第39話 食欲は続くよ、何処までも
「そ、そんなにいっぺんに食べて、平気なの!?」
「まだまだお腹空いてるので、全然平気です! この定食、隣のテーブルの人が頼んでたんですけど、とっても美味しそうで……もう我慢できなくて注文しちゃいました!」
「いや注文しちゃいましたっていわれても……」
昼食も仕事をクビになるほどいっぱい食べて、夕食も自分の宿で出されたのと屋台飯、更にここで女将さんの美味しい定食を三人前も食べたのにまだまだお腹すいてるって……この子の食欲、底なしじゃないですか!?
――さすがにここまできたらもう、人族だからとか関係ないよね?
女将さんもドン引きしてるようだし!
そんな私達の様子を見て、彼女は真剣な顔になり声を潜めて打ち明けた。
「ここだけの話にしといてくださいね。実は私……何故だか分からないんですけど食欲がものすごいんです。異常なくらいに」
…………………。
いやいや今その話をしてたんだし目の前で見てたから知っているけれども!?
「驚かないんですね、二人とも」
いやだから見てたからね!?
なんなら今さっき、女将さんが同時に持ってきてくれた三食目だか四食目だかになる定食を、おしゃべりしつつもすでに半分食べ終わってて、私はまだ食べかけって言う、全然食欲が落ちてないこの状態を見ただけでも分かるってば!
深刻そうに話をして続きを食べながらも、ついつい私の夕食に眼線は釘付けになっちゃうとか……いやこれはあげないから!
「私の家族はみんなすっごく仲がよくって……こんな異常な私にも嫌な顔一つしませんでした」
リノの家族は兄弟も多くて、大変だったらしい。そうだろうなぁ、大家族な上にこれだけ食べる子がいるんだもんね……。
でも、出来るだけたくさん食べさせてあげようと、頑張ってくれてたんだとか……いいなぁ、あったかくていい家族。
「それでも全然足りなくていつもお腹が空いてて……。私も何か家族の役に立ちたいと思って魔法も使えるように頑張ったんですけど駄目でした。魔力が足りなくて生活魔法ですら中々うまく使えなくて……」
それに魔法を使うと魔力不足で余計にお腹がすいて、益々迷惑を掛ける事になる。
結局、力仕事の方が魔力を使わない分お腹が減るのが遅いので、そっちを頑張っていたらしい。
それでも何とかしようと、時間があれば空腹を我慢して魔法の練習も続けていたとか。
頑張り屋さんのリノの話に、女将さんの涙腺もうるうるしてるよ。
――本当、いい子なんだよね。
うん、だから私の夕食に語りかけるんじゃなくて、こっち見て話そうか……ガン見されてると食べにくいしっ。
それに一応、今、感動的な話をしてくれたんだから、余韻に浸らせて欲しいな……台無しになっちゃうよ!?
……って、んんっ?
ちょっと待って……さっきこの子何て言った?
生活魔法……?
……っ!?
ああぁぁぁっーー!?
なんか忘れてるんじゃないかってモヤモヤしてたけど、今解決した!
そういえばこの世界、生活魔法っていうのがあったんでした!
――微量な魔力でも使えて、生活を楽にしてくれる様々な魔法。
攻撃には使えないその魔法の事を、生活魔法っていうんでしたね……。
例の白い部屋でスキルを選んでいた時、確かに一覧表にあったよ、今まですっかり忘れてたけど!
「皆が生まれつき持っている四属性魔法の素質……私もあるんですが、どうも人より魔力が極端に少ないらしくて。そのせいで生活魔法さえもうまく使えなくて……」
――そうだった……。
この世界の種族は皆、火、水、風、土の四属性魔法の素質は持っているんだった。
リノの言う通り、四属性魔法を使いこなすには一定以上の魔力が必要なんだよね。
こればかりは個人差があるし、特に人族は元々の総魔力量が少ないから、使い手も少ない。なので同じ努力をしても、等しく使えるという結果にはならない。
でも生活魔法ならば微量な魔力でいいし、やはり個人差はあるけど努力次第で諦めなければいつかは使えるようになるものらしい。
私が知らずに使っていた着火や水作成、乾燥なんかも多分そうだったんだよ。
他にどんなのがあるのかは不明だけど生活魔法の事、もっと早くサバイバルしているときに知っときたかったなぁ。『異世界知識』も何が知りたいかをきちんと意識しないと教えてくれないし……。
今思えば、エルフなら魔力がいっぱいあるから、出来て当然の魔法だったんだね。
「私のこの過剰な食欲は、体内に足りない魔力を補おうとしてるんじゃないかって村の神父様に言われた事があるんです。ただそれも推察で、はっきりした原因は分かってないんですけど」
活動魔力がないと生きていけないから、全く魔力がないっていう人はこの世界には生まれない。人に限らず、全ての生命体は魔力を持って生まれてくるんだから。
でも、その活動魔力自体が少ないリノみたいな人が存在しているとは……。
そして彼女は自分の不利な状態を分かっていても、必死で努力を続けてきた。
どうしても魔法を使いたくて諦めきれなくて……そして、きっと今もその思いは変わらないんだろう。
ニコニコと元気に、楽しそうにしてたから、まさか彼女がこんな大変な試練を抱えてたとは思わなかったよ……。
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