第33話 エルフってヤバい
◇ ◇ ◇
――翌朝。
夜明け前に起きると、いつものように魔法操作で体の中の魔力を循環させていく。
起き抜けにこれをすると、寝起きでぼんやりしてた体がシャキッと目覚めるんだよね。
荷物を全部持って朝食を食べに一階へ降りると、冒険者パーティーを組んでいる人達なのかな……四人掛けのテーブルがひとつ埋まっていた。おしゃべりに夢中になっている。なんか楽しそう、いいなあ。
今日もここに泊まりたいけど、宿代がない……何しろ1シクルしか……百円しか持ち合わせがないからね……。
その旨を女将さんに伝え、続けて泊まりたいんだけどと言ってみると、同じ部屋を開けて夕方まで待っててくれると言ってくれた。おおっ、ありがたい。これで今日の宿も仮だけど確保出来た。よかった。
荷物もカウンターで預かるよと言ってくれたので、ご好意に甘えることにした。正直すごく助かる。いい人。
今朝の朝食メニューは魔物肉のサイコロステーキと、パンの実を蒸して潰してから調味料で和え、マッシュポテトみたいにしたやつ。
それに大きく切り分けられた果物が一切れがワンプレートに盛られている。ざっと見た感じ、エルフの好物だという
宿の食事には、パンや米は高いのであまり出て来ず、もっぱらパンの実がでてくることが多い。
この世界の農家は、小麦や米よりパンの実の方をよく栽培しているらしく、数は少ないけど品種改良されて冬に実をつけるものまであるみたい。
何本か異なる品種を植えておけば年中収穫可能で育て方も簡単な上に、乾燥させて保存もできるので重宝されているんだとか。
しかし、朝からガッツリと肉を食べるのにも大分慣れてきたなぁ。
この宿は、素材を生かした味付けで薄味な事もあって、全部食べても胃もたれしないのがうれしい。
サイコロステーキもマッシュポテト風のパンの実も、女将さんが作った香草のソースに絡めて食べると、また味に変化が出て美味しいんだなこれが!
果物も甘過ぎず瑞々しくていい感じ。
常連客が冒険者が多いため仕様なのか、結構な量があったのに完食してしまった。だって、美味しかったんだもん! 今日もいっぱい動くからいいんだ!
――しかしこの果物美味しいな。
『鑑定』してみるか……。
【 ウルルの実
効能:滋養強壮作用・MP微量回復
可食:生食可
水分が多めで控えめな甘さ
ドライフルーツにすると甘くなる
採取:20cm程に成長した緑色の実を採る 】
ふ~ん、ウルルの実っていうのか……。
桃にレモンを少し搾って薄めたような、ほどよい甘さと清涼感がある味で美味しかった。
森で見つけたら欲しいなぁ。でも、この大きさだと一人だし量を持ち帰れそうにないのが残念かも。
切り分けてあってこれだと、元はメロンぐらいの大きさがありそうだもんね。
そういえばギルドの採取依頼にもあったね、これ。この季節に採れるポピュラーな果実の内の一つだって。
北の森でも採取可能らしいけど……って、ああぁぁぁっっ。これ
……そうだよ何か聞き覚えがあると思ったんだよ。エドさんが言ってたんだ……この時期にスモールワームを探すには、ウルルの樹を見つけるのがいいですよって。
アレが一緒にいるとなると、途端に積極的には探したく無くなってきた。
――まあ、偶然見つけたら採るってくらいにしておこう……。
しっかり朝食を食べた後、今日もまず先に北の森へ向かう。
『索敵』をしつつ、視覚、聴覚を同時に意識しながら昨日よりペースを上げて走っていく。
これは『視覚強化』、『聴覚強化』のスキルを取る為にやっていること。
スキルを訓練でも取れると判ってからは、ずっと意識してやっててる。
身を守る為にも便利な『隠密』スキルのレベルも早く上げたい。こちらは意識せずとも常時発動できるようにならないかと訓練に力を入れている。
この世界にきてまだまだ日が浅いし、誰を信じていいか分からない状態だからね。
エルフじゃなくとも女性冒険者が一人で行動しているのを見て、よからぬ事を考える奴がいないとも限らない。
町から出たら極端に人の目も減るし、森の中だと特に危なそうだ。
なので一応、自分なりに偽装はしている。
フードも深めに被ってなるべく外見も分からないようにした上で、『隠密』を発動させてなるべく目立たない様に気を付けている。
外套さえ着てれば、私の場合、リノと違ってあっちもこっちも凹凸がないからね、ぺちゃんっとしてるから性別もバレないはずだし!
――用心しすぎだって思うでしょ?
違うから!
自意識過剰とかでも何でもなく、事実として、エルフってとんでもなく危うい美形だからっ。想像してたのよりもずっと凄くてヤバかった……。
もうね……可愛いとか美しいとかそんなレベルじゃないんだ。本当に現実離れした美しさなんだよ……なんか見惚れるような神々しさっていうのかね?
鏡に写った姿を初めて確認しときは、びっくりを通り越して、むしろ唖然としてしまった。
まんま可憐で神秘的な森の妖精さんだったから何だこれ、こんな人が実在して生きて動いているとか信じられないって……いやまぁ自分の事なんだけど現実味がなくてさ。
真っ白で瑞々しい肌、淡く光る艶やかな金の髪、エメラルドのようにキラキラと煌めく緑の瞳……。
そして、まるでモデルのような……スレンダーな、体型……?
ま、まあ最後のは置いとくとしても、語彙力が全く追いつかないほど、とにかく誰ですかこの人って感じの美女だったんだ!
隠さなきゃいけない、無駄にトラブルに巻き込まれないためにもって……。
一応、すぐにショールを買い、ターバン風に巻き付けて髪と耳を隠すようにしたから、万が一フードが外れてしまっても少しの時間なら誤魔化せるだろう。
ずっと包んでいるから蒸し暑いんだけどね、命が掛かっているから我慢するしかない。
私は魔法以外貧弱なスキル構成だし、人族には性別関係なく体格で劣る。
もし相手が同じレベルの冒険者でも、武力行使に出られたら完全に負けると思う。
そんな時こそ、やっぱり魔法ですよっ。
最速で自己強化するには、装備を買うお金が全然ない今、エルフの得意な魔法を鍛えて凌ぐしかない。
魔法ならタダで魔力があるかぎり使えるし、毎日鍛えれば魔力総量も増えていくみたいだし、自分の努力次第でいくらでも成長できる。
もっと魔力を使って、例えば身体強化とかが出来るといいんだけどね。全然取っ掛かりすら掴めないと言うか……残念ながら今は、気持ちばかり焦っている状態です。
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