第131話 見えない敵との戦い方



「ローザは確か、レベル2の風魔法が使えたな?」


「うん」 


「幸い周りは草薮だ。草が揺れるから全く居場所がわからないってことはない。まずはそこに『風刀』で一当てしてみるんだ。魔草のどこかに当たれば隠密が溶けて姿を現すから……」


「そこを叩けばいいんだね」


「その通り。いつものように二人で分担してやれるか?」


 それって、初撃の遠距離魔法を私が、その後に擬態が解けた奴の触手の足を切り離すのはリノがやるって事でいいんだよね。慣れたやり方だから効率的だし、連携を取りやすい。


 詳しい理由は不明だが、魔物は人の魔力が大好物らしく、それは魔物化したものも例外ではない。

 補食によって効率的に体内に魔力を吸収出来ると言われているので、感知されると追いかけてくるから、一箇所に留まる時間が短ければ短いほど安全なんだよね。


「うん、頑張る。初撃は任せて」


「はい、お願いします」


「それと、これだけ魔草が集まってくれば、すぐ他の魔物も寄ってくるはずだ。『索敵』にかかり次第教えるから、まずは目の前の敵に集中する事」


「分かりました」


「じゃあまずは二人に任せていいか? 様子を見て必要なら援護する……どうだ?」


 サイレントキラー・プランツは、野草が魔物化したものだから、魔石もないし弱い。倒し方も教えてもらったし、二人でやれば多少数が多くても対処できるはず……。


「うん、大丈夫」


「はいっ、やってみます」


「よし、じゃあ少し場所を移るか」


 ここだと、奴らが身を潜めるのに良さそうな手頃な枝がすぐ近くまで伸びていて危ないもんね。触手を使い、木登りするのも得意らしいから気を付けないと。


 遭遇まであまり時間はないらしいけど、少しでも有利に戦えそうな場所へと移動する事にした。







『索敵』は彼に任せ、目の前に来るであろう敵に集中する。


 この中途半端に待っている時間って言うのが落ち着かないんだよね……ドキドキするなぁもう。


 樹木に潜まれて上から奇襲されることがないようにと、比較的頭上近くに枝がない場所を選び、垂れ下がって邪魔な蔓なども切り落としておいた。これなら、三人で動き回るだけの余裕はありそう。


 ラグナードが後方に下がり、一番前にリノが出て来て半剣を構えて待つ。


 私もいつ奴らが現れてもいいように、魔法を放つ準備をしてその斜め後ろに立った。


「……来たな」


『触覚強化』された耳が、囁くように呟かれた彼の言葉をしっかりと拾った。


「どの方向が先?」


「まずは右側」


 とヒソヒソ話していたところで、気配が変わったと言うか、奥からこっちに向かってくる微かな音が聞こえてきた。まだ、乱立する木々に隠れて直接見ることは出来ないけど……もう近い。


「準備はいいか。今からお目当ての素材が群れをなして来るぞ」


「うん、大丈夫。まずは魔法で先制して止める」


「ふふっ、お出迎えの準備はバッチリです」


 二人して了承を示し、右前方に注意を向けた。






 サイレントキラー・プランツは、フォレスト・ファンガスと比べるとずっと足が速いと聞いている。

 魔物化した足……元は根だった細く長い触手を、蛇が這うようにスルスルと動かしては、森の中を滑るように移動してくるらしい。


 もう、視界に入るはず。


 ラグナードに指示された方角へと、感覚を研ぎ澄ますイメージで『聴覚強化』と『視覚強化』スキルを使って探していると……。


 う~ん? 


 あれ、今の……。


 あ、見えた!


 前方の巨木の陰、木々の隙間辺りで微かに草が動いたのが分かった。


 よしよし、本体はステルス化していても向こうも移動中なら見破る事が出来る。これなら大丈夫そう。


 とにかくまずは当てさえすればいいんだ。


 損傷が大きいほど擬態も解け安いと教えて貰ったので、精度は気にしない。


 魔草が少しでも早く可視化できるよう、どの部分でもいいから魔法で切ってしまおう。


 草音を頼りにレベル2の風魔法を放つ。



風刀ウィンドカッター』!



 シュパっと軽い音を立てて、奴がいるであろう草薮付近に魔法が当たる。


 巻き込まれた草も含め、刈り取られた魔草が宙を舞った。


 うんうん、私も地味に成長してるね。前より確実に技の威力が増しているっ。


 着弾した箇所を見ると、サイレントキラー・プランツの姿がちゃんと露わになっている。成功だ。


 蠢いているのをよく見ると、どうやら二体いたらしい。動いている姿は、なんというか色彩が色彩だけにグロテスクだなぁ。それにさっきの個体より大きい……と言うか長い?


 その細長い身体を使って、すぐに突っ込んでくる。


 とはいえ、まだ数も少ないので心配する必要も無さそうだ。


 抜き身の半剣を構えて待ち構えていたリノが、スッと横に動いて触手をかわした。

 一歩ずれるだけの最少の動作で間合いを外すと、その隙に素早く横凪ぎに剣を振り払う。


 更に触手の数が減り、根元まで近づき安くなった。後は次の一撃で、胴体と触手を切り離すだけ。


 危なげない手つきで半剣を操り、止めを刺す。


 魔物化した部分を切り離された二体は、パタリと動きを止めた。


 こうしてサイレントキラー・プランツとの初戦は、二人の連携が上手く行き、危なげなく倒しきることが出来た。





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