第103話 適材適所



 ◇ ◇ ◇




 今日は、冒険者ギルドに依頼された通り、北の森の迷いの魔樹を含むトレントの分布調査と討伐をしていった。


 ラグナードの『索敵』スキルで魔物を上手く避けながら、三人で一列になって森の奥へ向かっていく。


 成長期を終えて親株になりそうな個体や、魔素が濃い場所にあり急成長する可能性がある個体だけは危険なので間引きながら、時間と体力の許す限り調査範囲を広げようと道なき道を進んでいくんだけど……。


 人が稀にしか入らない森を移動するのは中々上手くいかず、背の高い草藪やゴツゴツと不規則に隆起した地面も歩きづらくて、消耗が激しい。


 分かっていたけど、広範囲の調査は難しいなぁ。


 それでも今日見た限りだと、思った以上の数があった。一つのパーティーだけで、早期討伐の必要な個体の始末と捜索を兼任するのは効率が悪い。


 リノの体力が落ちてきたことをきっかけに、昼過ぎには森から引き上げた。







 冒険者ギルドへ行くと、いつものように窓口で魔石を換金してから調査結果を報告する。


 巨木群辺りの森の中奥に、早期対応が必要な数の迷いの魔樹を確認したと聞いたエドさんに、もう少し詳しく聞き取りをさせてほしいと頼まれた。




 了承すると、二階にある小会議室の一室へ案内される。


 テーブルの上にはすでに北の森が描かれた地図が広げておいてあり、いくつか書き込みもされていた。

 ここで、冒険者達から聞き取った調査結果をまとめることにしたんだとか。


 私達にも、今日までに調査したトレントの位置を出来るだけ正確に書き込んでほしいと言われたので、『マップ作成』スキルで確かめながら記入していった。



 こうして俯瞰してみてみると、ごく一部の範囲を捜索したに過ぎないのがよく分かる。

 この世界の森は想像以上に広く深く、対処しきれるのか心配になってくる巨大さなんだよね。

 大陸全土を覆っている森を切り開き、何とか人の住む領域を少しだけ切り取れてるって感じかな。


 でも、この町には何気に毎年何度も、異常に繁殖力が旺盛な森の侵略を防ぎ共存してきた実績があるんだよね。すごいなぁ。

 まあ、活性化している森は豊か過ぎる恵みを約束してくれるから、危険を回避できれば魅力的なんだろうけど……。








「そうですか。多数のトレントがいましたか……」


「あの場所はこれまでも手付かずになる時があったんじゃないのか?」


「はい。巨木群まで行ってくれる冒険者が中々見つからなくて……あそこまで行かなくとも、もっと近場で同じように稼げますからね。なので指名依頼を出すか、それさえ無理な時はギルド職員で間引きするのですが、こまめに見回れる程、手が足りない時がどうしてもあるんです」


 そう言ってエドさんは、苦しい胸の内を話してくれた。


「ここの領主から、兵を借りれなかったのか?」


「いえ、領主様にもお願いして通常なら協力体制は整っています。ただ、ここ数日は北の森は冒険者ギルドが、南の森は領主様が担当して調査をしておりました」


「ああ、もうそっちに行っているのか」


「はい。今日はダンジョンの調査をされたそうなんですが活性化しているのが分かりまして、決壊を防ぐためそちらに兵力を集結させる必要があると。あそこも普段から冒険者に不人気なため攻略が進んでおらず、更にこの状況だと北の森まで人手を回すのは難しいそうなんです」


 南の森のダンジョンって確か、強い魔物がウヨウヨいる森の中を通らないと辿り着けない割には、大したお宝が出ない所だったっけ?


 ダンジョンの中は幅の狭い真っ暗な迷路のような洞窟で、小型の魔物が何種類も大量に出て来るけど、小さな魔石以外の素材は取れない。

 その上やたらと罠が多くて、内部の魔素濃度によって迷路がいつの間にか再編成するらしく、マッピングしにくい。

 スキルオーブや魔鉱石などの高価なお宝もなく、採取出来るのはマジックキノコや薬草くらいとなれば、冒険者に人気がないのも分かる。


 ダンジョンの外で討伐や採取をした方がよっぽどお金になるのに、そんな旨みがなくて危険なところにわざわざ行きたくないよね。


 ただ、定期的に討伐しておかないと魔物の数が増え過ぎてスタンピードを起こすか、ダンジョン内の仲間内で共食いをして階位を上げ、災害級の魔物が作り出される可能性がある為、放っておくのは危険なんだ。

 南の森を抜けれるような高位の冒険者パーティーはボトルゴードの町には少ないし、あまり強要してしまうと町から出ていってしまう。

 冒険者が動かないとなると領兵が間引きするしかないから、ダンジョンの事は領主様の方が詳しいんだとか。なるほど。


「間が悪いな。じゃあ、冒険者パーティーをいくつか回して貰うしかないか」


「すぐ手配します。今回はラグナードさん達のおっしゃるように、この場所から森全体に増えているといっていいと思います。今ならまだ、一気に潰せば間に合うでしょう」


「そうだな」




 相談した結果、私達のパーティーは、今日調べ切れなかった場所を明日以降に捜索することになった。

 もしトレントを見つけられなくても、一日分の捜索依頼料が支払われることを確認して引き受ける。


 人族のみのパーティーだと幻術耐性が低いため限られた数しか派遣できないけど、迷いの魔樹がある場所を事前に把握できていた場合は対策が取りやすく安全に対処できる。

 また、森の中での捜索も獣人族やエルフ族ほど得意じゃないし個人の持つ魔力総量も少ないので、討伐だけ担当した方が効率がいい。ランクの低いパーティーでも対応できるようになるからね。


 手分けして対応した方が使える人材も増えて討伐の効率が上がるというので、今日の調査で発見した魔樹は早速、そういったパーティーに依頼を出すことになった。


「緊急性の高い魔樹だけは、これまで通り捜索しながらの討伐をお願い出来ますでしょうか?」


「わかった」


 どうかお願いしますと、再度エドさんに頭を下げられた。





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