにしてはどうかと提案してくれた。


 焼け石に水かもしれないが、やらないよりは良いだろう……と。


「……いいの?」


「ああ。このまま別れてもきっと気にするだろう? それなら少しでも憂いを晴らしておくべきだ」


「うん。ありがとう、ラグナード。じゃあ親方、今からやっていってもいいですか?」


「いいのか? 正直、こちらからお願いしたいくらいだが……」


「はい、やらせてくださいっ」


「分かった。よろしく頼む」


 そう言う訳で早速、片っ端から聖魔法をかけて回り……無事に全部終わらせることができたのだった。





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