第132話 スモールボア 前編



 その後も息つく間もなく、音や魔力に惹かれて次から次へと集まって来るサイレントキラー・プランツ達。

 際限なく感じるけど、焦らないことを肝に銘じて一体ずつ着実に倒していった。


 奴らの強さは想定内だからいいんだけど、何しろ体色変化の特性を武器に背景に溶け込み過ぎているので、初動が見つけにくく戦い辛い。

 その上、仲間意識でもあるのか、あるいは北の森の中では協力しないと生き残れないほど弱いからなのか、たまに連携して襲いかかってくる個体もあって油断がならない。


 ――なんというか、この世界の植物って全体的に賢すぎないですかね? その内喋りだしそう……。


 パッと見たその瞬間に動いてなければ、リノには全く区別がつかないし、魔物化したものは私の『索敵』レベルでは反応が鈍く接近を許しやすい。集団で来られると死角に入られそうで怖いんだよね。


 全方向を常にじーっと見張っているという訳にもいかないし、ちょっとこれはヤバいかも?




 ……初めは行けると思ったんだけどね。


 思ったより草木が邪魔で視界が通らず、不規則に後ろ以外の全方向から来るのをカバーできていないと言うか。私達だけでこの数と戦うのは厳しいかも?


 次第に不安を感じながらも感覚を研ぎ澄ませて必死に戦っていた。


 最終的にその手のピンチには、すかさずラグナードが助けに入ってくれたので怪我なく無事に乗り越えられたんですけどね。ほんと手がかかる奴らですみません……。


 こうして時々、彼の絶妙なサポートを受けながら、襲ってくる端から次々と倒しまくっていった。




「……来たぞ。猪型の魔物だな」


「えっ、やっぱり?」


「ははっ、来ちゃいましたか……」


 こっちはまだまだサイレントキラー・プランツ達と格闘中なんですけどね!? 


 魔物は当然、私達の事情なんか知ったこっちゃないし、戦闘が終わるまで都合良く待ってくれたりはしない。


「この感じは……スモールボアだな」


 スモールボアか……それって確か、フォレストボアより一回り小さなイノシシ型の魔物で、その中で速さに特化していた個体だったはず。それを加味すると、戦闘能力はホブゴブリンを少し下回るくらい。

 ボア系の魔物は、獲物を見つけると一直線に突き進む特性があって、そういう猪突猛進なところは野生の猪と一緒だと「森の魔物辞典」にも書いてあった。


 今の私達の実力だと、一対一なら正面からまともに戦わなければという条件は付くが、何とか勝てる相手だ。


「すぐに到着しそう?」


「いや……突っ込んで来ないな? ゆっくり動いているし、途中で実を食べながら追って来てる……のか?」


 まだ彼の『索敵』スキルに掛かるギリギリの範囲にいるらしく、少し考えながらも答えてくれた。


「方向はあっちだ。数は三体。向こうはまだ俺達に気付いてないっぽいな」


「でも、ここを目指して来そうなんですよね?」


「一ヶ所に大量の魔力と好物が集結しているしね」


「そうだな。これだけあるとまず間違いなく来る」


 残念ながら、来ることはもう決定らしいよ。


 また数体、感知したサイレントキラープランツを倒し、周囲の安全を確保してから、彼の示した方角に『索敵』を使ってみる。


 ……うん、私のにも引っ掛かってきた。と言う事は距離にして1km以内、もうすぐ見えてくるか……。




 二種類同時に相手をするのはまだ危険だと判断したラグナードが、残っていた辺り一面のサイレントキラー・プランツを、あっという間に魔法で殲滅してくれた。一瞬で十数体を……凄い! 移動速度の差を考えると、一先ずこの辺りでいいらしい。


 と言うわけで、この場所で迎え撃つ準備が一気に整ってしまった。


 まあ、そこら辺に散らばっているサイレントキラー・プランツの実は全然拾いきれてないけどね。いくつか諦めることになるのは仕方がない。


「ううっ……残念です」


「リノ、サイレントキラー・プランツの実をたっぷり食べた奴の肉は、肉肉しい中にも甘みがあって旨いんだぞ」


「……本当ですか?」


「間違いない。フォレストボアよりずっと柔らかいしな」


 フォレスト・ボアのお肉って、祝勝会の時に皆で食べたあの屋台の串焼き肉だよね……。 肉質は少し固めだったけど、それがまたちゃんとお肉を食べてるって感じがして中々美味しかったやつだ。


 今回のはそれより柔らかくて甘みがあるのか……なにそれ美味しそう。


「私も食べてみたいなっ」


「ああ、そうだな。よしっ、自分達用のも確保するか」


「いいですねっ。じゃあ、私はお肉の為にも頑張ります!」


「う、うん、頑張れ。んじゃ、お出迎えしようか!」


「「了解!!」」




 短い待ち時間を利用して、ラグナードからスモールボア討伐について軽くレクチャーしてもらった。


 それを受けて、引き続き風魔法を使う事に決める。


 レベル2の『風刀ウィンドカッター』はまだ覚えたてだけど、森の中での戦闘では火魔法より使い勝手がいいので、ここしばらくずっと使ってきたんだ。

 お陰で実戦での経験値をしっかりと稼げていて、徐々に精度と威力が増しているんだよね。


 命中したらスモールボアと言えど吹っ飛ばせるくらいはあるとラグナードにもお墨付きを貰ったし、自信を持って対処したい。


 ただ、猪型の魔物の中では最小クラスとはいえ、体高が私の身長以上ある奴がスピードに乗って突進してくる訳でね? 対峙するのは初めてで緊張してるし、ちょっと怖いんだよ。


 ……『精神耐性』スキルにめっちゃ期待しとこう、うん。





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