第120話 女の子らしい会話って……
小さな籠に盛られた二種類の果物。
色からして珍しい。茶色に黒い縞がある実と、シルエラさんの瞳のような透き通った空色の実。市場とかではあまり見ない実のような?
――まず、一つ目。
茶色に黒い縞のあるこの果物は「チョコレートの実」というらしい。
形は楕円形で鶏卵ぐらいの大きさ。皮を剥いてみると果肉はミルクチョコレートのような色をしていて、味の方はまんまチョコレートのようだけど、甘過ぎず食べやすい感じ。少し、ブラックサポテに似ているかも……?
「美味しいっ。初めて食べましたけど、甘くて深い味わいですね、これ!」
「ふふっ。果物なのにお菓子みたいな面白い味でしょ」
「本当に。食感も果物らしくなくて不思議ですし」
手を加えずそのまま食べるだけで、レアで濃厚なチョコの風味があり、まるでガトーショコラを味わっているような感じなんだよね。はぁ、美味しい……。
これがあればもう、カカオとかいらないんじゃないってくらい。カカオがこの世界にあるかどうかは分からないけどさ。
火を通しても味は飛ばないらしくて、実際にこの実はお菓子作りにも使用されているんだって。
「火加減ひとつで、微妙に風味が変わるの。料理人の腕が試される食材でもあるわ」
「へぇ、このままでも十分美味しいですけど。作る人によって、違うチョコ味が楽しめるなら、食べてみたいですねぇ」
日本でも、チョコレートのお菓子って山ほど種類があったもんね。国によっても好みが違っていたし、この世界でもチョコ味は人気らしいし、期待出来そう。
しかし、パンの実を初めて食べた時もほぼパンと変わらない食感に驚いたけど、チョコレートの実にもびっくりだよ。両方共、木に生っている果実っていうのがね。調理済みのと変わらないものが生る木があるって、本当ファンタジーしてるなぁ。
前の世界でも変わった果物はたくさんあったけど、ここまで衝撃的なのはなかった。
この分だと、知らないだけでもっと色々不思議植物ってありそう……。
「ドライフルーツにしてもまた、味が変わって美味しいのよ」
「どんなのになるんですか?」
「少しね、味が締まって苦味が出てくるの。それがまた、いい風味になるのよ」
傷みやすいので、生食よりもむしろドライにしたものの方が手に入りやすいみたいだけど、今までドライフルーツのお店に行っても見かけなかったのは、売り出されてもすぐ無くなるかららしい。
甘味に少しの苦味が加わって味に程好い変化が起きる他、栄養価も高くなり男の人にも食べやすい、日持ちのする人気のおやつになるんだとか! ブラックチョコみたいになるって事かな? う~ん、不思議。
――そして、二つ目……。
こちらの空色の果実は、「リプスの実」と言うらしい。
「綺麗な色の果実でしょう?」
「ええ、とっても。どんな味なのか、想像がつかないです」
「ふふっ、美味しいわよ。食べてみて」
「はいっ、いただきます」
チョコレートの実より一回り小さく、コロンとしたまん丸な形がかわいらしい。
皮ごと食べられるということでさっそく一口齧ると、シャクリッと小気味良い音がして、程よい酸味と甘みが果汁と共に口の中いっぱいに広がった。
「……っ! これも美味しいですっ」
見た目はともかく味は梨っぽいかな? 食感もそうだし、食べた時にジュワーっと果汁が溢れてくるのも似ているかも。あっという間に一つ、平らげてしまった。
「そうでしょう? これも傷みやすいから生食できる新鮮なものは滅多に出回らないのよね」
「それは、残念ですね……」
新鮮なものほど味がよく、栄養価も高いみたい。こんなに美味しいのに手に入りにくいとか……甘味好きのリノやラグナードにも食べさせてあげたいけど、無理かなぁ。
いや~それにしても美味しかった、二つとも至福の味がしたよ。とっても満足です!
「稀少な果物をありがとうございました、シルエラさん」
「ふふっ、喜んで貰えて嬉しいわ。また手に入ったらご馳走するわね」
「わぁ、楽しみにしてます!」
シルエラさんによると、今回のはエルフの里から今朝、時空間魔法を使って取り寄せてくれたものらしく、採れ立てでとっても新鮮なんだとか。だから余計に美味しく感じたんだね。
ボトルゴードの町周辺の森でも採取ポイントはあるみたいだけど、奥の方まで行かなきゃダメなんだって。
それに、エルフの里で採れるものには更に、HP・MPを回復させる効果も追加であるらしいから、同じものを手に入れるのはやっぱり無理でした。
でも、そう言われてみると、確かに今朝がたの作業で若干疲れていた身体に、食べてすぐ実感できるほど効いている気がする……本当にすごいスーパーフルーツだよね!
その後もシルエラさんお手製の、魔力を含んだ焼き菓子、こちらもHP・MP回復効果のある木の実と一緒に焼きしめたもの(これも美味でした)を食べながら、ここ最近の様子を話していく。
主に、迷いの魔樹を含むトレントの討伐について話していたんだけど、次第に例の全身タイツの話になっていき、何故か性能について説明をするはめに……。
「まあ、 スライムにそんな利用方法があったなんて……。優秀なのねぇ、その新しいスーツというのは」
「ええ、はい。そうですね。見た目はちょっとアレですけど、確かに優秀なのは間違いないです……色々と。水分も以前ほど、その……節制しなくてよくなりましたし」
「まあ、女子は特に大変ですものね、その辺は」
「ええ、まあ。それに最近は、ひそかに水虫持ちの方々にも人気になっていてですね」
「……水虫?」
「はいっ。いやあの……む、蒸れないからって! 冒険者や兵士の皆さんってほらっ、重装備じゃないですか。あのタイツ、装着時は何故か余分な熱を奪ってくれるみたいでそれがいいってっ。サラッとしてて涼しく感じるほどなんですよ。それが快適だって噂が広がって、評判になってて……」
「ま、まあ。そんな効果まで……」
「そうなんです」
今までも魔法や魔道具を使ったり、聖魔法で治療してもらったり、塗り薬を買ったりとひそかに涙ぐましい努力をされていたみたいだけど、効果は一時的で再発しやすく、悩んでいる人がけっこう多かったらしい。
このスライム製の全身タイツという名の絶対防御スーツは、改良を重ねる内にだんだん性能が良くなっていって、今では身体から出したものは何でも吸い取ってくれるまでになった。
もちろん、水虫そのものを治す力はないけれど圧倒的に再発しにくくなったと、特に兵士さん達の間で評判になっているんだとか。
その為、いつでも買えるようにして欲しいという要望が日に日に大きくなってきているらしい。
「それに、これも最近分かったことなんですけど、蒸れないから水虫だけじゃなくて汗疹とか臭いも防いでくれるってかなり好評らしくて。それならいっそのこと魔物対策だけじゃなくて一般販売用に素材が少なくてすむ、下着型のを色々販売出来ないかって。まあ、スライムが全然足りないから増産は雨の月まで無理そうなんですけどね」
「そうなの。人族の便利な商品に対する情熱は相変わらずすごいわねぇ。私達は魔法で解決できるから、あまりそういった工夫をすることがないけれど」
「エルフは総魔法量が多いですもんね」
魔力総量は、長寿種族と比べて人族が一番少ない。人口は一番多いだけあって、中には高い魔力を持った者も生まれてくるけど、それもごくわずかだし。
なのでこれまでにも創意工夫し、魔方陣魔法や魔石を使った魔道具のような、魔力だけに頼らない、魔力効率のよいものをたくさん生み出してきたんだ。
……しかし、私はシルエラさんとのせっかくの優雅なお茶の時間に、こんな水虫だの汗疹だのスライムタイツだのと、汗臭くて残念な話題をしてていいものか。
もっとこう、女子会らしく可愛くて華やかな話題をしたかったのに何故こうなった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます