第102話 発生源?



 ラグナードも同じ結論に達したようで……。


「いずれにしろ、出来ればスモールトレント付きのやつだけは今日中にやっておきたい。調査も明日からにして、迷いの魔樹以外の戦闘を避ける方針でいけば持ちそうか? ローザはいいとしてリノ、どうだ?」


「それなら……たぶん、大丈夫だと思います。ちょっと不安はありますけど」


「じゃあ魔樹の討伐も、一回の戦闘時間を短くして、他の魔物が寄ってくる前に離脱できるように作戦を立ててみる? 前の時は魔樹を倒した後のスモールトレントの討伐と後始末に時間を取られちゃったからさ」


「パーティー人数も少ないし、仕方ない部分もあるんだがな。まあ、魔力を豊富に使えるなら別の方法もあるが、残量は大丈夫なのか?」


「うん、これが最後になるなら、一体くらいスモールトレント付きのを相手にするのは平気」


「そうか、分かった。じゃあ作戦を伝える。単純だが効果的だ」


 それは、確かに魔力が多ければ成り立つ簡単な作戦だった。


 全く、このパーティーで活動する前に『魔力強化Lv3』にレベル上げしといてよかったよ。







 と言うわけで、お昼休憩後はスモールトレント付き迷いの魔樹の討伐に向かった。


 今回はリノが、幻術に掛からないギリギリの距離にある樹の上で荷物と一緒に待機している間に、ラグナードと二人で攻撃する事に……。




 短期決戦に向けて荷物を預け身軽になると、スピードを上げて走るラグナードの後を『俊足』スキルを使って必死に追う。


 スキルがあっても、元々の身体能力が非常に高い獣人族の彼についていくのは大変だ。


 それでも手加減してくれているのか、見失うことなく続くと、あっという間に標的の前まで来た。


 昨日討伐したものより見た目も魔力も大きく、スモールトレントの数まで多いと『索敵』スキルが教えてくれる。

 厄介だけど、その情報を得ても落ち着いていられたんだ。

 怖い気持ちは変わらないけど、私よりずっと強い彼が隣にいてくれるからなんとかなるって思えるから。


 ラグナードの作戦は、私の魔力が当初の想定より余裕があったので、二人同時に火魔法を放ち逃げる隙を与えず、スモールトレントごと迷いの魔樹を一気に燃やし尽くしてしまおうというもの。シンプルな力押しだけど、決まれば一番効果的だよね。




『魔力感知』スキルを使うと、弱点である魔石の近くにある核の部分をはっきりと感じとれる。

 私がその一点を狙い、彼はその他の迷いの魔樹に寄生した状態のスモールトレント達を相手に、広範囲を殲滅する威力をもつ魔法で討つ予定だ。




 タイミングを合わせ、火魔法を放つっ。



小爆発ライトエクスプローション』! 



火炎噴射フレイムジェット』!



 よしっ、両方とも命中した!!



「「「オ゛オ゛オ゛ォォォォォ――――!!」」」



 迷いの魔樹とスモールトレント達が、耳障りな断絶魔の絶叫を森に響かせるっ。


 一気に炎に包まれて燃え上がり、一瞬だけ蠢いた木の洞のような顔も消え、すぐ声が聞こえなくなる。予定通りほぼ一撃で殲滅できたようだ。


 残り数体のスモールトレントだけがその場から離れようともがいていたが、それも無傷ではない。

 火傷を負ったり、魔法の衝撃で弾き飛ばされたりしているので、いつも以上に動きが鈍い。余裕をもって倒せた。


 作戦通り、討ち漏らしなく短期間で討伐を終えたので、ほぼ一塊になって焼け焦げている状態だ。後始末の負担も少ない、一番いい結果を出せた。



 二人で軽く拳を合わせ、お互いを称え合った後は、手分けして軽く片付ける。

 聖魔法で『浄化』してから聖魔水晶を『魔力感知』で視て素早く回収すると、魔物が寄って来ない内にリノのいる樹まで戻ることができた。よかった。



 スモールトレント付きの迷いの魔樹を討伐してリノと合流した後、ラグナードの『索敵』スキルで魔物を上手く避けながら、時間を掛けて森を抜けた。


 薄暗い森の中から安全な街道沿いまで出てくると、いつもほっとする。太陽が眩しい。


 時間を確認したところ、まだ十二時過ぎだったけど、リノの体力と私の魔力が落ちてきたと判断したラグナードは、この安全圏で少し休息を取ってから帰ると決めた。


 狩ったばかりのホーンラビットを一体、三人で手分けして手早く処理し焼いていく。

 火に炙られて徐々に油が染みだし、ジュウジュウ、パチパチと美味しそうな音をたてる。

 お肉の焼けるいい匂いが食欲を刺激してくるから、焼き上がりが待ち遠しくてソワソワしちゃう。

 何回かひっくり返して中まで火が通ったところで、出来立て熱々のお肉に齧りつく。


 今回も味付けは香草塩を揉み混んだだけのシンプルなものだけど、歩き回ってお腹がペコペコだったので、いっぱい食べちゃった。

 青空の下でパーティーメンバーと一緒に食事をすると、何でこんなに美味しいんだろ。満足です。


 一体分のお肉はきれいになくなり、後始末をしてから少しだけ食休みを取った。


 その後、まだ早い時間だけど帰ることにして、珍しく通った一台の馬車に追い抜かれながら、私達も街道を通って町へ戻っていった。







 冒険者ギルドの受付でエドさんに査定をして貰いながら、北の森の様子を話し、情報交換していく。



「そうですか。確かに、発生源がそこにある……という可能性はありますね」


「他の冒険者からの報告はどうなっている?」


「迷いの魔樹の増加が分かるような、はっきりした情報はありません。これまでのところ、討伐数はラグナードさん達のパーティーが一番多いですし……」


「南の森の方は?」


「特に目立つ変化はないとのことです。あの森も広いので、まだダンジョンの調査までは進んでいませんけどね。明日辺りには手配出来そうです」


「そうか。人手不足はどこも一緒だな」


「はい。それで、明日すぐには人手を回せませんので、ラグナードさん達のパーティーには調査だけではなく、緊急性の高いものだけでも討伐をお願いしたいのですが……」


「……分かった。だが、なるべく早く調整してくれ」


「もちろんです。すみませんがあと一日猶予をください。よろしくお願いします」





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