第133話 スモールボア 後編
ズドドドドドッーーーーー!!!
地響きと共に、スピードに乗った魔物の反応が急速に迫って来たっ。
うわっ、分かりやっすっ!
さっきまで散々、隠密が得意なサイレントキラー・プランツを相手にしていたからか、めちゃくちゃ騒々しく感じる。魔草が頭脳派ならこっちは肉体派。思い込んだら一直線って感じ?
スモールボアは、一度ターゲットを決めて走り出したら急にはやめられない止まれないという猪型の魔物。
私達の方に向かい、勢いよく突進してきているので音がどんどん大きくなってくる。近づくのが速いって! もうこれトップスピードが出てるんじゃない!? すぐに遭遇しそうっ。
――落ち着け、私……シミュレーション通りやれば必ずできるはずだから!
先頭を走る一番大きな魔力を持つスモールボアはラグナードが、最後尾を走る一番魔力の少ない個体はラグナードの補助を受けてリノが倒す予定。
私の担当は二番目に走って来る奴だ。
いつものようにせっせと樹によじ登り、息を潜めて迎え撃つ準備をする。
その僅かな間に早くも彼の魔法が放たれ、矢のように森の奥へと吸い込まれていった。
ここからでは木々の隙間に隠れてよく見えない。でも、一際騒がしい音が聞こえた後、一体分の反応が『索敵』から消えた。
すぐそこまで迫っていた先頭の一体を、あっさりと葬り去ってしまったようです……早っ!
――これで残りは二体。
殆ど遅れること無く飛び出してきた黒い塊が私の獲物。
――大きいっ。
圧迫感で息苦しいほどだが必死に呼吸を整える。
切れ味の鋭いナイフで切り裂くイメージで魔力を練り、素早く発動させ……。
先手必勝、当たれ!
『
シュババッと鋭い音を立て、風の刃が空気を切り裂きながら飛ぶ。
「ガァアァッッッ――――――!?」
よしっ、顔面に命中した!
さすがに的が大きいので外すことはない。
魔法の刀に切り裂かれたスモールボアは、悲鳴を上げながら体勢を崩す。
予定通り、初動で突進の勢いを殺しきった。
その隙を見逃さず、間髪いれず第二打を叩き込む。
狙いは魔核、魔物の弱点。この近さなら外しはしないから、落ち着いて……。
『|
こっちも命中! 正確に当てきった。
弱点である魔核を貫かれ、一、二歩ふらついた後、ドオッとその場に倒れ込み、動かなくなった。
ふうぅ、終わった。正面から対峙すると山のようで、凄い迫力だった。ドキドキしずぎて胸が痛い。
実際に倒れたのを見ると、体感したほど大きくはなかった。多分、恐怖からか膨張して見えていたみたいね……。
遅れること数十秒、リノが受け持つ最後の一頭が肉眼で見えてきたっ。
地響きを立てながら、一直線に突っ込んでくる。
彼女の場合、どうやらそのスモールボアの特性を利用することにしたらしく、大きな樹を背後にしてその姿を晒してしっかりと立っていた。
体は小さくとも、思いきりがいいんだよね。前衛向きと言うか。あの迫力を目の前にして、よく逃げ出さずに立っていられるっ。私なら絶対無理!
まずは先制してラグナードの土魔法が放たれるっ。
『
バチバチと痛そうな音を響かせ雨霰とその身に降りかかったっ。
突進の勢いが半分ほどにガクリと落ちる。
それでも前に進む力はバカみたいに止まらない。 転がるように突っ込んでくるっ。危ないぃぃっ。ううっ、 作戦だと分かっていても心臓に悪いって!
怖いほど目の前まで来た、その瞬間……。
リノがタイミングを計って、サッと横っ飛びに避けたっ。
「ギュアァッ!?」
ズガガガッと大きな音を立て、スモールボアが頭から木に突っ込む!
……曲がりきれなかったようだ。おバカさんだから。
その衝撃は大きく、巨木を揺らし、頭上に大量の葉や枝の雨を降らせたほどで……。
頑強が取り柄の奴も、さすがに目を回し足元がおぼつかない。
すかさず懐に飛び込み、思いっきり剣で突いて止めを刺したっ。
その一撃が、確実に急所を抉る。
一瞬、ピタリ……と動きを止めた後、重たい音を立てながらゆっくりとスモールボアが倒れていく……。
おおっ、無事に倒しきったよ……本当よかった。お見事です!
これで私の『索敵』範囲内には、反応がなくなった訳だけど……。
「……まだ、いる?」
「いや……とりあえず今のところはまだ大丈夫だ。お疲れさん」
思わずリノと顔を見合せ、ほっと安堵の息を吐いた。ラグナードの『索敵』範囲は広いから一安心です。
「ありがとうございます。これ以上、連戦にならなくて良かったです……」
「本当、そうだよね。助かった」
さて、後はこの大量の素材をどうするかだけど……。
「まあ、流石に全部は持ち帰れないよね」
「そうだな。勿体無いが選別することにしよう」
「……はい、仕方ないですよね」
三体分のスモールボアの解体と、広範囲に散らばっている大量のサイレントキラー・プランツの実。
幸い、短時間の安全なら確保出来たようなので、それぞれの得意分野で手分けして作業することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます