第140話 全然秘密に出来ていませんでした……
二人に確認してみたところ、やはりお肉には大満足したいう事なので、そろそろデザートの準備をすることに……。
ロカのお店で購入したクッキーと、今日採取したばかりの香草で作ったお茶に、ダイダイの実の残りを輪切りにしたものを添えてセットしていく。
その間に、鉄板の上の残りものはリノが空いている木皿に片付けてくれている。これは後で彼女の夜食になる予定です。
「そうだ。ついでにこの実もデザートに食べちゃいませんか? 傷付いていて痛みやすそうですから……」
そう言って2cm程の小さな黄色い実をコロコロと小袋から取り出した。サイレントキラー・プランツの果実だ。
おおっ、さすがリノさん。傷ついていて売り物にならないやつも、素早く拾って持って帰って来ていたのね。知らなかった。
ただ、これには極微量だとはいえ、依存物質が含まれているから私的には少し心配なんだ……。
話を聞いていると、向こうの世界に置き換えるならアルコールやタバコのようなもので、過剰摂取せず使用容量を守っていれば無問題らしいけど、未知の食べ物なので怖い。
「本当に大丈夫?」
「ああ、ローザは中毒性が心配なのか。なら、聖魔法の『聖火』を掛けてみるか?」
「え?」
「果実に含まれる依存成分は熱を加える事で多少抜けるんだが、更に『聖火』で焼くことで完全に消えるんだ」
聖魔法自体使える奴が少ないから普通はやれないんだがな、と言うラグナード。より安全に食べる為の裏技みたいなもんで、今回みたいな時に使えるんだって。
美味しくても毒のあるものっていうのは結構あって、それでも食べたいと言う美食家のために考え出された方法らしい。
「そうなの? 知らなかった……じゃあ、ちょっとやってみるね」
「ああ」
まずは、お肉の油で汚れている鉄板に聖魔法の『浄化』をサッと掛け綺麗にする。う~ん魔法って便利! 一瞬でピカピカになった。
火加減はっと……うん、熾火状態になっているし、このままでいいかな。火力は弱いけど、小粒の果物を焼くだけだしこのくらいでいいか。
鉄板の上に、こちらも聖魔法で『浄化』した上で『聖火』を浴びせたサイレントキラープランツを、果皮ごと乗せていく。
すぐに、お肉の香りを打ち消す程の甘~い匂いが炊事場中に広がった。
「うわぁぁぁ、室内だとちょっと強烈ですねぇ」
「そ、そうだな」
私でもしんどいもんなぁ、『嗅覚強化』のレベルが高い二人だと余計に大変そうです。
火に温められて、果汁がぷくぷくと泡立ってきた辺りで火から下ろし、それぞれの木皿に移す。
では早速、いただきます!
「んんん~っ、甘~い!」
「本当、美味いなこれ。久しぶりに食べたが味が濃い」
「あ、これ果皮も食べられるんだ?」
「ああ、少し渋みがあるが大丈夫だ。丸ごと食べれるぞ。種も無いしな。たくさんあれば、ジャムにしても美味いんだが……」
「へぇ、そうなんですか。う~ん、もっと拾う時間があれば良かったんですけどねぇ」
「でも、あれ以上同じ場所に留まると、魔物がわんさか寄ってきて危険だったし……仕方ないよ」
「……そうですね。命大事に、ですから」
「うん」
二人が絶賛するので、私も恐る恐る食べてみたんだけど、マンゴーのような南国産のフルーツを感じさせる味わいで、リノが言うように甘みが濃くて美味しかった。
そして、心配していた美味しい以外の効果は、殆ど体感出来なかった。食べる事で得られる予定だった多幸感や爽快感はなく、一気に取れるはずの眠気や疲労感についても、言われてみればそうかもしれないっていうくらい?
効能は、ほぼ全て消滅したようだ……。
「やっぱり、中毒性だけ除くっていう訳にはいかないよね」
「まあ、そうだな。ただ、本当かどうかは知からないが『料理』スキルが高いと可能らしいって聞いたことはある」
「でも、美味しく頂けますしこれでいいんじゃないですか? いつものように聖魔法で処理して頂いたお陰で、MP微量回復効果は付いているんですし」
「ああ、その通りだな。付加価値ならそれで十分だ」
「……うん、ありがと」
本当、心配性ですみません……。
さて、デザートまで楽しんだ後は、腹ごなしに皆で干し肉作りをすることに……。
スモールボアのお肉を、二人がどんどん薄切りにしていってくれるので、こちらも次々と香草塩を振って揉み混み、下味をつけていく。
今回は丁度いいことに、先程焼き肉をした時のソースが少しずつ残っている。せっかくなのでそれも使ってみた。
味付けは全部で四種類に……これは食べ比べるのが楽しみですねぇ。
再度、火を起こして鉄板を温めたら薄切り肉に軽く火を通す。その後は魔法で程よく乾燥させるだけで出来上がりです。
リノに教えてもらった干し肉作りだけど、作業工程は少ないし、短時間で出来て楽チン! この世界に合った方法を聞けて良かったよ。
量が多いので忙しく手を動かしながらも、口は空いているのでおしゃべりをしている。
話題は目前に迫った雨の月について。早いもので、この世界に来てからもうすぐ二ヶ月になる。待ちに待った茸狩りの季節が始まるんだ。
日本だと大体、茸狩りって秋が盛んだけど、こちらだと六の月、 雨の月とも呼ばれる来月が最盛期になる。この時期にしかない稀少な茸もあり、一年分の収穫をすると言っても過言ではないそう。
「楽しみですねぇ」
「そうだな。そろそろ商人達も買い付けに来るだろうし、賑やかになるぞ」
「稼ぎ時だもんね。あっ、そう言えばまだ防水性が高い外套買ってなかったっ」
「ですねっ。確か魔道具屋さんにいくつか売ってましたし、明日にでも買いに行きましょうか?」
「うん。今なら少しお金に余裕があるし、他にも何か買うものがあれば、ついでに買うのもいいよね?」
「……いや、二人にはあるだろ」
「え」
「ん?」
「……いやいや、お前ら忘れてないか? 俺が『鑑定』スキル持ちで、他人のステータスが見れるってことを」
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