第38話 昨日ぶりですね
宿に帰って、約束通り部屋を空けて待っていてくれた女将さんにお礼を言い、早速三日分の宿代を前払いして渡す。
預けていた荷物を返してもらって、昨日と同じ部屋に入った。三階の階段を上がってすぐの部屋。
一時的に滞在するだけの宿屋の部屋でも、二日間同じ場所に寝泊まりできるっていうのは、なんかホッとするなぁ。女将さんの細やかな心配りに感謝です! あぁ、野宿にならなくて本当によかったっ。
夕飯までの隙間時間を利用して、明日以降の冒険の為にちょっとした作業をすることに……。
机の上に雑貨屋さんでおまけしてもらった例の布を広げ、さっき採ってきたウルルの実を並べていく。
これは、冒険者ギルドへ買取に出すには傷んでいるからだめだけど、傷のあるところだけナイフで切り取れば、十分食べられるもの。きちんと『鑑定』で状態を確認したから大丈夫。
なので魔法できれいに下処理してから食べやすい大きさに切り分け、最後にまた魔法を使って乾燥させてドライフルーツにする。
大きくて水分の多い果実なので多少時間はかかったけど、今回も聖魔法を使って作ったので、今まで通りちゃんと「MP微量回復」付きのドライフルーツを作ることができた。
試しに作りたてを一つ味見してみたら、甘さがギュッと凝縮されていて、噛むほどに濃厚な旨味がじわりと溢れ出てきて……つまりはとても美味しく出来てたっ。うれしい。『鑑定』にあった通りだね。頑張った甲斐があったよ!
軽くて小さいから、小腹が空いた時の保存食として森へも持って行きやすいし、いいねっ。
お店のだと普通の果物と比べて三倍以上の値段がついててお高いんだ……加工出来る魔法を持ってて本当よかったよ。
そうしているうちに、そろそろ時間になったので夕食を食べようと一階に降りていった。
賑やかな空間を見渡して、空いている席を探していると……。
そこには見知った顔がいて、今まさに食事をしているところだった。
――ああ、やっぱり君、来ちゃったのね……そんな気はしてたけど。
「あ、ローザ、昨日ぶりです! ご一緒しませんか?」
こっちに向かってブンブン手を振りながら、満面の笑みで誘ってくれる。
「うん、そうさせてもらおうかな」
私も女将さんに夕食を注文し、同じテーブルで食事をすることにした。
「どうぞどうぞっ。我慢できずに早速食べに来ちゃいましたよっ。女将さんのお料理、想像していた以上に美味しくて……ローザに紹介してもらえてラッキーでした!」
「それはよかった」
「はいっ、とってもうれしいです!」
ニコニコと元気いっぱいに答えてくれる。
こうして誰かと一緒に食卓を囲むのなんていつぶりだろう……心がホカホカしてきて、自然と笑みが浮かんでいた。
それにしても本当、幸せそうに食べるよねぇ。
女将さんの料理を口いっぱい頬張って、一生懸命モグモグしているところはリスみたい。かわいいからいいけど。
「リノの泊まっている宿では夕飯ってでないの?」
宿泊のみのとこなんだろうか? これからはここで一緒に夕食食べれるのかな? だったらちょっと嬉しいけど。
気になったので聞いてみた。
「出ますけど量も味も全っ然足りなくて……。で、外に食べに出たんですけど、屋台で昨日ローザに貰った串焼き肉を買って食べてた時に、ここの料理のこと教えて貰ってたのを思い出して! どうしても食べてみたくなって来ちゃいました!」
え、もうすでにそんなに食べてきてるの? 昨日も思ったけど、ほんとよく食べるよねっ。
「そうだったんだ……。でも、余計なお世話かもしれないけど、お金とかさ……その、大丈夫なの? 装備を買いたいって言ってたけど」
この分じゃ相当食費に消えてっちゃってるんじゃ……。
「それはもう大ピンチですよ! 私いっぱい食べるので宿代と食事代だけでカツカツです! もうすっからかんで全然足りないんです!」
……やっぱりそうなんだ。
この分じゃ、装備費が貯まるのはいつになることやら。他人事ながら心配になってくる。
今日は早起きして、町中での依頼を見つけて受けたみたいだけど……。
「武器を買うお金もないし、私は魔法も使えないからしょうがないんですけど、町中の仕事ってやっぱり全然稼げないんですよね」
「じゃあ得意なものとかは? それで別の依頼を受けるとか」
「短剣術を少しだけ。でも今あるのはこのナイフだけで……。私、腕力と体力には自信があるんです! ただ、食べないとすぐへばっちゃうんで持久力はないんですよ。今日は食堂のお仕事だったんですけれど、働いてたら猛烈にお腹が空いて……それでまかないを店主さんの予想以上に食べちゃったせいで一日でクビに……」
ギルドにも食べ物関係のお店には紹介できないと言われちゃったらしい、そんなにか。しゅん、としながら話してくれた。
「……そっか。それは大変だったね」
自業自得の面もあるけど、悪い子じゃ無いんだよね。ただ、食欲が暴走しているだけで……。
「あ、でも約束していた食事のお礼をする分はちゃんとありますからっ。あのときは本当にありがとうございました。ローザさえよければ、何か注文してください」
「うん、ありがとう。でも夕食付きの宿だから今はちょっと……う~ん。あ、そうだっ、じゃあ明日の昼食を奢ってもらおうかなっ。女将さん特製のお弁当なんだけどね、美味しそうなんだぁ」
「はい、もちろんっ。喜んで!」
「ふふっ。楽しみっ」
お金がなくて、まだ一度も食べられてないかったからうれしいっ。
でも話している内に、リノはもう食べ終わっちゃったみたい。
一緒に食べたかったなぁ、ちょっと残念。
とか思っていたら……。
「はい二人とも、注文の品だよ! リーノちゃん、持ってきたけど、本当に食べれるのかい? これで定食三食目だけど……」
女将さんが私の夕食と、もう一食分リノの分を持ってテーブルまで来てくれた。
えぇっ、三食目!?
じゃあこれってもう、自分の宿の夕食とあわせて四食分目になるんじゃない? さっき串焼肉も食べたって言ってなかったっけ?
立派なお胸以外は、成人しているとは信じられないくらいちっちゃい女の子が、そんなにいっぱい食べれるもんなの……!?
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