第130話 美味しいは……正義?
サイレントキラー・プランツも魔物化した野草の一種らしい。
色素変化が得意で、周囲の景色に素早く溶け込み姿を隠す。まるでカメレオンみたいな魔草だ。
延寿の木の周りは、毒素の強い葉が大量に落葉するせいなのか背の高い草も淘汰され開けていて見通しがよかったけど、少し離れると辺り一面草藪だらけになる。
彼等の特性である隠密を生かすには、これ以上ないフィールドなんだ。
不意打ちが得意な上、野草が魔物に変化したものだからまだ体内魔力も少なく『魔力感知』が難しくなるし。多少、魔力の含有量が上なだけだからね。
僅かそれくらいの違いしかない為に、『魔力感知』がレベル3の私でも全部を見切れない。レベル1のリノだとまだ、野草と一体化して見えてるんだろうなぁ。区別するのは厳しそう……。
ステルス機能に特化しているため、特に他の攻撃手段がないらしいのは救いなんだけどね。
というか現在進行形で、目の前の草藪が全体的にサワサワ動いているんですよ。
ええ、もちろんラグナードにも指摘されましたし、私自身も分かってはいるんです……姿形が見えないだけでそこに奴がいるのはね?
例え擬態が完璧で、自然に揺れる草藪そのものにしか見えなくても、『鑑定』したらバレバレですから……ステルス機能が見破れないだけでっ。
討伐方法としては、フォレスト・ファンガスと同じように、これにも魔物化した歩く足があるはずなので、そこを切り落とせばいいはずなんだけど……実体が見えないし魔石もないしで何処を狙えばいいのかよく分からない。
「大丈夫、奴らは弱くて遅い。全部見えなくても倒せるから」
何やら見えているらしいラグナードが、滑るように一歩前に出た。
私達を背に庇い、大剣を構えると、スパッと一閃で目の前の何かを切る。
その途端、ガサリッと草藪を押しつぶす音がしたっ。
おおっ、ようやく見えた!
思った以上に色鮮やかな姿だ。どっちかって言うと毒々しい感じにだけど!
視界を覆い隠していた薄い膜が取り払われたかのように、一気に全貌が明らかになる。
さっそくその姿をよく見てみると……。
「結構、大きかったんだね」
「はい。それにここまで接近されていたとは……目の前にいたんですか。分からなかったです」
「まあ、感知しにくいからな。仕方がない」
倒されて、急に可視化できるようになったサイレントキラー・プランツ。
全長は……1mほどかな。
まず目に付くのは黄色から橙色までの鮮やかな色味の果実だ。これは直径2cmほどと小さく固かった。
本体の方も負けていない。派手な配色なのは同じ、赤みがかったオレンジ色から深緑まであるマーブル模様になっている。形状も不思議で、こんがらがったロープみたいだった。
全体的にひょろ長く、細長い葉の表面や茎に生える腺毛からドロリとした粘着性の溶解液を分泌しているみたい。
その辺の小枝を拾って突っついてみたところネバネバとはしていたけど、即座に溶かす能力はなさそうで安心した。
これを使って他の生物に引っ付き、養分と魔力を吸収するっていうんだけど……蔓状の魔樹の小型版ってとこかな? 食虫植物っぽいね。
今回、採取可能なのは色鮮やかな果実のみ。とても美味しいので好きな人も多く常に品薄状態なんだとか。
ただ、美味しいだけが人気の理由ではない。
――もっと別の価値があるらしいんだよ……。
実はこの果実、食べる事で多幸感や爽快感を得られるそう。それに眠気や疲労も一気に取れるみたいなんだ。
なので一般的に、薬やポーションの代わりとしてよく利用されるんだとか。
まあ使用後には、倦怠感とか疲労感が襲ってくるので、効能も良いことばかりじゃ無さそうだけどね……。
確かに、とっても美味しい上に食べた時の効果まで高いと、多くの人がまた食べたくなるっていうのも分かるよ、うん。不思議じゃない……けど。
でもね……。
一度に大量に摂取をすると、幻覚や幻聴などの症状が急速に出る可能性があると言われているみたいんだ。適量を守らないと危ないらしいよ。
――ねぇ、それって何だか麻薬みたいじゃない?
いくら美味しくても、精神を操る実な訳だしちょっと食べるの怖い……異世界まで来て人間やめたくないし。いやまあすでに人間はやめてるけどエルフまでやめたくないし。
危険じゃないのかと聞いてみたら、こうゆう効能だとやっぱり依存の危険性は高く、溺れる人もいるらしい。
でも、たくさん食べなければ然程影響は出ないので、そこは自己責任でってことのようだった。
薬として使えないのは、採取時期や取れる魔草により、成分の種類も含有量も違い品質が安定しないからだそう。薬や毒よりも安価に、嗜好品扱いされて普通に売られているみたい。
二人の反応を見ても、それほど危険な果実だとは考えていないっぽいね。私が気にし過ぎなのかな。
ともかく、普通の果実より高値が付くというので採取をする事に……。
一体から採取出来るのは多くて二十個くらいだそうだけど、今回のには二つだけだ。
「……少ないな。何かに食べられた後かもしれない」
「この実が魔物にとっても好物だから?」
「そうだ。特に猪型の魔物がよく探している実なんだよ」
一体ずつなら弱いサイレントキラー・プランツだけど、森の中で出会うと危険だと言われるのは、奇襲されたり集団で襲われる事がある他にも、その実を狙って寄って来る魔物がいるからなんだよね。
「とりあえず、今はまだ近くに魔草以外は来てないってことなんでしょうか?」
「ああ。だが、時間の問題だろう。やはりこれは延寿の樹に惹かれて寄って来てるとみていい」
「じゃあ、さっさとここを離れた方がいいですよね」
「それなんだがな。足が遅いとはいえ、先にサイレントキラー・プランツの群れがこっちに来そうだ。反応は延寿の樹の方角以外、全てにある」
囲まれたか。下手に逃げるより、敵の強さが分かっている今……。
「……ここで迎え撃つ方がいいんだね」
「そうだ。その方がいい」
本来ならひっそりと音もなく忍び寄る奇襲戦法を得意としているはずなのに、延寿の樹が落とした葉の魔力に反応しているのか、あるいは何かに追いかけられているのか……サイレントキラー・プランツの集団が近づいてきているのは確からしい。
でも、よく見えない敵との戦いって、どうすればいいんだろ?
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