第28話 う~ん、少ない



 木登りは降りる方が大変なので、足場を確認しながらゆっくりと慎重にロープを伝っていく。


 無事に一番下の枝まで降りて来れた時には、ホッとして一息つけた。


 初めてのことに挑戦するのって楽しいんだけど疲れる。


 支援魔法で、HP、MP回復を掛けてあるから体力的には大丈夫なんだけど、また精神的に疲れた感じがする。



 気分転換にこのまま少しだけ休憩しようかな……。


 太陽が真上に近づきつつあるのでもう、お昼近くになっているのかもしれない。休むのにいい時間なのかも。

 ……こういう時、時計が欲しくなるなぁ。正確な時間が分からないのって、結構ストレスになるんだよね。お金を貯めて早く買いたい。




 ――保存食を取り出し、水魔法で水を出す。


 虹色の樹の上はくつろげる環境ではなかったけど、少なくとも地上よりは安全だ。不意打ちで魔物に襲われる心配が少なさそうで安心できる。


 魔法で手作りしたポポの実のドライフルーツをゆっくりと味わいながら、この後どうしようかと考える。


 荷物も増えたし、一旦帰った方がいいかな。ギルドで採取したものを換金しすれば、お金がなくて買えなかった昼食も買えるようになるし。


 正解な時間が分からないけど、お腹が空いてると集中力も切れそうだしね。うん、それがいい。




 そうして帰る途中、ホーンラビットに二回遭遇した。


 いつものように聖魔法で足止めして、水魔法で急所を攻撃する。手慣れたもので、二回ともサクッと倒せた。やっぱり水魔法使うと毛皮状態も綺麗だ。いい値が付きそう。


 鮮度を保つため魔石をそのまま体内に残し、解体せずにまるごと皮袋で包むと背負子の底の方へ入れていく。

 ギルド会員は無料で解体してくれるんだから、それを利用しない手はない。森の中での解体には時間と危険が伴うから、やらなくていいのは助かる。便利だよね。


 本当は今捕ったばかりのを捌いて焼いて、食べたいところなんだけどね。でも、ここには弱いとはいえ思いの外、魔物が多くてウヨウヨいるからやめておく。早く安全な街道沿いに出なきゃ。




 荷物が増えたこの状態では出来るだけ戦闘をしたくないので、『索敵』で魔物を避けながら、『隠密』スキルを使ってこそこそと隠れつつ、少し大回りして戻る。


 森の浅い所までくるとさすがに魔物も出なくなり、周りのものを『鑑定』する余裕も出てきた。


 果物や採取出来る野草、それに薬草や茸まで割りとたくさん見つけれたけど、自分用に少し摘むだけにしておく。

 この森のホーンラビットは、今まで狩っていたのより大きくて重量もあったから、もうこれ以上は欲しくても持てないんだよね、残念なことにっ。


 今後の為にもマッピングだけしておいてから、警戒しつつ、街道まで進んでいった。




 ◇ ◇ ◇




 北門には今朝、色々と教えてくれた門番のお兄さんが立っていた。


 今回も人通りがなくて暇そうにしてる。待ち時間も無いし、人族の町で目立ちたくないから私的は嬉しいけどね。


「お疲れ様、凄い荷物ですね」


「お疲れ様です。ええ、持ちきれなくて戻って来ました」


「早かったですもんねぇ。じゃあ、身分証を提示してください」


「はい」


 門番さんに促され、さっそく左手を出し魔力を流した。



 ︗︗︗︗︗︗︗︗︗︗


 名前  ローザ


 種族  エルフ


 特性  魔術


 ランク 十級


 昇級P 7


 違反数 0 


 登録日 四の月、四の日


 ボトルゴード支部発行


 ︘︘︘︘︘︘︘︘︘︘



 少しの魔力を流すとすぐに、左手の甲にあるギルド証のマークが光り、小さなスクリーンが立ち上がった。

 空中に浮かび上がったそれには、昨日までの登録情報が表示され、誰でも見える仕様になっている。


「はい、確かに。通っていいですよ」


「ありがとうございます」


 ギルド証には種族が明記されているから、何か言われないかとドキドキしていたけど、普通に確認だけして問題なく町に入れた。良かった、門番さんがプロの仕事をしてくれる人で。




 ――ギルドはこの時間、今日もすごく空いてた。


 昨日、受付をしてくれたエドさんと目が合い、またまたにっこり笑って手招きしてくれたので、遠慮なくそちらに向かう。


 討伐は、ゴブリンなど魔石だけの魔物は、報償金が出る討伐規定数より少ないため出さずに、ホーンラビットだけ買取して貰う事にする。

 採取は、薬樹の葉っぱを、袋ごと全部出した。


「ホーンラビットは大きくてきれいな状態なので、これなら高く買い取れると思います。宝火樹の葉ですが……これはいっぱい採ってきましたねえ。とてもいい品質なので買取価格が上がりますよ。百枚につき、報償金を10シクル出しておきますね」


 今日はエドさんがそのまま査定してくれるみたい。


 宝火樹の葉は十枚から買取可能だけど、昇級ポイントは一度に百枚持ち込んで、品質が「上」以上ないと付けてくれない。結構厳しい条件だよね。


「虹色の樹の葉の品質は、『普通』ですね。これから夏に向けて日照時間が長くなってくると、陽光がよく当たって品質が良い葉が増えますよ。その時は報償金も出ますから」


 こっちも宝火樹の葉と同じ買取条件だけど、同色の葉を百枚単位でしか受け付けないから、ちゃんと赤と黄の葉っぱ、百枚ずつ採ってきましたよ。


 昇級ポイントは品質が「普通」だった為、今回はなし。こっちも厳しい。



 エドさんが見本を見てみますかと言って「上」や「特上」の葉っぱの標本を取り出し目の前に並べてくれた。ありがたい。実物があると分かりやすいね。


『鑑定』スキルも使って見本の葉っぱを観察している間にも、てきぱきと処理してくれて査定も終わっていた。




「今回は全部で140シクルになります。昇級ポイントは1点ですね」


「はい。ありがとうございます」


 お金を受け取り、魔方陣魔法の描かれた板に左手を置いて魔力を流して点数の更新をしてもらう。



 ――う~ん、少ない。



 採取中心だと討伐より安全なのが利点だけど、買取価格も昇級ポイントもとっても控えめになりますねぇ……まあ、覚悟はしてたけどさ。



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