第142話 神父様って凄い



「でももうこれで、最優先で買うものは一つに決まりましたね」


「そうね。どうしても必要なものだし。外套を新調するのはまた今度かな」


「はい。しかしまた魔道具ですか。こういう時、実力不足をすぐに補えて便利なのはいいんですけど、馬鹿みたいにお高いんですよねぇ」


 憂鬱そうにそう言って、ため息をついた。


「まあ、お前達の懐具合をからするとそう感じるだろうけど、何とか手が届く範囲のはずだ。高レベルの鑑定持ちがくる前に、リノのだけでも早めに準備しておいた方が安全だから。それもできれば、1レベルでも高い方のやつをな」


「うん、わかった」


 ラグナードの的確な助言にはもう、頷くしかない。二人揃って『幸運』スキル持ちだとバレるのが一番まずいからね。明日にでも、魔道具屋さんでステータスを隠蔽できるアイテムを買おう。




「ところでリノ、腕に着けてるそれは何だ?」


 ラグナードが指さす方を見ると、左の上腕に組紐のようなものが巻きついている。彼女と初めて会った時から、大事に身につけていたものだ。


 少し濃いめの赤青黄緑という、四大元素の色を使った民芸品っぽい組紐で綺麗なんだよね。冒険者って全然着飾れないから、唯一の女の子らしい小物かな?


 ネックレスとかのアクセサリーも着けてるけど、全部魔道具だしオシャレじゃないし。購入者が主に男性冒険者だからか、デザインもゴツいのとか素っ気ないのとかが多くて可愛くない。

 だからってつけないとか我が儘言ってたら、プチっと死んじゃう。まだまだ弱っちいからね!?


魔物との戦闘で、血と泥にまみれる職業だからと諦めてたけど、リノみたいにワンポイント可愛くするのは有りだねっ。今気づいた。……うん、分かってる。やっぱり私、女子力低いわ。




「これですか? 村を出る時に、お守りだよって神父様が手ずから作ってくださったアミュレットです。神殿で、身の安全を守る祈りを込めてくださったものだと聞いてますが……」


「へぇ……そうだったんだ。なんかいいなぁ、素敵だね」


 単なるおしゃれアイテムじゃなかったらしい、何か女子力とか言っちゃってゴメンよ。予想と違って、思い出深いちゃんとした素敵アイテムでした。


 しかしこの世界にも御守りなんてあったんだね。魔力なんていうファンタジーな力もあることだし、気休めじゃない、本物の効力がありそうな予感がする……神父様の手作りだし。


 と言うか前から思ってたけど、リノの村の神父様って理想の聖職者そのものって感じじゃない? 彼女が村という閉鎖社会で魔力不足と大食いというダブルの困難を乗り越えられたのも、彼という人格者がいてくれた事が大きいんじゃないのかな。

 だって普通なら、飢饉の時とか真っ先に横やりにあげられそうなのに、そんなのなかったって言ってたし。


 聞く限りでは、積極的に村人に手を差し伸べて生活を改善し、少しでも豊かにしようと手助けをしてくれてるみたいだしね。一度、お会い出来るものならしてみたいなぁ。




「そうなのか、神父さんが……」


「あの、これがどうかしたんですか?」


「うん、ちょっと変わった魔力を感じたから興味があって。それ、少し見せてもらってもいいか?」


「ええ、勿論です。はい、どうぞ」


 ニコニコしながら快諾すると、アミュレットを手早く外すしてラグナードに手渡した。


「ありがとう」




 彼は渡された組紐を手に取り、なにやら考え込んでいたが、暫くして顔を上げ、確信したように呟いた。


「……やはりそうだったのか」


「何か分かったの?」


「ああ。このアミュレットが今まで、リノの身を守ってくれていたということがな」


「え」


 何故リノが、殆どないに等しい魔力量で『鑑定』スキル持ちから特殊スキルである『幸運』を誤魔化せていたのか……その理由が判明したらしい。ラグナードが詳しく話してくれた。




「魔力が少なく、厄介なスキル持ちのリノが心配だったんだろう。聖属性の特殊な祈りが込められている。 言葉にするのがは難しいが、多分、彼女を認識しても無関心になるような……術歌のようなものが織り込まれている。これがなかったら、リノの魔力とパーソナルレベルだけでは村からの一人旅が危険だったはず」


「へぇ、スキル自体ではなく、本人から意識を反らしてくれるのかぁ。隠蔽とはちょっと違うけど、厄介ごとに巻き込まれるのを防いでくれる、ありがたい護符だね」


「ええ、本当に。そんな凄い術歌が……知らなかったです」


 判明した内容にリノも驚いたらしく、目を見開いている。


「村を離れても私はずっと、神父さまに守られていたということですかぁ。あの方には、どれだけ感謝してもしきれません。もっとちゃんとお礼をすればよかった……」


「随分と立派な神父さんだな」


「はい、うちみたいな小さな村にはもったいないぐらいの博識な方でした。ずっと相談に乗ってくれてて、村を出る際、いつか無事に帰って来なさいとこれをくれたんです」


「そうか。じゃあ、その思いに応えないとな」


「はいっ、頑張ります。まずは冒険者として、早く一人前になって金欠から抜け出したいです!」


 神父様の優しい想いを受け取って、気持ちを新たに力強く宣言した。





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