第143話 隠蔽のスキルの基礎
その勢いにちょっと引きながらも、ラグナードが頷く。
「そ、そうだな。よし、じゃあ危険なスキル持ちの二人が安全に冒険者をするためにも、隠蔽のスキルの基礎を教えてやろう」
「え……で、でも、いいの? すっごく嬉しいけど私達、もう既に武術も教えて貰っているじゃない? その上隠蔽のスキルまで……今までだって授業料も殆ど支払ってないし」
「そ、そうですよね。中々、金欠から抜け出せなくって……本当、ラグさんには力を貸していただくばかりになってしまってますし。申し訳ないです」
「ああ、子供が遠慮するな。そんなのは後でいい。元々、特殊スキルは『鑑定』で読み取りにくいから、少し練習してコツを掴めればいいだけだしな。覚えておいて損はないし、やる気があるならやってみないか?」
「はいっ、勿論です!」
「うん、よろしくお願いします」
「分かった。じゃあ、早速やるか」
そう言うわけでラグナードの指導の元、今からやってみることになった。
生き物の体内にはパーソナルレベルに応じて、ある程度は外部からの魔法の影響を防ぐ自己防衛機能が備わっているらしい。
その機能が、ステータスが無防備に晒されるのを防いでいるんだとか。確かに相手に情報が丸見えだと即、生命の危機に直結するもんね。
「なのでまず、相手に対して強い拒絶の気持ちを持つこと。それが、自己防衛機能を自然と強化してくれる。その上で、自分自身を外部から薄い膜で包み込むようにするんだ」
「……成る程?」
やっぱりこれも、魔法を使うのと一緒で意識して使うってことが大事らしい。
妄想するのは結構得意だよっ。
現実逃避とかもよくしてたし……ってこれはちょっと違うか。
……うん、真面目にやりますって。
えっと、周りは敵だらけって感じで拒絶の気持ちを膨らませ、次にステータスを覆い隠すイメージで膜を張るんだよね。
……。
…………?
割りと難しいな!?
今現在、ここにいるのが信頼する味方だけっていう状況だしね。この世界に来てからも特に嫌な人にも会ってないんだよ、幸運にも。
う~ん。
じゃあ、魔物に襲われた時の事を想像してやってみようかな。
それからこう、一度に全部やろうとせずに、順番に重ね掛けるようにしてっと……。
「う~ん、こんな感じかな?」
……ど、どうだろうか?
何だかプルプルして安定しないけど、何となく出来ている気がするんですが……?
「そうだな……うん、初めてにしては上出来だ。今まで無意識でしていたのとでは、全然精度が違う」
「本当? よかった」
実際に『鑑定』スキルを使用して確認してもらいながら頑張った甲斐があって、彼から上手く隠せていると言ってもらえた。よかったぁ。
「ただこれ、維持するのが難しい」
「まあ、そうだろうな。最初は無難に、隠蔽の魔道具にも頼った方が確実だろう。徐々に慣れていけばいい」
「うん、わかった。ありがとう」
「ああ、よくやった。お疲れさん」
ふふふっ、頑張れば結果が出る世界って本当に素敵。やる気がでるなぁ。
後は繰り返し練習して、熟練度を上げなきゃね!
「さて、リノの方はどうだ?」
「うううっ。それが、魔力がすぐ足りなくなっちゃってキツイんです」
「ああ、成る程」
そう言ってラグナードは、彼女の魔法を近くから観察し始めた。
リノも初めに比べればパーソナルレベルが上がってきているだろうし、魔力も増えてきている。
それでも念のため、飲食や私の聖魔法や支援魔法で魔力を補給し、ラグナードにアドバイスを貰いながら練習を続けた。
その甲斐あって、何とか『特殊スキル』を少しの時間は隠蔽出来るようになってきたけど、まだまだ完璧とは程遠いらしい。魔力も気力も足りないみたいで、揺らぎがあるんだとか。う~ん、大変だなぁ。
「お前は魔力総量が少ないから、ローザより習得に苦労するだろう。でも、神父さんのアミュレットがあるからな。それくらい出来ればまあ、十分だろう」
「ほ、本当ですか? はぁ、よかったですぅ」
「ただアミュレットだけだと、直感スキルを持ってる奴がいたらバレやすい。理想は、両方スキルとして鍛えることだ」
「さ、先は長そうですね。でも身の安全のため、二人の足手纏いにならないためにも、やってみますね!」
「ああ、一緒に頑張っていこう」
「はいっ」
ラグナードに励まされ、ポンポンと頭を撫でられたリノは嬉しそうに笑った。
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