第40話 リーノの悩み



「じゃあローザちゃんに教えてもらえばいいじゃないか。エルフは魔法が得意なんだしちょうどいい、友達なんだろ?」


 女将さんがこっそりとリノに耳打ちする。


「え、そうだったんですかっ」


「おや、リーノちゃん、知らなかったのかい? こ、こりゃ教えちゃ不味かったかね!?」


 オロオロしながら聞いてくる。


「いえ、まあ大丈夫ですよ。そういえば教えてなかったよね」


 女将さんのうっかりポロリの暴露は、親切心から言っていると分かっているので許すとしよう。


 外では常に『隠密』を使って行動しているし、フードを目深に被ってたからリノには分からなかったんだと思う。

 それにあの時の彼女の関心は全て、私の持ってる食料に向いてた訳だし。さっきまでは今日もそうだったけどね。




「あの、ローザ、昨日からずっと迷惑かけてて、その上図々しいお願いだとは分かってるんですが……少しだけでもいいので、私に魔法を教えてくれませんか? 一つでも魔法を覚えたいんです」


「う~ん。それはちょっと困るというか……」


 すごい期待されてるみたいだけど、人に教えられるほど魔法に詳しくないんだって、私。


 なんたってまだエルフ歴六日目だし、自分の魔術スキルも使いこなしているとは言えない状態だよ。私の方が誰かに魔法を教えて欲しいくらいなのに。


 それに厳しいことを言ってしまえば、昨日知り合ったばかりの彼女に無償で教えるって事、私にとっては何の利益もないしね。


 自分のことで手一杯で、人助けをする余裕なんてないんです……。


 ……………。


 そんな二人して縋りつくような、うるうるした目で見つめられても困る。


 …………………。


 ……はぁ、しょうがないなぁもう。


 必死に頼られると断り切れないよ……。




 リノが努力してきた年月を越える何かをすぐ示せるとは思えない、でも……。


「必ず使えるようになるとは約束できないけど、それでもいいのなら……」


「もちろんです! よろしくお願いします、師匠!」


「師匠はやめて!」


 一気に老け込む気がする!


 いくらエルフが長寿でいつまでも若々しい姿をしているとはいえ、私は見た目通りの年齢なんだからねっ。



 ――教えてあげないけど!




 ◇ ◇ ◇




 夕食を食べ終わってから、女将さんに了承を取って人目を避けるために一旦私の部屋に連れてきた。


 リノの宿はここから徒歩五分の近さだそうで、少しなら遅くなってもいいとの事。


「念のため最初に言っておくけど、私はエルフだから極力目立ちたくないの。だから、この部屋の中で見たり聞いたりしたことは全て外へ持ち出し禁止。約束できる?」


「それはもちろんです。絶対誰にも言いふらさないと誓います! ただでさえ今、お金がなくて無償で魔法を教えてくださいって図々しいお願いをしているんですから。でも、必ずいつか授業料はお支払いしますので、それまで待っててくださいっ」


「……その言葉を信じるよ。じゃあ、さっそくだけど、どれだけ魔力が使えるか見せてもらってもいい?」


「分かりました、よろしくお願いしますっ。ほんとに少ししか使えないんですけど」


 そう言いながらリノは集中して、一つの魔法を使った。



 ――「着火」だ。



 リノの話によるとこれも生活魔法らしい……やっぱり。これもそうだったんだ。


 随分と小さい炎ですぐに消えてしまったけど、もう魔力を使い切ったみたいでグッタリしている。


 なるほど、これが魔法を使った後のいつもの状態って訳ね……。


 ずっと努力してきた結果、手に入れた魔法がこの小さな火種、か。


 彼女が諦めなかった証拠を見せてもらった訳だけど、ここからどうやればいいのか……。


 う~ん。む、難しい。




 闇雲にやっても上手くいかないだろうから、とりあえず気になっていたことをいくつか質問してみよう。


「魔力を使った後ってお腹が減るんだったよね。今夕食をいっぱい食べた直後だけど、それでもダメなの?」


「はい。もうお腹ペコペコです」


 うむむぅ、ブラックホール並みの胃袋だな。


「動けない?」


「ちょっと休めば少しくらいは出来るようになります」


「ちなみにそれって生まれつきとか?」


「いえ、それが五才の時からなんです。それまでは兄弟と同じだけ食べてたって親が言ってました。それに、元々の魔力量は不明なんです。村の子供たちが魔法の練習をし出すのは十才くらいからですので。ただ、いきなり倒れるなんて事はなかったと聞いてます」


「……原因不明、なんだね」




 食欲の暴走も、活動魔力の少なさも、生まれつきという訳でもないなら何とかなる……のか?


 正直、私じゃ経験不足過ぎて、的確な指導は難しい……。


 どうしてあげるのが一番なのか分からないし、本人もたくさん食べる事は大好きみたいだからとりあえずそれはいいとして……。


 今後、冒険者として町の外へ出る予定なのに、常に魔力不足のこの状況はマズい。何とかしないと危ない。



 ――少ない魔力を手っ取り早く増やす方法……そんなものが簡単に見つかるなら私に頼まないだろうし、近道はないんだろう。


 う~ん……今、出来ることって何があるかなぁ?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る