第25話 やっぱり採取は難しい



 ーー今回、私が北の森の巨木群の中から選んだのは虹色の樹。



 70~100m程の巨木で、樹皮はまるでレインボーユーカリのような、鮮やかな虹色をしている薬樹だ。


 この樹は樹皮だけではなく、含まれる成分によって葉の色も七種類の色に色付くようで、まるで現代アートのようなカラフルな姿をしているらしい。

 冒険者ギルドの資料室で調べていたときにも、色彩的に遠くからでもよく目立つので探しやすいと書いてあった。

 最初だから見つけやすいのがいいもんね、だからこれにしたんだ。


 今回、採取するのは葉っぱの部分のみ……色別に効能が違う薬樹茶になるから、七つの色毎に分けて納品しなくちゃいけない。

 巨木に登るだけでも大変だというのに面倒くさい条件の採取だよね。その割には報酬も安いから不人気らしい。まあ、当然だと思う。


 競争相手がいないのはいいことだけどね。


 今の時期は葉っぱだけの採取だけど、もう少し暑くなると実も採れるらしいし、今のうちにちゃんと木登り出来るかも確認しときたい。


 資料室の情報によれば、森の外周から二十分程入った比較的浅い場所にあるとあった。


 でも一旦森の中へ入ってしまえば魔物も多く出るし、人の手が入っていない森は藪だらけだしで、まっすぐに虹色の樹まで行く事は難しかったんだよね。

 特に、魔物を避けるためにあちこち移動した事もあって、中々辿り着けない。見通しも悪くて、ちょっと苦戦している。


 方向感覚を狂わせる迷いの魔樹もあったけどエルフには耐性があるし、何より『マップ作成』もしてるから迷う事はないはずなんだけど……。


 うろうろしているうちに、たまたま別の薬樹が『鑑定』に引っ掛かった。



 ーー宝火樹ホウカジュだ。



 宝火樹ホウカジュとは、葉っぱを熱冷ましに使う薬樹。



 探していたものとは違うけど、これも常設依頼の一覧表に載っていたし採取対象なんだよね。


 せっかく見つけだことだし、予定を変更して先に採取してみようかな……大きいけど木登りしやすい樹形で、これくらいならロープは使わなくてもよさそうだし。うん、そうしよう。




 スルスルと葉っぱがあるところまで登っていく。


 けど、何だか、これは……。


 暑い……よね?


 気のせいじゃないと思う。


 上に行くほど、葉っぱに近づくほど、段々と暑く……なってきたよう、な?



 ーーど、どういうことかな!?



 はいっ一旦、ストーップ!


 ここまで熱いとか聞いてないっ。


 サウナみたいな暑さなんですけど、なんなのこれ!?


 ち、ちょっと落ち着こう。




 下の方の葉は熱くなかったんだよね……。


 ……と言うことは、多分だけど。


 熱を帯びてる、と思われる葉っぱが上に行くほどあって、それが暑さの原因になっているんじゃない?

 まあ、全部の葉がそうじゃないだろうけど、ある程度の数がないと、こんなに汗をダラダラかくほどの温度にはならないんじゃないかなっ。


 もしかしたらそれが名前の由来になっているのかもね? 放火したように熱くなるからホウカジュというとかそういう感じで……何か当たっている気がする。


 


 ーー今度は葉っぱを直接、『鑑定』してみようか。



【 宝火樹の葉:薬樹葉


 効能:熱冷まし


 可食:可能

    

 採取:よく陽に当たって魔素をいっぱい溜め込んだ、

    厚みがある赤黒い葉っぱを採る

    採取可能な葉は熱を持っているので注意

    一度、採ってしまえば素手でも触れる

    採る瞬間さえ注意すればいい比較的簡単な採取 】



 ……ちょっとなにこの説明文。


 いやいや待って? 簡単じゃないって、これ!


 採ってしまえば素手でも触れるっていうけど、それって採る瞬間までは熱くて無理ってことでしょ!?


 それに、例のマジックなキノコは地面の上だったけどそれでも最初は採るのに苦労したのに、こっちのは大樹の上にあるんだよ!?


 陽によく当たる場所っていうのは、必然的に枝の先端とか頂点近くとかの足場の悪い危険地帯だよ!?


 そんなとこにあるアツアツの葉っぱを採るとか、耐熱服とか着ないとその葉っぱ達が凶器となって採取どころじゃなくなっちゃうってば~!




 ……なんかこの世界の採取って、難易度高くないですか?


 まだ三つぐらいしか体験してないけど、普通じゃないっていうか、初心者にやたらと厳しい仕様になってるっていうか……?


 本物のエルフなら、こんな巨木の上の採取なんて得意中の得意だろうけど(多分)、こっちはにわか仕立ての偽物のなんちゃってエルフだから!

 この体になってまだ五日目の、例えるなら生まれたての赤ちゃんみたいなもんなんだよ?

 種族特性で出来るって頭では分かってても、実際にやるには経験とか技量とかそういうのが全然足りてないって!


 木登りは余裕にできるとしてもですね、本物の森の妖精さんたちのように、風をまとったみたいに身軽にヒラリヒラリと枝先から枝先へ採取しながら飛び移ったりとか、そんなのまではとっても出来る気がしないってば――!




 はあぁ、どうしようかな……このままスルーする?


 でも折角、ここまで来て見つけたことだし……迷うなぁ。


 失敗しても少しの怪我なら聖魔法で治せるし……今、お金ないし、これって依頼料が虹色の樹の葉っぱよりちょっとだけ報酬も良いみたいだし……。


 ……あぁ、もうっ、仕方ない!



 美味しいご飯のため!



 一回だけっ……一回だけ挑戦してみよう!




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