第34話 自己強化



 ――それにもうひとつ、気になっていた事がある。


 ここ数日町中で暮らしてみて『異世界知識』が、異世界に来るきっかけとなったと思われる例の白い部屋でスキルを選択した時が一番活用出来たということを……そういう辞書的な機能は充実していた。


 ただ、その他の一般常識と言うのは、この世界の十六才のエルフの少女が知っているであろう情報量しかなんじゃないかと思われる。

 長寿種族は自分達の集落に引きこもって、滅多に人族の町に出て来ないから人族の一般常識に関しては疎いという……。


 それが転生だか転移だかをしたエルフのローザにも適用されたんじゃないかと……ね。




 これはボトルゴードの町に来てから思ってた事で、必要最低限っていうかね。

 最新の情報だけ分からないというよりはむしろ、常識全般が漠然としたものが多いと感じたから。それに、必要にならないとその知識も提供されない気がする。


 意識しないと使えないところは他のスキルと似ているかな?


 魔方陣魔法があるのは知ってても、人族に一番普及していた理由が魔力消費が少ないからだというのも知らなかった。

 人族はエルフの三分の一の魔力しかないってことは知っていても、それと結びつける情報はなかった……自分で考えないといけなかったんだよね、多分。




 便利な魔道具の普及率、街に入る時の「真実の鐘」の設置の事、そういう町中の情報もまるでなかった。


 エルフにしても魔法は得意とわかっても、土と風の属性魔法と相性がいいという知識はあっても、多種族と比べてどのくらい有利か等は不明のままで……。


 多種族の事も、人族の街で暮らしていることは分かっていても、どれくらい共存出来ててどんな割合で住んでいるのか、住民感情はどうなのかなんてのもうっすら表面的なことしか分からない。



 ――『異世界知識』には、10ポイントも支払ったんだからと、過剰にメリットを期待し過ぎた?



 勿論、色々と役立つ知識もあったから無駄とは思わないし、身一つで異世界に放り出された私達が生き残るために、最初期のスキル選びが重要だったのは確かだから、私には必要だった。


 ただ、実際に生活していく上での身近な情報が欲しいのに、それが曖昧だから不安になるんだ。


 今現在私が自分の身を守れるほど強かったなら、こんなに思い悩まないんだろうけどね。




 ――でも、分からない事を悩んでいる時間も惜しいから。


 これからは『異世界知識』に頼りすぎず、自分できちんと考えていこうと気持ちを切り替えた。


 今まではスキルを持ってるからと、何でも知ってると甘く考えていた部分があったと思う。


 だけど例の白い部屋の人が言ってたよね……ここは、努力が報われる世界だって。


 つまり、そこまでチート級の知識は与えないってこと、知りたければ自分で努力して情報収集してねってことだったんだろう。




 信頼できる情報を集めるのには時間が掛かりそうだから、身を守る為の自己強化を優先させようと考えた。


 ――手っ取り早く有益なスキルを増やす事と、経験値が貯まるまでが長く、なかなかレベルが上がらないスキルを少しでも早く実戦で地道に鍛えていく事をね。






 手っ取り早く増やすというとやはり、エルフという種族の特性を生かして、五感や魔法関連を伸ばすのが近道かなと思った。

 スキルとして取るだけで、種族特性以上の、それまでと全然違う力をはっきりと体感できたから、最短で取れる可能性のあるものに挑戦したいし。




 ――五感については、まず最優先で必要そうな、視覚、聴覚に絞ってスキルを取りたいと思って、起きている間、意識して練習している。

 

 他にも、感覚が優れているエルフなら、木登り中に意識すると『平衡感覚』スキルも覚えられるかも知れないからそれもね。


 巨木群で安全に活動するためも欲しいスキルだし。


 まずはこの三つを試してみる。冒険者の仕事を意識してやっていれば、自然と鍛えられていくと思うし。




 ――同時にエルフの得意な魔法のレベルも効率的に上げたい。


 それには魔導書を読むのが一番いいと『異世界知識』にはある。何故なのかは知識になかったので知らない。


 ともかく魔導書は専門書なのでとっても高額だというし、お金がないので当分買えないだろう。



 なので、今できるのは魔法を使う回数を増やして、精度を上げていくことぐらいだろう。

 時間があれば、魔導書を読む以外の方法で魔法のレベルが上がらないのか、上がらないならレベルの中で使える技を新たに創れないのかも試してみたい。


 実際、保存食を作るのに水魔法で水分を抜き出す「乾燥」っぽいのが出来たんだから、創作できないことはないと思うんだ。

 昨日も魔力操作で虫根コブ草を掘るとき土を少しだけモコモコっと「耕作」できた訳だし、初日に「水作成」や「着火」もすぐ出来るようになったんだし。

 イメージをしっかり持てば、攻撃魔法以外なら割りと簡単に成功できるのかもとちょっと期待している。色々試してみるつもり。






 次に、経験値が貯まるまでが長く、なかなかレベルが上がらないスキルに関して……。


 私が持っている中では『鑑定』・『採取』・『索敵』なんかがこれに当たるよね。


 冒険者として日々依頼を受けていれば、自然と鍛えられ、少しずつでも成長していけそうではある。


『鑑定』は、 図書館とかあれば経験値がたまりそうなんだけどこの町にはないし。


 まずは実地でコツコツ鍛えていくことにしよう。



『精神耐性』とか『幸運』とかのスキルについては、鍛え方がわからないので一旦置いておく。また後で考えよう。






 ――最後は自分のパーソナルレベルを上げること。


 今のところ『鑑定』で表示されないからどうやって確認すればいいのかわからないけど、魔物を倒すとパーソナルレベルが上がるっていうのは『異世界知識』にあった。こればかりは訓練しても上がらないらしい。


 生物としての生命力が上がるっていうことだから、どうしてもやっとかないとね。

 安全の為、採取中心に活動していくにしても、無理ない範囲で魔物とも闘っていかないと強くなれない……とっても怖いけどやらなきゃ。


 とりあえずそんなところかな?





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