第139話 肉肉しくって素敵です



 これで三種類のタレが揃った。ピリ辛と甘辛いのと、香草風味のものと。


 どれも『料理』スキルのおかげで、肉の味を引き立ててくれる味になったはず。


 そのタイミングでスモールボアのお肉も焼けてきたよっ。両面に程よく焼き色がついてて、食欲をそそりますねぇ。見ているだけで涎が出そう……じゅるりっ。


 軽く香草塩で下味をつけただけなんだけど、何故こんなにも食欲のツボを刺激する匂いが出るのかっ。各種茸もどんどん焼けてきているけど、なによりも先にこのお肉を食べたい!


 お好みで好きなソースを選んでもらえるように小皿に取り分けてテーブルに置いてから、ジュージューと音を立てる分厚いステーキを鉄板から下ろす。

 宿泊客用の炊事場には、すぐ横に食事用のテーブルや椅子まで設置されているのがいいよね。出来立ての熱々を即、その場で食べられるなんて素敵です。




 火をごく弱火に調節してから果実酒で乾杯し、森の恵みに感謝していただくことに……。


 ほこほこした湯気を立てるお肉にスッとナイフを入れる。途端に溢れ出る肉汁! 焼いてる時にも結構出ていた気がしたけど、あれは極一部だったみたいね。

 分厚くカットしたからか、お肉の中に殆どの肉汁を閉じ込めることに成功した模様です。


 何これプロの仕事っぽいよっ。『料理』スキル万歳! もう堪りませんね!?




 まずはソースをつけず、そのままで味わってみる。


「んんんっ、これぞ肉って感じで美味しいです~! 噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てきますねっ。はぅぅっ、厚切りステーキの食べ放題って、なんて贅沢な食べ方なんでしょう……」


「ああ、美味いな。香草塩だけでこんなに風味が出るのか……」


「うん、本当だね。いい感じに仕上がってる。ボアの肉だからホーンラビットとかに比べると固めだけど、屋台のよりは少し柔らかいかも?」


「そうだな。でもまあ、俺にはこのくらいの固さでちょうどいい」


「あ、そう? よかった」 


 種族によっても多少好みが違うのかな? 覚えておこう。


「心配していた臭みも、ほぼ気にならないよね?」


「そうですね。 野趣あふれる感じで上品すぎず、いい塩梅になっていると思います」


「多分、臭みがほとんど感じられないのはサイレントキラープランツの実を食べた後の個体だからなんじゃないか?」


「ああ、なるほど。じゃあ私達、運が良かったんですね」


「うん、ラッキーだったね」


 二人分の『幸運』スキルが、ここ一番ってところでいい仕事をしてくれたのかな?


 それにしても目の前にあるお肉の山……漫画の一場面みたいね。これ全部、三人で食べていいなんて幸せすぎです!

 攻略し甲斐があるなぁ。冒険者になってよかった。お金の心配もなく、思う存分食べ尽くせるもんね! 




 そのまま食べても十分美味しかったけど、せっかく作ったので三種類のタレを順番に試してみることに。


 まずは魚醤を使ったものから……。


 好みの別れる味なので、宿では中々メイン調味料としては使わないから、そのままの味で口にする事は意外とないんだ。女将さん情報によると、隠し味には入れているらしいけど。


 ナイフを使い、大きめの一口サイズに切り分けてから、端っこにちょこっとつけてっと……パクリッ。


 はあぁぁぁっ、この味だよ~。久しぶりのお醤油の味。何だか涙出そうになる……。


 つい夢中で食べてしまった。ピリ辛のも甘辛のもどっちも選べないくらい、どっちもよかったよっ。

 炊きたての白米が欲しくなっちゃったなぁ。一緒に食べれたら無限ループする自信があるね。

 お米はこの町でも売っているんだけどさ、高くて買えないんだよ……。でも食べたいなぁ。


 ……よし、決めたっ。とりあえず、好きな時にお米を食べられる冒険者を目指そうっ、うん! 




 木皿の上に取り分けたお肉は、あっという間に消えていく。確か、乳茸のミルクで一度満腹感を味わった筈なんだけどさ。お肉の前ではそんなの関係なかったねっ。

『料理』スキルで見極めた、最高の状態で焼き上がったものから順に、次々と二人の皿に乗せていった。いっぱいあるので心ゆくまで食べてください。


 私には懐かしい味がする三種類のソースだけど、二人共気に入ってくれたみたい。

 それぞれの味の変化を楽しみながら、これがあるといくらでも食べれるって言ってくれたよ。よかったっ。


 自己強化には直接関係ないけど、冒険者を続けるなら『料理』スキルって案外大事かもしれない。

 心もお腹も満たされるこの感じって、命のやり取りですり減りそうな精神面を支えるのに役立つんじゃないかな。


 それに、レベルアップすればするほど、シルエラさんのように即効性の高い薬膳料理が作れるようになる。

 例え作りすぎてもきれいに平らげてくれる人が身近にいる事だし、レベル上げ、頑張ってみようかな……。




 パチパチと、小さく薪の爆ぜる音がよく聞こえる。初めは美味しい美味しいって言いながら皆でワイワイ食べていたんだけど、今は無言になっちゃったから余計にね。

 ほら、味わうのに夢中でしゃべってる暇がないと言うか。 本当に美味しいと、食レポしている余裕がなくなっちゃうもんなんですねぇ。


 いやぁ、よく食べた。もう満足です! あれだけあった鉄板いっぱいのステーキ肉と茸も、残り僅かになっている。

 食欲がブラックホール並みのリノでも、さすがに食べるペースが落ちてきたし、追加は必要なさそうかな。





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