第135話 その花の名は



 途中、迂回するほどではない魔物はスピード重視で討伐しながら突っ切って進む。

 一度通った道とはいえ、隆起する木の根や自然の段差もあって歩きづらいことに変わりはない。


 ただ、前に進むほどに木々が小さくなっていき、木漏れ日も入り薄暗さもマシになっていったので、徐々に進む速度は上がっていった。





「よし、ここまでくれば大丈夫だろう」


「よ、よかったです……」


「ふうぅ、喉渇いた」


 丁度良くぽっかりと空いた空間に出たので、ここで一旦休憩を取ることに決めた。このまま一気に森を抜ける方が、かえって危険度が増すと判断したらしい。

 ラグナードはともかく、私とリノは汗だくになってるもんね……はあぁぁぁ、疲れたぁ。


 森の外周付近に近づきつつあるので、私の『索敵』には危険な個体の反応はない。彼のにも感知がないそうなので、しばらくは安全に過ごせそうだ。


 手持ちの保存食を食べ水分を補給しながら、改めて周りを見てみるとよく陽が当たるからか、まず水白茸が大量に生えてるのが目についた。

 何かに食べられた跡とかも結構あるけど、森の中だからよく成長したみたいで一つひとつが大きい。

 切り株や倒木にも他の種類の茸がびっしりと生えているし、傷止草や甘草などの薬草や香草も次々と見つかる。


 北の森には、食料や薬となる素材が非常に多く生えているんだけど、雨上がり後は特にそれが顕著になるよね。

 勿論、有毒な物もあるけど私達には『鑑定』スキルがあるので間違えることもないから。

 魔物も出るし危険なんだけど、こうして新鮮で美味しい食材をたくさん見つける事が出来るのはうれしいな。


「じゃあ、この場所も素材の宝庫なんですね」


「うん。森の恵みがいっぱいだよ」


「いいですねぇ」


 ざっと見た感じではあまり珍しいものはないみたいだけど、選り好みしなければ取り放題といっていい。


 この中に三つ葉草の花もあるともっといいのにと期待しながら『鑑定』してみたんだけど……。


 う~ん、残念ながらないみたい。ラグナードに聞いてみたら、やっぱりあれは森の奥に行かないと無理なんだって……残念。




 ――でも、別の薬花が満開だったんだよね。


「あれは発光花だな。下級のキュアポーションとヒールポーションの材料になる」


「へぇ、あれが……」


 小さくてきれいな花だなぁ。ちょっと『鑑定』してみよう。




発光花ハッコウカ:薬花


 効能:HP・MP微量回復効果 常態異常微量回復効果


 可食:生食不可   

    乾燥させたものはHP・MP微量回復効果が付く

    ポーションにも使う

   

 採取:銅貨程の小さな花で冬以外は採取可能

    一株に50~100ぐらい固まって咲く    

    完全に花弁が開いて発光しているものが摘み頃 】




 と出た。確かに花が発光してるよ。相変わらずこの世界の植物って、摘み頃のものはよく自己主張するよね。名称も分かりやすいし、いいんだけどさ。


「キラキラと光ってますね。綺麗です」


「本当だね。今日は摘み採れる状態の花も多そう。これも雨降りの後だからなのかな」


「そうだと思います。これなら嵩張りませんし、摘んで行ってもいいですか?」


 時間的にはまだまだ余裕はあるし、ラグナードがマジックバッグを所有していると分かったことで、少しくらい荷物が増えても大丈夫になったはず。

 薬にもお茶にもなる汎用性の高い花なので、自分達で使う分も確保したいんだけど……いいかな?


「……まあ、少しならいいか。じゃあその間に、残り二体の解体もここでやってしまおうか」


「はいっ、分かりました」




 と言うわけで先程と同じように、スモールボアの解体を二人がしている間だけ、私が周りの素材を採取することになった。


 まずは一体、マジックバッグから取り出しているのを横目で見ながら、発光花を摘み取っていく。よく発光しているからちょっと眩しかったけど、頑張って採取したよ。


 猪型の魔物の中では小さなスモールボアとはいえ、二体分の解体には時間が掛かるので、発光花以外の薬草や香草、茸なんかも集める時間があった。

 その場で乾燥させてもいいものは魔法で乾燥させ、嵩を減らしてなんとか背負子に収まるように調整していく。

 いくらマジックバッグがあるからといっても、バレるわけにはいかないから、運ぶ量もなるべくいつも通りにしないとね。

 どこで誰に見られているか分からないから、二体のスモールボアのお肉以外は全て、三人で持てる分だけにするつもり。


 まだ十二時前だけど、解体が終わったらこのまま森の外へ出て、街道を通り町に戻る予定。ただ道々、雨が降った後にしか採れない水光茸を採取するのでその分の容量を残しておかないとだから、それを計算しながら詰めていった。







 あれから無事に町まで戻り、早速冒険者ギルドへ向かった。雨降り後だからか、この時間にしては賑わっている方かな?


 活動時間は短くとも、いつもより多くの成果を上げたのは皆同じみたいで、冒険者達にも笑顔が溢れている。嬉しそうで何よりです。


 穏やかな活気の中、受付も混乱なく進み、すぐにエドさんに査定してもらえた。


 ポーション用の素材以外のものを色々と買い取りに出したんだけど、その中でも特に乳茸とサイレントキラー・プランツの果実が喜ばれたよね。


 どちらも入荷待ちだったらしく、報償金を上乗せして払って貰えたんだ。頑張って手に入れた甲斐があったよ、よかった!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る