第29話 これからの事


 ――さてと。


 お金も入った事だし、とりあえず昼食を買おう!


 あのパンの実を売ってるおじさんの屋台、今日出てるかな? ギルドからも近いんだよね、あそこ。


 ……あ、いたいた、昨日と同じ場所だ。


 バタつきパンのいい匂いがするっ。


「おじさん、約束通り買いに来たよ!」


「おっ、あの時のねーちゃんか! いらっしゃい!」


 昨日はお金がなくて買えなかった、おじさんおすすめの美味しいパンの実二つと果実水のセットを買う。これで銅貨一枚。本当に安くて助かります。


 お昼は様子見がてら、東の草原で食べようと思っているので、果実水は手持ちの水袋に入れてもらった。


「ありがとよっ。また寄ってくれよな!」


「うんっ、またね」




 それから気になってた、もうひとつのパンの実……屋台の隣の街路樹に生ってるやつ。


 手を伸ばして食べ頃のを二、三個もいでみた。どんな味がするのか、一度食べ比べてみたかったんだよね。これも昼食にいただこう。




 領主様のご厚意で、この町にいる人なら住民以外にも平等に食べる権利のあるパンの実……。

 施しを受けた人には一つの義務が発生する。完熟した実が他にあった場合は教会に納めに行くというものである。

 こうして間接的に収穫のお手伝いをすることで、一方的な施しにならないところがいい。

 納められたパンの実は、収穫できない時期に備えて備蓄されるので、何時でも教会でその恩恵を受けられ飢えを防げる仕組みだ。

 これはエドさんが教えてくれたんだけど、新人冒険者の内はあまり稼げないので、一度はこの救済システムにお世話になる人が多いらしい。

 そして、その時のお礼と今後お世話になるであろう後輩の為にと、冒険中にパンの樹を見つけたら収穫して教会に納めるのが暗黙の了解となっているんだとか。

 勿論、全員がその趣旨に賛同している訳ではないし、実際は一部の余裕がある良心的な冒険者が自主的にやっているだけらしいけど。でもそれを聞いて人の優しさにちょっと感動したよね……いい話だなぁ。




 ――という訳なので、私もちょっと余分に採っておいて袋にしまった。後で必ず届けに行こう。


 パンの実だけだと物足りないので、近くの屋台で串焼肉も買う事にした。

 食欲を刺激するいい匂いがしていたんだ。ついつい塩とタレ、それぞれ一本ずつ買っちゃった。とっても美味しそうっ。


 結構、量があってずしりと重いけど食べきれるかなぁ?


 ……お腹が空いている時の買い物って危険だ。少し買いすぎちゃったかもしれない……。




 ――昼食はたっぷり確保したので早速、東門へ向かう。


 屋台が出ている広場からだと、割りと近くてすぐ門に着いたけど、こっちは北門と違い、結構混んでいる。


 町から出るときには身分証の提示は必要ないのでそのまま通れたけど、帰りは順番待ちしないと駄目かもね。




 門から出て、軽く走りだしながら考える。


 今日の稼ぎがずっと続くとなると、中々厳しい。


 宿代と、どうしても必要なものだけ買うだけで全部なくなっちゃいそう。安全のためにも早く装備代を貯めたいけど……装備って最低限のものでも中々お高いんだよね。いったい全身揃えるにはいつになることやら。



 一番稼げるのは魔物討伐だけど、危険も一番大きいし、毎日続けるのはまだちょっと怖いのもあるし。


 今のレベルで安全に狩れるのは弱くて安い魔物だから、討伐数が規定に達しないと買取価格だけで、報奨金が支払われなくなるから苦しくなる。


 野性動物だと人を見たら逃げていくので危険は少ないけど魔物の討伐より安い上に、重くて嵩張るから量を狩れない。

 血抜きや後処理にも時間がかかるから、積極的に狩りたいとも思えないし。




 採取は元々単価が安いので、たくさん集める必要があるから時間が掛かる。

 加えて今回のように、虹色の樹の葉が「普通」の判定を受けると買取価格も通常額で、報償金もでないし昇級ポイントもつかないという悲しい結果になることも……。

 

 逆に「上」以上の色艶の葉だと、宝火樹の葉のように買取価格が上がることもあるから、『鑑定』と『採取』のスキルを伸ばせれば結果がついてくると思うけどね。


 さっきギルドで見本を見せてもらえたのはよかった。

 しっかり観察してたら、いつの間にか『鑑定』で、「普通」とか「上」とか「特上」とかの状態が何となく感じとれるようになったし。

『鑑定』に表示はされなくてレベルも上がらなかったけど、違いが分かるようになったのはうれしい。便利になった。

 

 採取依頼中心だとこうしてスキルもあるし、少しずつなら確実に稼ぎが上がると思う。ただ、嵩張るから一度に運べる量が限られてくるのは変わらないんだよね。すぐに頭打ちになりそうな気もする。


 背負子にパンパンまで乗せればもう少し運べるけど、魔物も多い森の中では身動きとれなくなるから危険だしやりたくない。単価の高い、安全に採れる嵩張らない採取があればいいんだけど、そんなのあるかなぁ?


 ――う~ん、難しい。どうするのが一番いいんだろ? もっと情報が手に入れば最適が分かるんだろうけど。地味に情報収集するしか無いのか?

 こういう時にはスマホが恋しくなる。検索するだけで何でも調べられたもんね。本当、便利だったよなぁ。




 とかなんとか考えてるうちに、だいぶ町から離れた。


 東の草原は広々とした平地だと聞いていたので、遠くまで見渡すことが出来……でき……?


 出来なかった……。



 ――何だこのやたらと背の高い草は!?



 街道沿い以外はわっさわさだね!


 この世界の大陸は、大半が森に覆われていることは『異世界知識』で知ってたけど、ただの草までこんなに強いとは……逞しすぎるっ。


 見通しが悪すぎて、遠くにちらほらと歩いている冒険者っぽい人も、頭の天辺だけしか見えてないよ。


『索敵』にはそれ以上に人がいる表示があるから、草丈に隠れて見えないけどもっといるって事だよね。北の森と違って東の草原って冒険者に人気なんだなぁ。


 女子一人なので見つかると面倒だし、まずは薬草や野草の生えていない、人の寄り付かない場所を探して歩くことにした。




 ――ここから辺でいいかな?


 人からも十分離れたところまで来れたし。


 無駄に生い茂ってる背の高い普通の草を万能ナイフで刈り取って、座れるスペースを作っていく。



 よしできたっ、ちょっと遅くなったけどここで昼食にしよう。






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