第32話 お金がない




 予想外にリノと会って時間が押しているので、急いでボトルゴードの町まで戻りたい旨伝えをると、自分も冒険者ギルドで新規登録をしたいので早く行きたいからと了承してくれた。


 ちょっと心配だったけど、単にお腹が空いてただけで、大丈夫、走れるとのことなので、軽くランニングする速度で走っていった。

 さっきまで空腹で倒れてたって言うのにすごい体力というか回復力だよね。びっくりだよ。




 すぐ東門に着いたので、 入門待ちの列に並んだ。


 この上にも身分証の偽装や犯罪者を弾く機能を持つ「真実の鐘」が設置されているので、門番さんによる審査はサクサクと進んで行く。

 すぐに順番が来たので、私はギルド証を、初めてのリノは通行税の銅貨1枚を支払い、問題なく町へ入れた。



 早速ギルドに向かうことにする。


 道すがら、初めて見る町の様子に彼女ははしゃぎっぱなしだった。


「すっごい立派な城壁でしたね、これなら魔物が襲ってきても全然怖くないです!」


 そうね、私もそう思う。


「レンガの家もこんなにあるなんて! うわぁっ、道までレンガで舗装されている! こんなにたくさんのレンガ、初めて見ました!」


 まあ、所詮、ほぼ全方位森だし材木はたっぷりとあるからね。焼き放題でしょ、レンガ。


「あっ、噴水も時計もあるんですねっ、この町。すご~い、屋台もいっぱい! この果物見たことないやつです、どんな味するんでしょう? 茸たっぷりのスープも、甘草を練り込んだお菓子も、お肉の屋台もたくさん出てますよっ。串焼肉の美味しそうな匂いがもう、たまりません~!!」


 あ、その屋台のやつが君が食べたのと同じのだよ。食べ物に食いつくねぇ。魔道具より何より、関心は食べ物一択ってか?


 ほら、そんなにピョンピョン跳び跳ねないっ。


 どことは言わないけど、たゆんたゆん揺れて大変な事になっちゃってるから! ロリな人に拐われちゃうよ!?


「なんかローザってうちの母さんみたいです、ふふっ」


 ……いやだってなんかほっとけないんだもん。


 成人しているとはいえ、本人の見た目がコレだから危なっかしくって。ついつい構っちゃう。




「で、これが例のパンの木ですか! 本当にあるんですね! じゃあ早速おひとつ頂いて……」


 うんうん、分かった分かった。後でいっくらでも食べれるから!


 っていうか君、さっき食べたばっかでしょ、明日の私の昼食を!


 まだ食べる気!?


 何だろう、リノが特別大食いなのか、それともこの世界の人族みんなこうなのか……。


 早速、街路樹のパンの樹に手を伸ばしてもぎ取っていたので、領主様からの恵みのパンの実は食べた数だけ教会に納めに行くルールがあることも伝えておいた。この町に先に来てた先輩の義務だからね。


 リノも真剣に聞いてくれて、後で教会に行ってきますとしっかり頷いてくれたのでよかった。


 でもまず先にギルド! 行こうね!!




 本日二度目のギルドは走って帰って来たおかげで夕方前に着けた事もあり、待ち時間が少なくすんだ。


 入り口でリノと分かれて、それぞれで手続きを済ませる。


 今回の窓口担当はエドさんじゃなかったけど、やっぱり手際よく、すぐに清算してくれた。


 虫根コブ草だけの持ち込みだったんだけど、すごく喜ばれた。あまり採取してくれる冒険者がいなくて品薄の状態だったんだとか。


 下級ポーションを作るのに必ず必要な素材なので、定期的に採取出来る冒険者を常に探しているらしい。

 今ならいつもより報奨金も上乗せされるので、是非、採ってきてくれないかとお願いされたので、こちらとしてもお得な依頼だし了承しておいた。


 あの場所にまだまだあったから、明日も午後は東の草原へ行って採取してこよう。 




 リノも無事、新規登録できたようで、今日泊まれる宿もしっかりと聞いてきたみたい。

 予算内に収まるところがあってよかったと、ほっとしながら話してくれてた。


「そういえばローザはどこに泊まってるんですか?」


「ギルドから近くて、とっても美味しい料理を作ってくれる女将さんがいるところだよ」


 その話にたちまちリノが食いついてきた。


 まあ君なら絶対、興味を持つと思ったよね。


「じゅるりっ、お、美味しい手料理付きのお宿……ち、ちなみにそこってお値段は!?」


「一泊朝夕食事付きで銅貨七枚。ちょっと高いよね」


「で、ですね。銅貨七枚ですかぁ……。とてもそんなお金持ってないです。でも夕食だけならなんとかいけるかも!? 私もそこに泊まれるように頑張って稼ぎますね! そしたら、今日のお礼にその女将さんの美味しい料理、おごらせてください!」


「うん、一緒に食べようね」


「はい、必ず!」


 なんか、食べ物に散財しそうで心配だけど、気長に待っとこう。


 ちなみにリノも数日後に行われるスライムの講習会を受けることにしたらしいので、そこでまた会う約束をして彼女は宿へと向かって行った。




 ちなみに先程の虫根コブ草の買取価格は64シクルになった。


 午前中に稼いだ中からさっきのお昼代を差し引くと……201シクル。日本円だと二万円ちょっと。


 少ないけど、これで何とか装備を買いたい。


 服だけという紙装備を、早く何とか卒業しないと、安心して依頼を受けれないからね。







 ――というわけで早速、鍛冶屋さんへやって来た。


 防御力があって私でも買えるやつをと、親父さん……ブルボさんに相談してみたら……。


「200シクルだって? 又しても予算が厳しいなっ、嬢ちゃん!」


「はい、是非これで買える、目一杯いいやつを何とかお願いします!」


「しょうがねえなぁ……ちょっと待ってろ。探して来るからっ」




 そう言って奥に引っ込み、何やらゴソゴソしていたブルボさんは、肌着のように見えるものを手に持って戻ってきた。


「え……それ、防具なんですか?」


「ああ、そうだ。革鎧は到底、無理だったからなぁ、その下に着る鎧下を見繕ってきたんだ。嬢ちゃんは魔法での戦闘が多いんだろ? 前衛じゃなければこれで十分、当座の防具代わりに出来ると思うぞ。どうだ?」


「鎧下……ですか」


 やっぱり革鎧は、有り金全部叩いても買えないっぽい。


 なので、苦肉の策として、鎧下を先に購入してはどうかと提案してくれたようだ。

 今後、革鎧を買う際、その下に着る丈夫な布と皮でできた鎧下は必要になってくるので無駄にならないし、これを着ていれば少しは防御力が上がるから、と。


「値段的にこれしかないというのもあるがな。中古だが、いい魔物素材を使っているから同じ値段新品のものより性能はいいぞ」


 試しに私も『鑑定』してみたら、確かに耐久性がありそうだった。


「分かりました。それにします!」


「おうっ、じゃあ200シクルな」


「はいっ」


 きっちり支払って購入し、鍛冶屋を出た。




 いやぁ、買えるものがあって良かったなぁ。


 でも、またまた有り金がちょっぴりになってしまって、現在、明日の宿代も払えない状態です……。


 かろうじてお昼代くらいは残ったけど、でも1シクルだよ、百円分だけしかないって、悲しい……。またしても女将さんの美味しい昼食が買えない、あと半額足りないよ!


 絶対、小学生のお小遣いより少ないよね、これ……。



 ……おかしい、どうしてお金ってこうすぐ出て行っちゃうのかな、全然無駄遣いしてないのにっ。


 頑張って稼がないと、明日、また野宿することになるよ!



 はあ、貧乏って嫌いだ……。





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