第27話 虹色の樹
虹色の樹の太い枝は、エルフ一人の体重くらいではビクリともしない。
自分が小人になったんじゃないかと錯覚しそうなほど大きな樹の上から、近くにあるこれも大きな葉っぱを眺めてみる。
赤・橙・黄・緑・青・藍・紫と本当に七色の色違いの葉があって、それぞれが鈍く輝いてるような……艶があるっていうかね。不思議な葉っぱだなあ。
宝火樹が単葉だったのに対し、こちらは羽状複葉になっているところは違うけれど、大きさはほぼいっしょで手のひらサイズくらいある。
さっそく目の前にある、赤色の葉から『鑑定』してみようかな。
【 虹色の樹の葉:赤の薬樹葉
効能:頭痛の緩和作用
可食:可能
採取:魔素をいっぱい溜め込んだ煌めく葉を採る
採取されそうになるとよりいっそう輝くが、
採ってしまえば光は消える
採る瞬間さえ注意すればいい比較的簡単な採取 】
――ほうほう、なるほどなるほど?
ついでにその隣にある黄色の葉っぱも視てみると、【咽頭痛の緩和作用】があると出た。
他のもそれぞれ痛みを緩和するやつらしく、胃痛、腹痛、眼痛のほかに歯痛に効くのまである。
確かに高価なポーションを買うよりこれだとお手頃だよね。採取料も安いから、気楽に買える値段になるんだろうし……庶民の味方の薬樹ってとこか。
採取条件は……と。
またきたよこれっ、もう驚かないし!?
はいはい、枝も逃げないし、葉っぱも熱くならないし、採る瞬間に光輝くだけですむなんて簡単簡単……って本当かよ。
まあ実際、今回は説明文通りならそこまで採取に注意しなきゃいけない点はなさそうだし、この世界の植物にしては比較的まともな方なんじゃないのかな……多分ね?
頭上を見上げると、花の時期はもう終わったみたいで、実になりかけてるのがいくつかあるけど、やっぱり上の枝の方が多そう。
それに葉っぱのキラキラ具合もそちらの方が多い。ということは、陽の光がよく当たっているところが薬効もいいって事なんだろうね、多分だけど。
大きな樹だけど一度、天辺近くまで登って確かめてみて、少しだけ採取してこようかな。
持ち帰るにしても、宝光樹の葉が一つの袋一杯入っててそんなに持てなさそうだからちょっとだけね。
色別に七種類に分けるのはめんどいし時間もかかるから、二種類の葉色に絞って集めるとするか。
途中、降りる時の事を考えながらいくつかロープを結んでいく。どうせ誰も来ないだろうし、上の方のロープはこのままにしておいてもいいよね。明日もくる予定だし、多分。
――よしっ。ここら辺でいいかな……だいぶ登ってきたよ~!
やっぱり高いと見晴らしがよくって気持ちいいね!
てゆうか私、この高さは初挑戦だったんだけど軽々と登れてたね、心配いらなかった。下を見てもクラクラしないし恐怖心もないし。
周りの葉は太陽光のせいもあるのか、やっぱり下のと違ってどれも色鮮やかで艶々しい。
キラッキラッと光り輝いている。ちょっと……ま、眩しすぎるかもってくらいまでね。
さあ、採るかって思ったけど……う~ん、困った。どれも一緒に見えちゃうんだよね、これが!
キラキラ過ぎてじっと見ていられないし、もうよく分かんない!?
宝火樹のように見た目で見分けがつかないから、一枚ずつ『鑑定』していくしかないけれど、これ、状態とか表示されるようにならないかなあ?
昨日の検証で、意識して使うとスキルって成長するって分かったから、じっと観察してみる。
……う~ん?
はっきりした違いは、分からない。どれも薬効ありってなってるし。
でも、段々、纏っている気と言うか、輝き具合なんかが違っているような……気がしてきたっ。
多分これかなって思うのを一枚採ってみる。
プチっと簡単に採れた。
そこまではよかったんだけど、『鑑定』にあったように採る瞬間だけピカァァッと、フラッシュを焚いたような光を発したんだよね。
――ううっ、ま、眩しい~!!
一応忠告どおり葉っぱに触れる瞬間から目を瞑ってたんだけど、目を開けるタイミングが早すぎたみたいです。すっごく眩しかった!
ピカァァッと光る時間って思ったより長いんですねぇ。なんか目がチカチカするし、その上、頭もクラクラしてきた。サングラスが欲しいよ、切実に!
この虹色の樹自体も目の錯覚を起こしそうな、ぐるぐるした色彩な上に、こうも葉っぱに輝かれちゃうともうダメだ。
こんな高所で目を回しちゃってたら危ないのに、フラつく感じが治まらないっ。
今までと比べて簡単だと思っていたのに、やっぱりこれも油断できないやつだったよ。
採取って本当、一筋縄ではいかないよね……。
目を瞑ってても瞼の裏で光が点滅してるし頭痛も引かないので、駄目元で聖魔法の『治療』を使ってみる事に……。
――どうかな……おおっ、これはすごいっ。一瞬で治っちゃった!
魔法ってすごい。すぐ効きすぎて怖いくらいにすごいよ……こんな症状まで治るんだ。
それからは慎重に、時々聖魔法で目を治しながら、葉っぱの色艶を確認しては一枚一枚採っていった。
二種類の葉色だけを選んで袋に積めていたけど、ほとんど移動せず採れたため、あっという間に袋もいっぱいになった。
――うん、もういいかな?
今日はここまでにしとこう。あんまり荷物が増えると動きにくくなるし、いざという時に逃げられないと困るからね……。
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