第138話 『料理』スキルが大活躍



 さて、乳茸から絞ったミルクだけど、後は火にかけ、かき混ぜ続けるだけみたいです。 

 熱をじっくりと加えることで、かぶれの原因となる毒素を消し去ってくれるんだとか。


 ただ、気持ち的に何となく怖いので、念のため先に聖魔法の『浄化』を掛けてきれいにしておくことにする。うん、これでちょっと安心かな。


 でも、正しい熱処理の仕方ってどうやるんだろ? 分からなかったので、隣でスモールボアのお肉を捌いてくれているラグナードに聞いてみた。


「そうだなぁ。かき混ぜ続けていると、沸騰後に少しずつ重たくなってくる筈だ。熱を加える事で凝固が始まるから。そうなったら火から下ろせばいい」


「なるほど。沸騰後の目安の時間とかは分かる?」


「……確か、十分程煮込めばよかったと思う。少しでも長く保存したい場合にはある程度水分を飛ばさないといけないのと、やり過ぎても風味と効能が落ちるっていうのも覚えておいた方がいい。その後は、これに入れて冷ます。固まったら出来上がりってとこかな」


 そう言って、用意していた大きめの四角い深皿を示した。う~ん、燃料が薪だし火加減が難しそうだけど……。


「分かった。やってみる」


「うん。『料理』スキルを持っている方が火加減を失敗しにくいらしいから。頑張ってみてくれ」


「は~い」




 ラグナードに教えて貰った通り、小鍋を火に掛け、焦がさないよう丁寧に火加減を見ながらかき混ぜていく。温度が上昇するにつれて、ミルクの色も段々と黄色味がかってきた。

 一瞬、失敗してしまったかとドキドキしちゃったけど、こうして色が変化すると成功らしいよ。

 後は止めるタイミングだけなんだけど……うん、私の『料理』スキルがこのくらいでいいっていってる気がするっ。


 火から下ろし、程よく固まり掛けたものを深皿に注ぎ入れた。今回のは彼が魔法で急速冷凍してくれたからすぐ完成したよ。見た目はシチューのルーそっくりになっちゃったねぇ。 


 お店ではこの状態で量り売りされているみたい。飲むときには、必要なだけ割ってお湯で溶かすんだって。このままだと原液が濃縮されているようなものなので濃すぎるからね。




 じゃあ味見する分だけ作ろうかな。小鍋に残しておいたミルクに、魔法で作ったお湯を入れてかき混ぜる。よし、出来たっ。


 ほんのり甘いミルク味だって聞いてるけど、どうなんだろ。


 木製のカップに注いで、まずはそのまま一口、三人で飲んでみた。


 この味は……何かバニラ入りの生クリームに似てるかも? 美味しくてすぐに飲み干してしまう。それは二人も同じようで……。




「うん、美味しいですっ。初めて飲みましたけど、濃厚なお味なんですねぇ。それに何だか体もポカポカしてきました」


「そうだね。少量なのに満腹感もあるし……この茸の特徴なのかな?」


「ああ、栄養価が高くて吸収率がいいんだよ。もう少し保存が効いたら携帯食に出来るんだが……」


「本当だよね。これだと何日くらい日持ちしそう?」


「う~ん。よくて六日ってとこか?」


「やっぱり傷物だと保存期間が短くなるんですね」


 これは早めに飲みきるしかないみたい。まあ、食欲が爆発しているリノがいるから、絶対に余るってことはないだろうけどさ。


 じゃあ次は本命のスモールボアのお肉を焼いていこうかな!


 干し肉作りは後回しにして、ラグナードやリノが枝肉から骨を外してくれた塊肉を使う。

 手に取ってみると、弾力があっていい赤身っ。これはシンプルにステーキにしよう。


 分厚く切って、味付けは香草塩だけにしてと。少し味を馴染ませておきたいし、先にタレを作っておこう。

 たくさんあるから、味に変化を加えてくれるものがあった方がいいよね。その方が飽きずに美味しく食べれそうだし。




 まず一つ目は、手にいれたばかりの魚醤を使ったものにする。塩と川魚で作っているので独特の臭いがするなぁ。色は飴色できれいなんだけどね。

 そのまま使うのはアレなので、魚醤に黒鞘豆草と辛草を入れてひと煮立ちさせてみた。

 ピリリと辛い辛草を入れることで味が引き締まり、黒鞘豆草で魚醤独特の魚臭さがいい感じに取れたと思う。うん、成功かな。


 次に、ミントチャツネっぽいものを作る。辛草と涼草をペースト状になるまですりつぶし、それと大体同量の香草塩と入れて混ぜる。

 そこへ風味付けとしてダイダイの実の果汁を少々加えたもの。これ、前に一度作った事があるんだけどお肉によく合うんだよね。


 ここまで目分量なのに、プロの仕事って感じに仕上がった。自分で作っておきながらアレだけど、さじ加減が絶妙というか。

 本当、『料理』スキルって便利だなぁ。美味しいが約束されているようなものなんだよ。素敵ですっ。




 とりあえずこれで二種類のソースの用意が出来たし、ステーキを焼いていくことにする。

 二人にも食材の調理を一旦中断して、座ってもらった。ぜひ焼きたてを食べて欲しいからね!


 食欲大魔人様がいるから、一度に大量に作っても大丈夫なはず。鉄板の上に並ぶだけおいていき、僅かな隙間にも水白茸や水光茸なんかをのせてみた。


 うわぁ、凄い肉汁! これだけあるといっぱい出て来るね。茸のいい風味もついていることだし、これを使ってもう一つソースを作ってみようかな?


 同量の魚醤と合わせて、その中に買ってきた果実酒を少し垂らしてっと。どうかな? うん、ほんのり甘いコッテリしたタレに仕上がってる。こうゆうのもいいね!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る