第149話 魔法薬
「成る程、魔力の節約にもなるんだね」
「ああ。これひとつあると便利だぞ。それにもうひとつ、利点がある」
「そうなの?」
「うん。魔法薬だと、使用回数にほぼ制限がないんだ」
「……っ! それいいね!」
「だろ?」
聖魔法やポーションの治療は、効果範囲も即効性も非常に高いのだが、使用頻度が一定数を越えると効かなるという弊害がある。
しかし、魔法薬にはそれがほぼないという。使用者の内包魔力に働きかけて、自己回復を促進する為だといわれている。
必然的に、個人の魔力量によっても効き目が変わってくるということになり、それは種族によっても使える薬が違うということになる。
本来なら薬師にカウンセリングを受けて、体質にあったものを調剤して貰うのが一番いいというけれど……。
「まあ、既製品に比べると高くなるな」
「……やっぱり。そうだと思った」
いいものを買おうと思ったら、高額になるのは何処の世界でも一緒だよねっ。
今回は時間もお金もないし、既製品を買っていくことに決めた。
「人族の大人用のだと効き過ぎるから、俺達のは人族の子供用のやつだな」
「子供用のお薬かぁ……」
「過ぎれば毒だからな」
「そっか。うん、分かった」
エルフ族や獣人族は、魔力と肉体の親和性が高いから、人族の町で売られている魔法薬は強すぎる。そのため、既製品を買うなら子供用のになるらしい。
ラグナードが選んだのは二つ。経皮吸収タイプの魔法薬で、それぞれ傷と打撲に効くという軟膏だった。
万能薬のような聖魔法の「治療」やポーションと違い、魔法薬は一つひとつの薬効範囲が狭く特化しているので、いくつも買うことになるのが大変。
だけど、これも安全に冒険をするためだからねっ。ポーションよりは安いからよしとしよう、うん。ラグナードへの借金は嵩むけど、今は目を瞑ろう。
リノ用と私とラグナード用ので、計四個を購入して店を出た。
「さて、他に行きたいところはあるか?」
「出来ればあと二軒ほど、挨拶しておきたいところがあるんだけど……」
本屋のシルエラさんのところへ貸本を返しに行きたいのと、スライムスーツを作っている工房にも行きたい。しばらく来れなくなりますって。
「ああ、そういやローザは、スライム工房の方にも手伝いに行ってたんだったな……分かった。じゃあ順番に行こうか」
「うん、お願いしますっ」
ここから近い順……本屋さんから先に済ませることにしたんだけど……。
残念ながらお店はもう閉まっていた。
「どうしよう」
「大丈夫、こっちだ」
ラグナードには分かっているらしく、横道に逸れて一つの扉の前まで連れて来てくれた。どうやらここが店舗の奥にある住居の方の入口らしい。知らなかった。
ノッカーを叩いて暫く待っていると……。
ガチャリッ、と音がして扉が開いた。
「あら、いらっしゃい。あなた達が揃ってくるなんて初めてね?」
開けた扉の外に立っていた二人を見て、優しく微笑んだ。
「おう。こんな時間に悪いな」
「こんばんは、シルエラさん。遅くにすいません」
ペコリと頭を下げながら、夜遅くに訪ねたことを謝った。
「いいのよ。さ、入ってちょうだい」
「はい、お邪魔します」
突然の来訪にも関わらず、彼女は快く家の中へと迎え入れてくれた。
「それで、今日はどうしたのかしら?」
「はい、突然ですが私達、明日から拠点を移そうと思いまして……そのご挨拶に来ました」
「まあ、随分と急なことね……拠点は何処へ?」
「ジニアの村です」
「これから暫く、この町も騒がしくなるからな」
「……そう、もう決めたのね。私としては寂しくなるけど、良い判断だと思うわ」
ため息をつきながらも、身を守るためには仕方がないと頷いた。
「小さな村の方が人の出入りに気づきやすいという利点がある。町よりも守りやすいだろう」
「そうね、分かるわ。あそこは開拓村だし、冒険者が増える分には歓迎してもらえるでしょう。ラグナード、ローザをお願いね」
「ああ、任せてくれ。知り合いもいるし大丈夫だ」
ラグナードは当たり前のように、シルエラさんの頼みを了承した。彼自身にも危険が及ぶかもしれないのに、躊躇なくあっさりと……。
二人にとって私は、出会って間もない他人だった筈なのに、すぐ庇護下に置いてくれて、こんなに親身にもなってくれてる……もう、感謝しかないよ。
例えこれが『幸運』スキルのおかげだったとしても、それでもうれしい。この世界に来てから今までずっと、人との出会いに恵まれてるよね……金運には恵まれて無いけど。
「あの、シルエラさん、今までありがとうございました。見ず知らずの私に色々と教えていただいて……このご恩は忘れません」
「いいのよ、そんなこと子供は遠慮しないで。私がしたくてやっていたことだもの。それに、雨の月が終わったらまた、戻って来るのでしょう?」
「はい、そのつもりです」
「じゃあ、少しの間だけ、お別れね」
「ええ。シルエラさんに暫くお会いできないのは私も寂しいですけど、教えていただいた魔法を使って強くなりますね」
「ふふっ、楽しみにしているわ。頑張ってね」
「はい、頑張ります」
それから急で申し訳ないと思いながらも、借りていた魔法書を返す手続きもお願いし、快く了承していただいた。
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