第141話 真面目なお話
少し呆れたような声音で、こっそり囁かれてハッとした。
「え?」
「あっ!? も、もしかして?」
「うん、お揃いのものを視て知ってる」
ラグナードの『鑑定』スキルは、私より高レベル……。ステータスが筒抜けになっていたという事らしい。
「そ、そう言えばそうだった……」
「うわぁ、やっちゃいましたね」
「まあ、この話はまた後でな」
「はい」
確かにこんな公共の場ですることではない。珍しい『幸運』スキル持ちが二人もいるという秘密が筒抜けになってしまう。
例え、ほとんどの宿泊客が出払っている時間帯の、閑散とした宿の炊事場だったとしても気を付けないと。
それからは三人で黙々と作業を続け、干し肉作りを急ピッチで終わらせた。慣れてきた事もあり、急いだ割には美味しく出来上がった。これで当分保存食には困らなさそうなのは良かったよ。
炊事場の後片付けをしてから、私達が宿泊している二階の部屋へと上がった。これから作戦会議です。
「さてと。両隣の部屋はまだ帰って来てないみたいだけど、一応気をつけて喋るぞ」
「分かった」
「はい」
「とにかく、雨の月の採取物を目当てに買い付けにくる商人は多いはずだ。辺境の森ほど上質のマジックキノコや茸の魔物が取れるからな。レベルは分からないが、大抵は『鑑定』スキル持ちだろうし、もうあまり時間はない。分かるな?」
「はい……」
やっちゃったよ。
こんな大事なことを忘れてたなんて、自分で自分が信じられない。
『鑑定』スキル持ちはラグナード以外にもこの町にいるのに、何で誰にもバレてないと思っちゃったんだろう。『鑑定』レベル1の私でも、リノのステータスが視れたのに……。
魔道具屋のマールさんとか冒険者ギルドの職員さんとか薬屋さんとか絶対持ってるよね。その人達にもバレてたんだろうか? どうしよう、怖い。
「あの、私たちのステータスって、現時点でこの町のどのぐらいの人にバレてると思う?」
「そうだな。リノのはもしかしたら見破られていた可能性もあるが、ローザのは大丈夫だろう。『鑑定』スキルは万能そうに見えて、同レベルでも個人差が大きいスキルだから断定は出来ないが……」
「え? どうゆうこと?」
ラグナードが詳しく教えてくれたところによると、例えばパーソナルレベルが上の者のステータスは、『鑑定』レベルだけが高くても視れないんだとか。
パーソナルレベルを上げるには、魔物を多く倒す必要がある。いくら『鑑定』レベルが高くとも、そうした経験の少ない商人などが経験を積んだ冒険者のステータスを確認するのは厳しいみたい。
更に、魔力総量の差も影響してくるらしく、魔力の多い長寿種族のステータスは余程高いスキルレベルがないと見破れないという事で、エルフ族の私のステータスは無事だろうとのこと。
そもそも私が『鑑定』レベル1でリノのスキル構成全てを読み取れたのは、双方に信頼関係があったから。本人の許可がなければ、心にロックが掛かっている状態な為、特殊スキルなどの細部まで全部、読み取ることは出来なかったと言われた。
つまり私がリノのステータスを全部見れたのは、彼女が私のことを心から信頼してくれて、全部見せてもいいと思ってくれたからだということか。こんな時になんだけど、それはとっても嬉しいな。
「そうなの? じゃあ、 思ったほどはバレてない?」
「ああ。ちょっと脅しすぎたか? だが今回はたまたま運が良かっただけだからな。くれぐれも気を引き締めるように」
「はい、分かりました」
「はぁ、良かったぁ。教えてくださってありがとうございます」
「ステータスは、本人が隠蔽しようとする強い意思がない限り、筒抜けになる。しっかりと拒絶の気持ちを持ち続けていれば、そう簡単に見破られないとは思うが、普段から気をつけておいた方がいい」
「了解です。しっかり警戒します!」
「本当、気を引き締めます。……ところでもう一つ確認しときたいんだけど、ラグナードは初めから私たちのステータスが全部わかってたの?」
「いいや。部分的にしか分からなかったぞ」
「そうだったんだ……」
「……そうだったんですかぁ」
それを聞いてなんだかちょっとホッとした。
特に今回は、二人共に彼を信頼していくにつれて、警戒心がガバガバになっていった為、途中から読み取れるようになったらしい。
「長寿種族ってだけで、俺の事を簡単に信用し過ぎだ。特にローザ。あっという間に警戒心が溶けて視れるようになったんだぞ。はぁ……本当、お前ら見てると心配になるよ」
「ううっ、すみません」
反省しかないです。ラグナードの話では、ギルド職員や商人の中には、看破の魔道具を使ったりして、全て見破れる人もいるらしいので、本当に気を付けないと……。
ここは平和な日本じゃないんだしね!
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