第134話 秘密がいっぱい



 『解体』スキルを持つラグナードとリノがスモールボアをばらしている間に、『採取』スキルがある私が実を集めてまわる。


 相次ぐ戦いで損傷した実は多く、『嗅覚強化』があるせいかやたらと甘ったるい匂いが鼻につく。こうなるともう、美味しそうとは思えないというかね。


 例えるなら、何種類もの香水をまとめてぶちまけたような強烈過ぎる香りに包まれているといった感じかな。頭が痛くなるほどだ。


 私でさえそうなのだから、より『嗅覚強化』スキルのレベルが高い二人にはもっと深刻そうで、少しでも早くこの場所から離れるべく、手早く作業を進めていった。




 無事なものを選別し一袋分集めた所で、ラグナード達も一体の解体をほぼ終わらせたらしい。


「そろそろ離れた方がいい。急ごう」


「はい」


「分かった」


 ここまでで、結構時間が経っている。


 実を拾うのは中止して、魔石と二本の大きな牙、毛皮、枝肉に分けられた素材を仕舞っていく。大きいので一体だけでもかなりの重量になる。これで三人分の背負子は一杯になるだろう。


「……やっぱり、残り二体のお肉、置いていくとなると惜しくなっちゃいます」


「残念だけどね……運べないし。何気にお肉が食べれる大型魔物って、私達は初成果だったし惜しい気もするけど」


「ですよね。分かっているんですけど……マジックバッグがあればなぁって思っちゃうんです」


「まあね。でもあれってすごく高いから私達じゃ当分買えないから。それこそラグナードくらい強くならないと」


「確かにそれくらい稼げる人じゃないと無理ですよね。というかラグさんならもう持ってたり、したりして……?」


 んんっ?


 今、ピクピクって耳が動いたんですけど、それって……?


「えっ、まさか……?」


「はぁ仕方ない。これは秘密だ……守れるな?」


「う、うん。もちろん……じゃあ?」


「ああ、持っているよ」


 やっぱり。耳や尻尾が条件反射で動いてしまうので、誤魔化せなかったらしい……なんかゴメン。


「人族の町では絶対数が少なすぎて、持っているだけでトラブルの元になるからな。町の奴らには知らせていない」


「そうだったんですか。私達、絶対言いませんから。でも、確かにマジックバッグ持っている人って今まで一度も見たことないです。高いだけじゃなくて数自体も少なかったんですね」


「あれ? でもマールさんの魔道具屋に一個だけ売ってたような?」


「ああっ、確かに」


「あるにはあるが……あの店主、金を積まれても売るつもりはないみたいだったぞ」


 客寄せ的な意味合いと、店の格のために一つだけ置いてあるって事らしい。


「そうだったんですか」


「ああ。じゃあもうバレた事だしあっちのも取ってくるか。ここは頼む」


「はい」


「分かった」


 丸ごと回収してくると言って、ラグナードが残り二体のある場所へ向かっていく。


 乱立する樹木と背の高い草藪、不規則に隆起する地形により、三頭の倒れた位置は近いのにそれぞれが微妙に死角になっているため、すぐにその姿は見えなくなった。





「……何か悪いことしちゃいましたね」


「うん、そうね」


「秘密を暴くつもりはなかったんですけど……」


「……うん」


 小さな感情の揺れも隠せない素直過ぎる耳と尻尾は見ていて可愛いし、モフりたいほど大好きなんだけど、獣人族にとっては弱点なんだ。

 なので、すっぽりとフードで覆い隠す事が多いらしいんだけど。でも、私達と行動する時にはいつも被っていない。パーティーメンバーとして信用してくれているんだと思う。


 まあ私達にも『幸運』スキル持ちっていう秘密があるし、口は固いから誰にも言わないけどね。まあ言うほどの知り合いがいないという、悲しい理由もあるけどね!?


 この小さな辺境の町では、獣人族とエルフ族が一緒に行動しているだけで目立つはずだから、これ以上余計な火種は増やしたくない。


 ――はぁ、マジックバッグって、もっとこうファンタジーっぽくて夢のあるアイテムだと思ったんだけどなぁ。ここでは人の欲を強く刺激してしまうものみたい。気を付けないと。


「秘密にすることがいっぱい増えてきて、なんだか怖いですね」


「ねっ」


 本当そうだよ、怖いって。色々とバレない内に、この町から出る事を考えた方がいいのかもね……。




 マジックバッグに仕舞われた二頭分のお肉を持って、急いで彼が戻ってきた。どうやら『索敵』に魔物の反応があり、数が増えてきたらしい。


 魔物達も雨の影響で活性化しているから、普段よりよく動き回っているし、この臭いだからここに長居するほど危険なのは分かっていたけど。

 まあ彼ならこれくらい、私たちというお荷物がなければ平気で切り抜けられるんだろうけどね。


「じゃあ行こうか」


「「了解」」


 三葉草の花とかマジックキノコとかまだまだ採取したかったものもある。でも、私達の力量と消耗具合をみて、今日はこれ以上奥に行かないと決断したみたいなので、素直に従った。


 離れる前には聖魔法の『浄化』を使い、三人についた汚れをきれいに落とす。追跡されないよう臭いも消し去ってから、ラグナードを先頭に来た道を戻るかたちで、素早くその場所から移動していった。





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